「自分に自信がない」と口にしたくなる日
司法書士として15年以上働いていても、「自分に自信があるか?」と問われると、答えに詰まってしまう。毎日真面目に仕事をこなしていても、ふとした瞬間に「自分なんかで大丈夫なんだろうか」と不安がよぎる。些細なミス、依頼者の不機嫌そうな反応、他の事務所との比較。どれもこれも、自信を削ってくる材料に思えてしまう。資格を取った当初は「これで何とかなる」と思っていたのに、年数を重ねるほど「これでいいのか?」という迷いばかりが増えていく。
朝の鏡に映る疲れた顔
毎朝、洗面所で鏡を見るたびに、思わずため息が出る。目の下のクマ、伸びた白髪、無精ひげ。見た目の問題というより、「また今日も始まるのか…」という気持ちが先に出てくる。自信がある人って、もっとシャキッとしてるんだろうなと、勝手に比べて落ち込む。自分の顔に「頼りがい」なんて滲んでる気がしない。どちらかといえば、「疲れた中年男性」という言葉がしっくりくる。そんな顔で、今日も誰かの大切な登記を扱う。自信が持てるわけがない。
「こんなんで大丈夫か?」と思いながら事務所へ
出勤途中、車の中でラジオを聴いていても、心ここにあらず。今日も予定はぎっしり、しかも内容はどれも「一歩間違えれば大ごと」なものばかり。相続、抵当権、会社設立…聞こえはいいが、責任の重さは尋常じゃない。それなのに自分の心は妙に不安定で、「自分で大丈夫か?」「失敗しないか?」という声が何度も頭をよぎる。誰にも相談できない不安を抱えたまま、今日も事務所のドアを開ける。
依頼人の前では平気なフリをする
事務所に来た依頼人の前では、なるべく笑顔で、落ち着いた声で対応する。でも内心は常に緊張と不安の連続だ。「この説明で本当に伝わってるだろうか?」「不備があったらどうしよう?」と頭の中はぐるぐる回っている。けれどそれを表に出すわけにはいかない。プロとしての顔を守らないといけないから。そんな日々を繰り返していると、「自信のなさを隠すこと」にばかり慣れて、本当の自信を育てる余裕がなくなっていく。
司法書士としての「自信」との距離
司法書士という肩書きがあることで、自信がつくのかといえば、そう単純ではない。むしろ「司法書士だからこそ、完璧でいなければ」と自分を追い詰めてしまうことの方が多い。世間の期待、依頼者の信頼、法律の重さ。そのすべてに応えるには、自信というよりも、耐久力が必要なのかもしれない。
資格は取った、でも胸を張れない
試験に受かったあの日は、確かに少しだけ誇らしかった。でもそれは一瞬で、実務の世界に飛び込んだとたん、「知らないこと」「分からないこと」に囲まれて、自信なんて吹き飛んでしまった。実務経験のある補助者の方がよほど仕事が早く、的確で、何度も自分の未熟さを思い知らされた。今でも、完璧な知識や判断を求められるたびに、「本当に自分でいいのか?」という声がどこからともなく聞こえてくる。
経験が増えるほど増すプレッシャー
年数を重ねれば自信がつくと思っていたけれど、現実は逆だった。経験を積むほど、「失敗できない案件」が増えていく。特に長年付き合いのあるお客様からの依頼となれば、信頼も期待も重くのしかかってくる。「あの先生なら大丈夫」と言われるたびに、心の中で「いや、ほんとはギリギリです」と呟いている。経験があるからこそ、怖さも知ってしまっている。だから、昔よりも慎重になり、不安も大きくなった。
「プロとして当然」という空気に押しつぶされる
司法書士という肩書きには、「ミスしない」「冷静である」「すべて把握している」という幻想がつきまとう。もちろん理想だ。でも人間だから、間違うこともあるし、感情だってある。なのに周囲からは「プロなんだから当然」という目で見られ、誰にも弱音を吐けない。たとえ無理をしてでも完璧を演じなければいけない場面が多すぎて、自分が壊れてしまいそうになることもある。自信を持つ余白すら与えてもらえない世界にいると感じる。
誰もが抱える「見えない不安」
見た目は自信満々に見える人でも、内心はどうか分からない。特にこの業界では、「自信がない」と言えば「頼りない」と思われてしまうという恐れがある。だから皆、口には出さないだけで、実は不安と戦いながら仕事をしているのかもしれない。
周りは優秀に見えてしまう現象
他の司法書士のSNSを見ていると、驚くほどスムーズに業務を回しているように見えるし、広報も上手で、事務所も洗練されている。そんな投稿を見るたびに、自分との落差に気づかされる。自分の事務所なんて、雑然としていて、ポンコツなプリンターがまだ現役。こういう小さな差が積み重なって、「やっぱり自分は…」という思考に陥る。
同業者のSNSを見ると落ち込む
仕事終わりにSNSを開いてしまった日。そこで目にしたのは、同業の先生が「大きな案件を無事完了しました!」という投稿に、たくさんの「いいね」がついている画面。自分はその日、細かい修正に追われてただけだった。誰に褒められるでもない日々。それでも比べてしまう。やっぱり、自信って他人の評価に左右されやすいんだなと痛感する。
「俺には無理かもな」と思った瞬間
あるとき、大きな相続案件を依頼された。複雑な構成で、関係者も多い。不安で眠れない夜が続き、「他の先生にお願いした方がいいのでは」と真剣に考えた。でも、そのとき思い出したのは、以前の依頼者が「先生にお願いしてよかった」と笑ってくれたこと。完璧じゃなくても、向き合う姿勢だけは持ち続けたい。自信はないけど、逃げずにやる。それが今の自分にできる精一杯の答えだった。