時間外対応に心が折れる

時間外対応に心が折れる

「もう終業後なんだけど」から始まる夜

終業後の事務所に残るのは、パソコンのファンの音と、ため息だけ。今日はこれで終わりにしようと思って帰り支度をしていたところに、電話が鳴る。時計を見ると19時48分。営業時間外だが、番号を見るといつもの依頼人。出るか出ないか、一瞬の間に頭の中で葛藤が渦を巻く。結局出てしまうのが、独立開業者の性なのかもしれない。

電話が鳴る音が怖くなってきた

かつては仕事の電話が鳴ると「チャンス」だと感じたものだった。だが今では違う。とくに夕方以降の着信音は、胃の奥にずしんと響く。「また何か問題か?」「今から書類?」そんな予感しかしないからだ。もはや“電話恐怖症”といっても過言ではない。昔、他の司法書士が「電話が鳴るだけで心拍数が上がる」と言っていたが、まさか自分もその域に達するとは思っていなかった。

「今、時間大丈夫ですか?」の破壊力

この一言、「今、時間大丈夫ですか?」。この言葉が嫌いだ。大丈夫じゃないから営業時間って設定してるんです。でもこの一言に「断りにくさ」が詰まっている。相手は気を使ってくれてるのかもしれない。でも、それを言われた瞬間に「いや、無理です」とは言えなくなる。心の中では「本当はもう帰って晩ごはん食べたかったんだけどな」と思いながら、引き出しからまたファイルを取り出す。

一度断ったら「冷たい人」扱いされる不安

以前、一度だけ「すみません、今もう終業してまして…」と丁寧に断ったことがある。すると次に依頼が来たのは数ヶ月後で、妙によそよそしい雰囲気だった。その間に別の司法書士に浮気されたと知った時、心の奥底がざわついた。「断ったら失客するかもしれない」という恐怖は、ずっと自営業者を縛ってくる鎖だ。結果、今日もまた「大丈夫ですよ」と答えてしまう。

土日祝、関係なく届くLINEとメール

この職業、いつから24時間365日稼働が前提になったのだろうか。カレンダーは赤いのに、通知は青く光る。友人の結婚式に出ていた日も、スマホに届いたメッセージを開いてしまった自分がいる。休日にまで仕事を引きずりたくないのに、まるで“精神的な監視”を受けているかのようだ。しかも、そういう時に限って、急ぎではない用件だったりする。

「緊急」って、本当に緊急ですか?

「至急でお願いします」という文言に、こちらがどれだけ振り回されているか。過去に「本当に今日中じゃないと困る」と言われて夕方から出張したが、蓋を開ければ「念のため、早めに済ませておきたかっただけ」と。あの時の徒労感と交通費を返してほしい。こちらが「緊急」だと判断する材料が欲しい。主観での“至急”は、ただの強要に見えてくる。

無視できない自分にも腹が立つ

通知を見なければいいのに、どうしても見てしまう。そして「返信はあとにしよう」と思っても、内容が気になって、結局すぐ対応してしまう。これはもう、性格の問題かもしれない。断れない、放っておけない、律儀すぎる。そうわかっていても変えられない。結局、自分の甘さが自分を追い詰めているのかもしれない。

休日の通知オフ、それでも気になって見てしまう

通知を切ればいい、それは何度も試した。LINEの通知オフ、メールのプッシュ通知もOFFにしてみた。でも“見ない努力”が逆にストレスになった。気づいたら何度もスマホを開いてしまっている。通知がなくても「来てるかもしれない」と思ってしまう。まるで依存症のように。これでは“休む”ことすらできない。体は休めても、心はずっと稼働中だ。

「時間外」の定義って、どこにあるのか

自営業にとって、終業時間はあってないようなもの。9時〜18時と書いてはいるが、実際には朝の7時から動き出し、夜の10時まで対応する日もある。はたして、自分の“営業時間”っていつなんだろう?とふと疑問に思う。そんな働き方、いつまで持つのだろうかと、時々怖くなる。

そもそも営業時間って誰が決めてるの?

自分で決めたはずの営業時間なのに、いつのまにか「実質無制限」になってしまっている。依頼人にとっては“営業時間外”という意識があまりないのかもしれない。夜遅くに「今から行ってもいいですか?」と言われたこともある。しかもそれが、一度や二度ではない。結局、こちらが時間外を守らなければ、誰も守ってくれないという現実がある。

サービス業じゃないけどサービス業のような

司法書士はサービス業ではないと、資格取得のときに聞いた覚えがある。でも実際の業務は、顧客対応、時間調整、説明対応、クレーム処理…どれを取ってもサービス業そのもの。なのに、サービス業としての給与体系でもなければ、サポート体制もない。結局、全部一人で背負うことになる。

善意がルールになる瞬間

一度「たまたま」時間外に対応したら、それが「当たり前」になってしまう。これは本当に怖い。相手にとっては、「この人は夜もやってくれる」という認識が根付いてしまうのだ。最初は親切心でやっていたことが、気づけば“暗黙の義務”になる。善意は、簡単にルールに変わる。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。