一人で背負いすぎる司法書士という生き方
地方で小さな司法書士事務所を営んでいると、すべてが「自分次第」になる瞬間が多い。依頼者の期待、事務処理、手続きの進行、期限の管理。もちろん事務員もいてくれて助かってはいるが、責任の矢面に立つのは常に自分だ。誰かに「これやっておいて」と気軽に任せられればどれだけ楽か。だけど、任せられる人がいない。結局、今日も夜遅くまで一人パソコンとにらめっこ。体より先に心が疲れていく。
「任せてください」の裏にある不安
依頼者に「お任せください」と伝えるたびに、胸の中では不安がよぎることがある。「本当に間違いないだろうか」「見落としはないか」。たった一つの記載ミスで信頼が揺らぐ世界。自信満々にふるまいながら、内心では毎回綱渡りをしているような気持ちになる。誰かに「これで大丈夫？」って一緒にチェックしてもらえるだけで、どれほど安心できるか。けれど現実には、自分しかいない。
頼られるばかりで、自分は誰にも頼れない
司法書士という職業柄、「相談される側」としての立場が定着してしまっている。たとえば友人関係でも、「ちょっと教えて」と聞かれることはあっても、「最近どう？」と心配してくれる人は少ない。気づけば、自分の悩みを誰にも話していない。何でもかんでも一人で抱えるクセがついてしまっていて、それがだんだん「相談する」という行動を遠ざけているのかもしれない。
「何でもできる人」だと勘違いされがち
「○○さんは何でも一人でこなせてすごいですね」と言われるたび、複雑な気持ちになる。確かに頑張ってはいる。でも、やらざるを得ないだけ。できるからやっているんじゃない。誰も代わりがいないから、やるしかないのだ。それを「器用な人」として評価されるたび、素直に喜べず、むしろ「助けて」と言えない立場に追い込まれていくような気がする。
小さな事務所だからこそ感じるプレッシャー
大手の事務所なら分業が進んでいて、自分の守備範囲がはっきりしているのだろう。でもうちは二人だけ。事務員には頼めないことも多く、結局自分で抱えるしかない。「ああ、あと3人いてくれたら」と思ったことは数知れない。責任感がプレッシャーに変わるまで、そう時間はかからない。誰かに「それ、代わってやろうか」と言われるだけで、救われた気持ちになるはずなのに。
事務員にまで気を使う、微妙な距離感
事務員とはいい関係を築いているつもりだが、やはり雇用主と従業員という関係には越えられない壁がある。例えば忙しい時でも、「もう少し残ってくれ」とは言いにくいし、言ったとしても申し訳なさが残る。だからつい、「自分でやっちゃったほうが楽かも」と考えてしまう。そしてまた一人で残業。悪循環だと分かっていても、誰かに気を使うことが面倒になってしまう。
不在にするのが怖くて休めない
たまの平日休みを取ったとしても、心から休めることがない。「もし電話があったら」「緊急で登記が必要と言われたら」と考えてしまい、結局スマホを手放せない。旅行も心から楽しめないし、病気になったらどうしようと不安ばかりが先に立つ。司法書士って、なんでこんなに「抜けられない」仕事なんだろうと、ふと思う。
本音を吐き出せる場所がない
愚痴を言うにも、相手が必要だ。でも地元には昔の友人も少ないし、同業者との飲み会なんて年に1回あるかないか。SNSでつぶやくこともできるが、それで本当に気が晴れるわけではない。本当は誰かに面と向かって、「しんどいわ」と言いたいだけなのに、その機会すらない。だから、こうして文章にして吐き出すしかないのかもしれない。
「大丈夫？」と聞かれることのありがたさ
以前、ふとした拍子に古い友人から「最近、大丈夫？」と聞かれたことがあった。その時、なぜか胸が詰まって、思わず黙り込んでしまった。たったその一言だけで、こんなにも自分が張りつめていたことに気づくなんて。誰かに「頼ってもいいんだよ」と言われることの価値は、思っている以上に大きい。言葉の力って、あるんだなと実感した。
世間話さえ、最近はまともにできていない
依頼者と話すときは、業務上のことばかり。スーパーで誰かに会っても、天気の話すらぎこちない。話し方を忘れたわけじゃない。でも、人と距離を取る癖がついてしまっているのかもしれない。思えば、最近「笑ったなあ」と思える瞬間が少ない。笑うって、ひとりじゃなかなかできないもんだ。
家に帰ってもテレビがしゃべるだけ
事務所を閉めて家に帰ると、誰もいない部屋。つけっぱなしのテレビがただ音を流している。誰かが話しているというだけで、寂しさが少し紛れる。でも、画面の中の人には相談できないし、愚痴を聞いてもらえるわけでもない。ときどき、家に誰かいたらなあと本気で思う。猫でもいい。いや、本当は人がいいけれど。
弱音を吐いたらダメな気がしてしまう
「弱音を吐く＝プロとして失格」そんな思い込みが、いつからか心の奥に根を張ってしまった気がする。誰かに弱さを見せた瞬間、信用を失うような気がして怖い。けれど、本当はみんな誰かに甘えたい。そういう気持ちを抑え込んで生きているから、心が硬くなっていくのだろう。少しぐらいは、素直になってもいいのかもしれない。
