「あなたは仕事ばかりね」と言われた記憶

「あなたは仕事ばかりね」と言われた記憶

「あなたは仕事ばかりね」と言われた、あの日のこと

「あなたって、ほんと仕事ばかりね」——その一言を言われたとき、何も返せなかった。ただ黙って笑って、ごまかすしかなかった。相手は、かつて少しだけいい感じだった女性。飲み会の帰りにふいに漏れたその言葉は、冗談のようでいて鋭く刺さった。確かにその通りだった。朝から晩まで働いて、土日も誰かの登記や相続のことばかり考えて、いつの間にか「仕事以外の自分」がいなくなっていた。

誰に言われたかよりも、なぜ響いたのか

その人に特別な感情があったわけじゃない。じゃあなぜ、こんなにもあの言葉が心に残ったのか。それは、自分でも薄々気づいていたことだったからだと思う。「自分は仕事に逃げてるんじゃないか」「本当は一人が寂しいんじゃないか」。そう思っていたところに、他人の言葉として突きつけられた。だからこそ、あの夜、帰り道でひとり歩きながら、自分がすごく虚しく感じた。

軽口のはずなのに、胸に残った一言

飲みの席での言葉なんて、だいたい軽口だ。でも人間って、不思議とそういう何気ない言葉のほうが記憶に残ったりする。「忙しそうだね」くらいなら聞き流せた。でも「仕事ばかりね」は違った。まるで「あなた、他に何かあるの?」と聞かれているような気がした。何も答えられない自分が情けなくて、その夜は、久しぶりに酒がまずかった。

仕事に逃げてると自分でも思っているから

司法書士の仕事は、真面目にやればやるほど、終わりが見えなくなる。人の人生の節目に関わる仕事だから、軽々しくもできない。だから、つい「誰かのために」と思ってのめり込んでしまう。でもそれは、本当に人のためなのか? それとも、自分が何者かでいたいという、ただの自己満足かもしれない。そんな問いが頭の中に住み着いて、日々の業務に影を落とす。

気づけば、予定のない夜が怖くなっていた

忙しい日々に慣れてしまうと、逆にぽっかりと空いた夜が怖くなる。「今日は仕事しない」と決めたはずなのに、気がつくとパソコンを開いてメールを確認している。「今日だけは自炊しよう」と思っても、コンビニで済ませてしまう。そういう日が続くと、仕事が自分を形作る鎧のようになっていることに気づく。その鎧を脱いだ自分には、何も残っていない気がしてしまう。

何も予定がないと、何もできない自分が見えてくる

土曜日の午後、ぽっかりと予定が空いた。映画でも観に行こうかとスマホで検索したが、面倒になってやめた。誰かを誘おうにも、誘えるような相手もいない。結局、事務所に戻って資料を整理していた。こうして「予定がないこと」が「不安」に変わる日々は、確実に心を蝕んでいる。でも、誰にも言えない。だって、きっと「それは贅沢な悩み」と片付けられてしまうから。

「働いてない自分」は、どうしてこんなに落ち着かないのか

人は休むために働くと言うけれど、休むことに罪悪感を抱くようになったら、それはもう健康的ではない。「何もしていない自分」が許せなくなると、どんどん仕事に依存していく。まるでそれが、生きている証明みたいに。実際、仕事以外の話題になると、会話が続かなくて焦る。趣味も、交友も、何かにのめり込む余裕もなくしてしまった今、残っているのは、「仕事ばかりの自分」だけだ。

独身・地方・司法書士。誰が話しかけてくれるのか

45歳、独身、地方都市で司法書士事務所を一人で切り盛り。こう書くと、それだけで「詰んでる感」が漂うのが悲しい。それを言葉に出す人はいない。でも、空気でわかる。友人たちは家族との時間を優先し、仕事関係者とはあくまで「業務上の会話」。孤独は、誰かに拒まれることよりも、誰にも必要とされていないと感じることから始まる。

婚活も飲み会も、だんだん苦手になっていく

30代のころは、まだ頑張っていた。婚活パーティーにも行ったし、知人の紹介も断らなかった。でも、何を話していいか分からない。「どんなお仕事なんですか?」と聞かれても、登記の話なんて面白いはずもない。無理に明るく振る舞っても、どうしても会話の端々に疲れが出る。次第に、「誰かと会う」という行為自体が面倒に思えてきて、今ではほとんど誘いを断ってしまう。

モテないのは知ってる。でも理由がわからない

自分が特別魅力的な人間じゃないことは、十分理解している。でも、なぜここまで女性に縁がないのか。顔か?年収か?性格か?…と考え出すとキリがない。たぶん、全部だろう。それに、そもそも他人と深く関わること自体を避けている自分に、誰かが惹かれるわけがないのだ。

たぶん、話すことが仕事の話ばかりだから

会話の引き出しが極端に少ない。趣味も特技も、自慢できることもない。だからつい、「最近あった相続の案件で…」なんて話を始めてしまう。相手は引き気味、そして自分は後悔。この繰り返しだ。話し方教室でも行こうかと思ったこともあるけれど、それすら「今は忙しいから」と後回し。気がつけば、また仕事に戻っている。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。