夜の静けさが、かえって不安を呼び寄せるようになった
昔は、夜が好きだった。電話も鳴らず、誰かに急かされることもなく、落ち着いた気持ちで書類整理ができる時間。けれど最近、その「静けさ」が逆にこたえるようになってきた。事務所にひとり残って作業していると、外の音のなさが不気味に思える。虫の声すら聞こえない日などは、「ここは自分しかいないのか？」なんて思ってしまう。仕事に追われてばかりいる日々、夜の静けさが、自分だけが取り残されたような感覚を増幅させるのだ。
昔は好きだった「静けさ」が今は落ち着かない
若い頃は、「誰にも邪魔されずに仕事ができる夜は最高」と思っていた。実際、開業当初は夜に集中して帳簿を見直したり、申請書の内容を整えたりしていた。深夜のラジオを聞きながら、ちょっとした達成感を味わっていたものだ。それが、今は落ち着かない。静かな空間に身を置くと、仕事の不安や人生の後悔が浮かんできてしまうのだ。だから最近は、深夜まで事務所に残ることが少なくなった。
静けさに包まれると、自分の存在の小ささを感じる
静まり返った空間にいると、「この仕事は誰かの役に立っているのか？」「自分は、ここにいて意味があるのか？」と考え始めてしまう。昼間は依頼者や関係者とのやりとりで、そういう思考から逃げられる。でも夜、ふと気が抜けた瞬間、そんな思いが襲ってくる。仕事がひと段落した瞬間にくるのは安堵ではなく、「で、明日はどうする？」という問いかけだったりする。
業務が一段落しても、心が休まらない夜
今日の登記が終わった、明日の準備も終えた。でもそれで心が休まるかというと、そうではない。むしろ「次に何か起きるかもしれない」という予感にそわそわしてしまう。依頼者からのクレームや、予期せぬ書類の不備が頭をよぎる。静かな夜にこそ、そうした不安が膨らんでしまう。まるで、自分の心の中の雑音だけが響いてくるようで、正直つらい。
耳鳴りのように浮かぶ「明日の不安」
夜になって、やっと事務所の照明を落とす。その瞬間、耳の奥で「キーン」という音が聞こえる気がする。実際には何も鳴っていないのに、不思議だ。もしかしたら、心がずっと緊張状態にあるのかもしれない。明日の予定を頭の中で何度も繰り返す。あの案件の登記識別情報は確かに出ていたか？あの銀行への回答は漏れていないか？小さな心配が、夜の静けさを通じて耳に迫ってくる。
登記ミス、依頼者対応、期限…無限ループの思考
「もしも登記でミスをしていたらどうしよう」「この依頼者の不安を取り除けなかったらどうなるだろう」…夜になると、それらがグルグルと頭を回る。考えても仕方ないとわかっていても、止まらない。ひとつ思い出すと、芋づる式に不安が引き出される。仕事に責任があるのは当然だが、それが夜の静寂に乗じて、どこまでも自分を追い詰めてくるのだ。
事務所経営の現実：眠れぬ夜が減らない理由
ひとりで事務所をやっていると、背負うものが多い。スタッフを雇っているとはいえ、最終判断をするのは自分だし、責任もすべて自分。寝る前になって、「あれもやっておけばよかった」とか「今日の言い方はまずかったかな」など、どこまでも思考が止まらなくなる。身体は疲れているのに、心が覚醒している。だからこそ、夜の静けさが怖い。眠れない夜が減らないのは、経営者の宿命なのかもしれない。
事務所に残るのがつらい夜もある
昔は夜の事務所が好きだった。書類の音だけが響く空間が落ち着いた。しかし、今ではその静けさが心を締めつける。特に、誰とも会話を交わさずに一日が終わった夜は、胸の奥にぽっかり穴が開いたような気分になる。音のない空間が、逆に「孤独」を強調してくる。誰かと仕事の話でもできればいいのにと思うが、そんな相手もいないのが現実だ。
ひとりで聞くキーボードの音がやけに響く
パチ、パチ、と打つキーボードの音。それだけが夜の事務所に響く。その音が、なぜか自分の心の空洞に反響している気がする。「自分、何やってるんだろうな」って思いながら、無言で作業を続ける。ふと窓の外を見ると、誰も歩いていない。自分が社会から切り離された場所で孤独に働いているように感じてしまうのだ。
夜中のメール返信に潜む孤独感
依頼者からのメールに、夜中に返信することがある。「こんな時間まで対応してくれてありがとうございます」と返ってくると、嬉しい反面、なんだか虚しくなることもある。自分はなぜここまで頑張ってるんだろう、と。感謝されることでかろうじて自分を保っているけれど、その実、心の中では「このままでいいのか」と問い続けている。
「誰のために働いてるんだろう」とふと思う瞬間
司法書士という仕事は、人の人生に関わる大事な場面に携われる仕事だ。それは誇らしい。でも、ふと「これは本当に自分のやりたいことだったのか？」と立ち止まる夜がある。生活のため、誰かの期待に応えるため、それも大事な理由だろう。けれど、自分の気持ちはどこにあるんだろう。静かな夜に問いかけるその声に、明確な答えはまだ見つからない。
それでも、また朝が来る
どれだけ苦しくても、どれだけ眠れなくても、朝は必ずやってくる。朝日が差し込む事務所でコーヒーを淹れながら、今日もなんとかやろうと思う。大きな変化はなくても、小さな積み重ねが意味を持つと信じて。誰かの役に立てるかもしれない、そう思いながら今日もデスクに向かう。
「辞めたい」とは思っても、続けている理由
何度も「もう辞めたい」と思った。でも辞めなかったのは、自分の仕事が誰かの人生の一部になっているからだ。登記ひとつで誰かの不安が解消される。法的な手続きをサポートすることで、明日を安心して迎えられる人がいる。自分はそのために存在しているんだと、ぎりぎりで踏みとどまっている。
同業の誰かが見てくれてるかもしれないから
この文章を読んでくれる司法書士の方がいるとしたら、それだけで救われる。たとえ直接会ったことがなくても、同じような夜を過ごしている人がいると思うと、少しだけ心が軽くなる。同業者とのつながりが希薄になりがちなこの業界で、こうして思いを共有できる場があることは貴重だと思う。
弱さを吐き出すことで、誰かの安心につながるなら
自分の弱さや愚痴をそのまま書くのは、少し勇気がいる。でも、それを読んだ誰かが「自分だけじゃない」と思ってくれたら、それは価値のあることだ。完璧じゃなくてもいい、落ち込む夜があってもいい。そう思える場所を、自分自身にも、そして読んでくれる誰かにも届けたい。
