事務員さんに救われる日々

事務員さんに救われる日々

孤独な事務所経営に差し込んだ光

司法書士という仕事は、華やかさとは程遠い。地方で事務所を構え、一人で仕事をしていた頃は特にそれを痛感していた。毎日毎日、申請書類とにらめっこし、ミスが許されないプレッシャーのなかで仕事を進める日々。相談する相手もいなければ、ねぎらいの言葉もない。朝から晩まで淡々と机に向かい、気がつけば一日が終わっている。そんな日常に光が差したのは、事務員さんが入ってくれた時だった。

一人きりで背負っていた重圧

開業してから数年間は、事務作業からお客様対応、法務局への書類提出まで、すべて自分一人でやっていた。仕事が増えるたびに、作業が雑になっていく自分がわかる。けれど、誰にも頼れない現実があった。経営が苦しい時期に、人を雇うという選択肢は頭になかった。何とか一人でやり切ろうと踏ん張っていたが、それは「やれる」ことと「耐えている」ことの違いを無視していたにすぎなかった。

相談相手がいないという現実

仕事の悩みも、書類の不安も、誰にも言えないまま胸に溜めていた。登記申請を前に、「これで本当に大丈夫だろうか」と思っても、確認してくれる人がいない。ミスが出ても、自分のせい。うまくいっても誰からも褒められない。何よりきつかったのは、「孤独」だった。誰かに「大丈夫だよ」と言ってもらえるだけで、どれほど心が救われたか。今だからこそわかるが、当時の自分には限界が見えていた。

自分の中で処理しきれないストレス

ストレスは確実に体と心を蝕んでいた。夜眠れなくなり、食事の味もしなくなった。机に向かっていても集中できず、書類の文言が頭に入ってこない。ひとつの打ち合わせに行くだけでぐったりと疲れてしまう。何か大きなミスをしてしまう前に、このままでは潰れてしまうと感じた。だけど、「誰かに助けを求める」ことすら、当時の自分にはできなかった。それが司法書士の宿命だと思い込んでいたのだ。

朝の電話一本に疲弊していた日々

朝一番にかかってくる電話。たったそれだけのことでも、胃がキリキリ痛むような日もあった。「登記まだですか?」という何気ない問いかけに、必要以上に責められている気がしてしまう。返答を考えるだけで疲れてしまい、午前中が潰れることも珍しくなかった。誰かに電話を代わってもらえたらどれだけ楽だろうと思いつつ、それすら叶わない。そんな朝が続いていたあの頃を、今でも時々思い出す。

事務員さんの入所、それがすべてを変えた

最初は思い切りが必要だった。人を雇うことで経費も増える。気を使う相手がひとり増える。でも、事務員さんが来てくれてからというもの、仕事の負担が格段に減った。しかも、それだけじゃなかった。精神的な支えという意味でも、事務員さんの存在は想像以上に大きかった。目の前に「味方」がいる、それだけでこんなにも安心できるとは思わなかった。

たった一人の味方がいる心強さ

どれだけ仕事が詰まっていても、「大丈夫です、私やっときますよ」と笑ってくれる人がいるだけで、心の中の緊張が少しずつほどけていくのを感じた。仕事のやり方を一緒に考えてくれたり、忘れがちな期限をそっと教えてくれたり。その存在は、ただの「人手」ではなかった。「この人がいるから頑張れる」と思わせてくれる相棒のような存在になっていった。

愚痴をこぼせるだけで気持ちが軽くなる

「ちょっと聞いてよ」と言える相手がいる。それだけで一日が違う。誰にも言えなかった登記官への不満や、理不尽な顧客の態度に対するモヤモヤを、ぽろっとこぼせるだけでスッと楽になる。聞かされる側も大変だろうが、事務員さんは嫌な顔ひとつせず、「それはムカつきますね」と笑ってくれる。その言葉がどれほど救いになったか、数えきれない。

雑務が減って本業に集中できるありがたさ

書類のコピーや郵送手配、電話応対といった雑務は、想像以上に時間と神経を使う。それを事務員さんが自然とこなしてくれることで、自分は登記の精査や法律相談など、本来の業務に集中できるようになった。結果的に仕事の質も効率も上がり、ミスも減った。事務員さんがいるだけで、事務所の「空気」まで変わったのを感じた。

地味だけど絶大な存在感

決して前に出てくるタイプではないけれど、事務員さんの存在は常に事務所の中心にある。日々の積み重ねこそが信頼を生むということを、彼女は背中で教えてくれる。自分がいかに感情で動いてしまいがちかを、冷静に受け止めてくれるその姿勢には、時折ハッとさせられる。

正確な書類、丁寧な対応、それが信頼に

事務員さんがミスなく仕上げた委任状や、ていねいな封筒の宛名書きが、地味ながらもお客様に安心感を与えてくれているのは間違いない。僕がどれだけ焦っていても、彼女の落ち着いた所作に助けられる。些細な部分で信頼を勝ち取っていく姿勢は、見習うべきところばかりだ。

自分より人当たりが良いと嫉妬すらする

たまに、「あの事務員さん、感じがいいですね」とお客様に言われると、ちょっと複雑な気持ちになる。「あれ、俺には何も言ってくれないのに…」と思ってしまう自分が情けない。でも、それだけ彼女の接客力が高いという証拠。お客様からの信頼を築いてくれているのは確かで、その力に助けられている自分がいる。

でも結局そこに救われている

どんなに嫉妬しても、結局のところ僕は彼女に救われている。ミスをカバーしてくれたこともあったし、僕のテンパった対応のフォローをスマートにこなしてくれたこともある。そんな時、素直に「ありがとう」が言えない自分がもどかしい。でも、心の中ではいつも感謝している。

トラブル対応で見えた事務員さんの底力

仕事をしていればトラブルはつきもの。そんな時に人の本質が出る。ある時、登記の添付書類に不備が見つかったことがあった。僕は焦って冷静さを失いかけていたが、事務員さんがすっと冷静に対応してくれた。その姿を見て、「ああ、この人に支えられている」と改めて思った。

登記ミス寸前、事務員さんのチェックに助けられた

とある登記で、提出直前の書類に誤字があることに気づいたのは、事務員さんだった。「これ、字が違ってますね」と指摘された瞬間、冷や汗が流れた。もし提出していたら大きなトラブルになっていた可能性もある。彼女の冷静な目と、丁寧な確認作業に救われた瞬間だった。

お客さん対応も、フォローの神対応

僕がうっかり日程を勘違いしてしまい、お客様にご迷惑をかけたことがあった。その時、電話口で謝罪してくれたのは事務員さんだった。丁寧な言葉と落ち着いたトーンで、「こちらの不手際で申し訳ございません」と伝えるその声に、逆にお客様が「大丈夫ですよ」と言ってくれたほど。あの時の彼女の対応がなければ、関係がこじれていたかもしれない。

こんな僕でも、ありがとうを伝えたい

面と向かって感謝の言葉を伝えるのは、やっぱり照れくさい。でも、この場を借りて言いたい。「いつも本当にありがとう」と。事務員さんがいてくれるから、今の自分がある。これからもきっと、愚痴はこぼすし、不機嫌な顔もしてしまうだろう。でも、そんな僕を支えてくれているあなたには、心から感謝している。

照れくさくて言えないけど本当は感謝してる

「ありがとう」と言えばいいのに、いざその瞬間になると言えない。気恥ずかしさが先に立ってしまう。だからこそ、こうして文章に残しておく。あなたの存在に、どれほど救われているか。僕一人じゃ、きっとここまでやってこれなかった。事務員さんの支えがあったから、今日も事務所の灯りがともっている。

日々を支えてくれる存在に報いるには

感謝だけでは足りない。働きやすい環境を整えること、気持ちよく働いてもらえるよう努力すること。それが、僕にできるせめてもの恩返し。給与や待遇、仕事の内容まで、もっと配慮していきたいと思うようになった。事務員さんを大切にできない事務所に、未来はない。そう思う。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。