スマホの連絡先、仕事関係しかないことに気づいた夜

スマホの連絡先、仕事関係しかないことに気づいた夜

スマホを開いて気づく、孤独の正体

ある日の夜、なんとなくスマホの連絡先をスクロールしていた。通知も鳴ってないし、誰かに連絡を取ろうというわけでもなかった。ただ、ふとした瞬間に、「俺って誰とつながってるんだろう?」と確認してみたくなった。スクロールする親指は止まらない。だけど、そこに並んでいるのは、取引先、不動産会社、金融機関、そして依頼者ばかり。気づけば、プライベートの名前なんて一人も出てこない。学生時代の友人の名前すら、もう探せないほど奥に埋もれていた。

名前の並びに、プライベートが消えていた

司法書士として働き始めた頃は、連絡先にプライベートの友人もたくさんいた。週末に集まっては飲みに行き、恋愛相談や仕事の愚痴を語り合った。でも、独立して数年が経ち、事務所の運営に追われるようになると、気づけば連絡を取らなくなっていた。連絡先を増やすのはもっぱら仕事上の関係ばかり。名前を見て心が温かくなる人よりも、手続きを思い出す人の方が圧倒的に多くなった。寂しさというより、「ああ、こうやって人との関係って薄れていくんだな」と実感した瞬間だった。

「この人誰だっけ…あ、元依頼者か」

ときどき、「誰だこの名前?」と思うことがある。あまりに連絡を取ってない相手だから、記憶も曖昧。でも、検索履歴をたどれば登記記録が出てきて、「ああ、あの相続の人か」と思い出す。それが友人じゃないというのがまた悲しい。しかも、連絡先を消すこともできない。たまに問い合わせがあるかもしれないし、何より仕事の履歴として残しておかねばならない。スマホの中にいるのは、「関係を続けたい人」ではなく「関係を維持しなければいけない人」ばかりなのだ。

連絡先の整理をしていたはずが、虚しさに変わった

日曜日の午後、時間ができたので久しぶりにスマホの連絡先を整理してみた。古い番号や使っていない登録を消そうと思っていた。でも、整理を進めるたびに気持ちはどんどん沈んでいった。削除しているのは、数年前に一度だけ会った営業マン、名刺交換だけで終わった不動産屋…。そんな“つながり”の山を前にして、俺の人生は“仕事の残骸”で埋まっているように思えてしまった。

司法書士という仕事と、交友関係のすれ違い

この仕事は、いつでも誰かに頼られる。登記の締め切り、遺産の問題、相続の争い。だからこそ、交友関係にまで気を回す余裕がどんどん失われていく。気がつけば、友人からの誘いも「忙しいから」「予定があるから」と断るばかりになっていた。

土日も電話が鳴る、それが日常

週末こそゆっくりしたいと思っても、現実はそうはいかない。「急ぎなんですが」といった連絡が普通に入る。とくに地方だと、「明日法務局に行きたいから、今日のうちに書類見てください」と言われるのが当たり前。家族のような信頼で頼ってくれるのはありがたい。でもその一方で、自分の時間は削られていく。誰かと過ごす休日も、もはや幻想に近い。

気づけば友人の結婚式もフェードアウト

昔は何度も出席していた結婚式。なのに、ここ数年は招待状すら届かなくなった。最初は「忙しいだろうと思って」って気を遣われていたんだろう。でもそのうち、本当に呼ばれなくなった。SNSで見かける披露宴の写真の中に、かつての友人が笑っている。そこに自分がいない現実を、どこか他人事のように眺める夜が増えた。

「忙しい」が口癖になっていたあの頃

断る理由が「忙しい」ばかりになると、人は去っていく。そんなのわかってた。わかってたけど、断らざるを得なかった。登記の締切、法務局との調整、顧客との打ち合わせ…。予定表は空白がなく、誰かに会う余裕も気力もなかった。気づけば、「あいつ、全然誘っても来ないよな」なんて言われる側になっていた。

事務所にいる時間=人生の大半

朝8時に出勤して、夜は日報を書きながら20時を過ぎる。そんな日々が当たり前になると、「どこかに出かけよう」という気すら起きなくなる。唯一の居場所が事務所であり、誰かと交わる場でもある。だけど、そこに心を開ける相手は少ない。

毎日同じ場所にいて、誰とも深く関われない

事務所に誰かが来る。だけどそれは「関係を築く」ためじゃなく、「業務を進める」ため。どんなに話しやすい相手でも、結局は仕事の話で終わる。会話の95%は“用件”でできている。人間関係はあるけれど、温度のある関係ではない。

唯一の話し相手は事務員さん。でもプライベートな会話はゼロ

事務所で唯一毎日顔を合わせるのは事務員さん。でも、彼女とは業務連絡ばかりで、雑談なんてほとんどない。「お疲れ様です」「お願いします」そんな言葉だけが飛び交う空間で、一日が終わる。たまに沈黙が怖くなる日もある。

モテないというより、人との関係が希薄になった

誰かと恋愛をしたいとか、結婚したいとか、そういう願望がないわけじゃない。でも、それ以前に、人とちゃんと関わるという力が、どんどん自分の中からなくなっていくのを感じる。

恋愛よりも、今日の登記申請の方が優先される現実

今ここで誰かと食事に行くより、今日の申請を終わらせなきゃ。そんな毎日を続けていれば、そりゃ誰とも深く関われなくなる。デートの途中でも電話が鳴れば出てしまう。相手が不満そうな顔をしていても、「仕事だから」と片づけてしまう。そんな関係が長続きするはずがない。

「恋愛してる場合じゃないでしょ」が習慣になった

いつの間にか、恋愛は「余裕のある人」がするものになっていた。俺の中では、恋愛=贅沢。だから、いつも自分には関係ないものとして扱ってしまう。でも、そんなことを続けていたら、本当に誰ともつながれなくなる。そうわかっていても、手を伸ばす気力すらなくなっている。

それでもこの仕事が好きだから困る

孤独や寂しさはある。だけど、この仕事をやめようとは思わない。依頼者がホッとした顔を見せてくれる瞬間や、「助かりました」の一言が、心の底からうれしい。だからまた頑張ってしまう。

感謝の言葉をもらえる瞬間だけが、心の支え

泣きながら相談に来た人が、最後に笑顔で帰っていく。それを見送るたびに、「この仕事をやっててよかったな」と思う。誰かの人生の大事な場面に関わっているという実感が、自分を支えてくれている。でもそれは同時に、自分の人生を誰かと共有する余白を削ってもいる。

孤独とやりがいは、なぜいつもセットなんだろう

好きな仕事をしているのに、なぜ寂しいのか。やりがいがあるのに、なぜ虚しいのか。その矛盾をずっと抱えている。でも、これが俺の現実。誰かに理解されなくても、少しでも共感してもらえたなら、それだけで報われる気がする。

これから司法書士を目指す人に伝えたいこと

もしこの道を目指しているなら、技術や法律の知識以上に「人とどう関わるか」を大切にしてほしい。人とのつながりを切らない工夫や、自分の時間を守る技術も必要だ。

スキルより、心のバランスが大事かもしれない

どんなに優秀な人でも、心がすり減ってしまえば続かない。仕事は一人でもできる。でも、生きていくには誰かとの関係が必要になる。だからこそ、自分の心の居場所を、仕事以外にも持っておいてほしい。

人とのつながりを「維持する力」を忘れないで

連絡先の数ではなく、気軽に「元気?」と送れる人がいるか。それが人生の安心感につながると思う。スマホを開いたときに、ちょっとだけ心があたたかくなるような、そんなつながりを大事にしてほしい。俺のようにならないために。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。