急かされる司法書士

急かされる司法書士

時間に追われる毎日がもたらす精神的な消耗

司法書士という職業は、一見すると冷静沈着に書類を扱うデスクワークのように見えるかもしれませんが、現実はそのイメージとはかけ離れています。とにかく「急ぎでお願いします」という依頼が多すぎる。登記申請の期限に追われるのは当然としても、依頼主がその期限ギリギリになってから連絡してくるケースがほとんどです。こちらは何とか間に合わせようと奔走しますが、段取りが狂うたびに精神的な余裕が削られていきます。

「早くしてください」に込められた見えないプレッシャー

「今週中に何とかなりませんか?」「すぐお願いできますよね?」――依頼者のこうした言葉には悪意があるわけではありません。でも、それが日常的に重なると、こちらの心には少しずつ負荷が蓄積されていきます。電話口で笑顔で対応しながら、内心では「今週中って、あと2日しかないじゃないか…」と絶望していることも。事務員に愚痴をこぼしたいけど、彼女も忙しそうで、結局ひとりで溜め込んでしまうんですよね。

急ぎの案件が日常化すると、通常の業務が回らない

本来ならば、書類を丁寧に精査して正確な処理を心がけたいところですが、「急ぎ」が積もり積もってくると、それどころではなくなってしまいます。通常の案件を進める時間すら確保できず、どれも中途半端にしか対応できなくなってしまう。このままではミスが出る、でも手が足りない…。そんなジレンマの中で、ただ時間だけが過ぎていきます。

「すぐできますよね?」という依頼者の一言の破壊力

一番キツイのは、「簡単なことだから、すぐできますよね?」というセリフ。これ、地味に刺さります。たしかに内容だけ見れば簡単な登記かもしれませんが、背景に事情があったり、前提となる資料が揃っていなかったりするケースがほとんど。そういう説明をしても、相手は「プロなんだからできるでしょ」の一点張り。正直、「だったら自分でやってくれ」と言いたくなる瞬間もあります。

電話一本で予定がすべて狂う

「今日は少し余裕があるから、たまっていた書類整理でもしようかな」と思っていた矢先、一本の電話が鳴る。「緊急でお願いしたいんですけど」――これで一日の予定がガラッと変わります。そこから書類の受け取りに走り、内容を確認し、登記の準備をする。結局、やろうと思っていたことは手つかずのまま、夜が更けていくことも珍しくありません。

「至急でお願い」と言われた瞬間に崩れるスケジュール

「明日が期限なんです。どうにかお願いします」――そんな依頼が来たら、予定を崩すしかありません。自分のスケジュール帳なんて無意味です。とにかくその場で対応するしかなく、他の予定を後回しにするしかない。結果、後回しにされた案件が翌日には「至急案件」になるという悪循環に。スケジュール管理なんて無力なんだと、毎回痛感させられます。

休日や深夜でも鳴るスマホの着信音に怯える生活

いちばん心が削られるのは、休んでいる時の電話です。せっかくの休日に家でゆっくりしていても、スマホが鳴るとビクッとしてしまう。番号を見て「ああ、あの件だ…」と察して、結局メールを確認してしまう。電話を取らなかった罪悪感と、取ったあとの疲労感。どちらを選んでも疲れる。そんな日常が続くと、心の休まる時間が本当に無くなっていくんです。

「プロなら当然」という期待に押し潰されそうになる

依頼者にとっては「お金を払っているんだから、ちゃんとしてくれるのが当たり前」という感覚なのかもしれません。確かにそうかもしれません。でも、私たち司法書士も人間です。体調を崩すこともあれば、家庭の事情で急遽動けないこともある。でも「プロなんだからそれぐらい当然でしょ」という目で見られると、どこにも逃げ場がなくなってしまうのです。

プロ意識と便利屋扱いの狭間で揺れる気持ち

自分でもプロとしての責任は強く感じています。だから、依頼が来ればなるべく早く対応したいという気持ちはあります。でもそれが、いつしか「何でも屋」のような扱いに変わっていくと、だんだん自分の存在価値が揺らいでくる。「俺って、何の専門家なんだっけ…?」と、自分自身に疑問を持ってしまうことさえあります。

専門職なのに“今すぐ”対応を求められる違和感

私たちは資格を持ち、法律的な手続きを丁寧に進めることを求められる職種のはず。でも、現場ではとにかく「すぐやって」「急いで」が優先されます。専門的な判断や慎重な確認よりも、スピード感や機動力ばかりが評価されるような空気。これって、なんだか本質からズレている気がしてならないんです。

自分の時間が存在しない感覚

いつの間にか、日常のほとんどが「誰かのための時間」になってしまっています。自分のために使える時間は、ほとんどありません。趣味のひとつもない生活。テレビを見ていても、次の案件のことが頭に浮かんでしまい、全然集中できない。こういう状態が続くと、「自分って何のために働いてるんだっけ」と思ってしまうんです。

予定表が真っ黒でも「ちょっとだけお願い」と頼まれる

予定が詰まっていても、「ほんの5分で済むので」と頼まれると、断れない性格もあってつい引き受けてしまいます。でもその5分のつもりが、あれこれ確認事項が出てきて30分以上かかることもザラです。結局、他の予定に支障が出て、すべてが連鎖的に崩れていく。時間の感覚がバグってくる感覚、わかる人にはわかってもらえると思います。

昼ご飯もコンビニ、移動中におにぎりで済ませる日々

食事の時間すら満足に取れない日も多いです。事務所に戻る暇がなく、車の中でコンビニおにぎりを頬張ることもしょっちゅう。ちゃんとしたご飯を食べたいという願望すら、もはや贅沢に思えてくる。こういう生活が続くと、何となく体も心も荒れてくるんですよね。気づかぬうちに、疲れが積もっていきます。

急ぎ案件が続くことで起こる心の摩耗

急ぎ案件に追われる毎日が続くと、自分の中で優先順位の感覚が麻痺してきます。「すぐ対応しないと怒られる」「早くしないと見捨てられる」――そんな不安が常に頭をよぎり、気づけば睡眠時間を削ってでも対応している自分がいます。でも、そこまで頑張っても感謝されることは少ない。それがまた、心をすり減らす原因になります。

業務の質より「スピード勝負」になっていく恐怖

早さばかりが求められる現場では、どうしてもチェックが甘くなりがちです。何重にも確認しなければならないはずの書類も、「まあ大丈夫だろう」で済ませてしまうこともあります。でも、それがミスに繋がるリスクは高い。だからこそ怖いんです。いつか大きな事故が起こるんじゃないかと、ずっとヒヤヒヤしながら仕事をしています。

急ぎに応じ続けると、普通の依頼者まで過剰に期待してくる

一度「早い対応」をした相手は、それが基準になってしまいます。「前はすぐやってくれたのに、今回は何で?」という反応をされると、本当にしんどい。最初から余裕を持ったスケジュールで依頼してくれる人が減ってきている気がして、どんどん悪循環に陥っているのを感じます。

対応が遅れたときの「信用不安」という重圧

少しでも対応が遅れると、「あの事務所、遅いんだよね」といった噂が流れてしまうことがあります。一度ついた印象はなかなか拭えません。だから、無理をしてでも早く対応しようとする。でも、それが積み重なると身体がもたない。信用を守るために、自分を削るような働き方を続けるのは、本当に辛いことです。

一度の遅れで「この事務所は遅い」と言われる不安

人は、良い対応よりも悪い対応の記憶を強く残します。どれだけ丁寧に仕事をしても、一度の遅れで全てが台無しになることもある。だからこそ、常に「遅れちゃいけない」と神経を張り詰めています。そんな日々が続けば、精神的に余裕がなくなるのも当然です。

自分の評価が“納期”だけで決まる理不尽さ

本来ならば、正確な処理、丁寧な対応、相談者への気遣い――そういった面が評価されるべきなのに、現実は「早く対応してくれるかどうか」だけが基準になることも多い。プロとしての矜持を持ち続けたいのに、それすらも無意味に感じてしまう瞬間がある。そんな時、自分の仕事の意味を見失いそうになります。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。