面談より合コンが怖い理由、あります
司法書士としての面談は、どんなに難しい相手でも想定問答がある。相続の話でも、不動産の登記でも、聞かれることはある程度パターン化されているから心の準備ができる。でも、合コンとなるとどうだろう。話の展開は読めないし、突拍子もない質問が飛んでくる。「趣味は?」「恋愛はどう?」なんて問われた日には、口の中が一気にカラカラになる。面談のほうが、よほど安心して臨めるのだ。
あの「志望動機」は言えるのに、「趣味は?」に詰まる
面談では「どうして司法書士を目指したのですか?」と聞かれたら、用意した文章を噛まずに言える。たとえ形式的でも、何度も繰り返して慣れているからだ。ところが、合コンで「趣味は?」と聞かれると、頭が真っ白になる。読書とか映画とか、無難なワードが浮かぶけれど、そこに自信がない。「あ、この人、自分の時間しかないんだな」と思われそうで怖くて口ごもる。志望動機よりも「素の自分」を問われる分、よほどしんどい。
台本があるかないかの違い
司法書士の業務には常に「型」がある。申請書にも、登記簿にも、業務フローにも。それは面談においても同じ。事前準備さえしておけば、よほどのことがない限り、会話は崩れない。一方で、合コンに「型」はない。会話は相手次第、流れ次第。何をどう答えても、正解がない。台本のない舞台に放り込まれる感覚。人前で話すのが苦手だった学生時代を思い出す。そんな恐怖を、大人になってからまた味わうとは思っていなかった。
そもそも“素の自分”を出すのが怖い
面談では“職業人としての自分”を演じればいい。でも、合コンは違う。どんな仕事をしていようと、結局は「人間」として見られる。おもしろいか、優しそうか、清潔感があるか——そういった要素で判断される。そのとき、司法書士という肩書きがあまり役に立たないことを痛感する。仕事ではそこそこ認められているけれど、「人としての魅力」はどうかと問われると、自信が持てない。だから、つい身構えてしまうのだ。
司法書士という仕事のクセが合コンに不利
長年司法書士をやっていると、つい癖が出てしまう。人の話を聞くときに「うんうん」とうなずいてしまったり、沈黙を埋めるために情報を整理しようとしたり。そういう反応が、合コンでは「距離がある」「壁がある」と受け取られることもある。無意識のうちに、業務中のモードから抜け出せていないのかもしれない。
聞き役に徹しすぎて“好意”が伝わらない
合コンでは、ただ聞き役に回っているだけではダメらしい。何かリアクションを返したり、自分のことも出したりしないと、「興味がなさそう」に映ってしまう。でも、普段の仕事で「聞く力」が求められてきた私にとって、それはなかなか難しい。黙ってうなずくことが美徳とされる世界に生きてきたから、笑顔で自分語りをするスキルなんて、持ち合わせていないのだ。
リアルで契約書の話をし始めてしまった反省
以前、なんとか話をつなごうとして「最近、不動産売買の契約書がややこしくてね…」という話題を出してしまったことがある。当然ながら、会話は凍りついた。私にとっては日常で、面白いと思った話だった。でも、相手にとっては意味不明で退屈だったのだろう。あのときの空気の重さは、今でも忘れられない。まるで登記漏れを指摘された瞬間のようだった。
緊張するくせに、どこかで期待してしまう
もう二度と合コンなんて行かないと心に決めた夜もあった。でも、どこかで期待している自分もいる。「もしかしたら、今日は少し違うかも」「今回は話が合う人がいるかも」——そんな淡い期待があるからこそ、毎回スーツにアイロンをかけて出かけてしまう。司法書士としての“論理”では割り切れない自分がいる。
「今日こそは…」とネクタイ締めたのに
いつものように仕事終わりに鏡の前でネクタイを締め直し、少しでも爽やかに見えるようにセットする。「今日はうまく話せますように」と祈るような気持ちで玄関を出る。でも、現実は厳しい。着席するや否や、周囲の会話についていけず、「お酒強いんですか?」と聞かれただけでドキドキしてしまう。仕事の面談では汗ひとつかかないのに、なんなんだこの差は。
結局、職業を聞かれた瞬間に終わる
自己紹介の流れで「司法書士をしています」と言うと、たいてい一瞬静かになる。そのあと「すごいですね」「難しそう」と言われるが、どこか他人行儀で、その先に話が続かない。弁護士や会計士ならまだしも、司法書士は説明しないとピンとこない職業。だからなのか、そこから恋愛に発展した試しがない。言えば言うほど、遠ざかっていく気がする。
「真面目そう」=「つまらなそう」の法則
「真面目そうですね」と言われたことは数え切れない。でも、それは褒め言葉ではなく、“恋愛対象からは外れてます”という合図だと気づくまでに時間がかかった。仕事に対して誠実であることが、恋愛では「遊びがなさそう」「融通がきかなそう」とマイナス評価になることもある。どうすればいいんだ、この矛盾。
結局、孤独な夜に戻るだけ
合コンが終わっても、心に残るのは“虚しさ”ばかり。いい出会いなんてなかった。でも一番きついのは、何者でもない自分を突きつけられること。司法書士としての肩書きもスーツも、プライベートの場では何の盾にもならない。そんな現実に、静かに打ちのめされる夜だ。
合コンが終わって待っているのは仕事とため息
帰宅すると、机の上には未処理の登記書類。電話の伝言も数件。日常に戻った安心感と、何も変わらなかった自分への失望感が混ざる。「やっぱり仕事のほうが落ち着くわ」と呟いた自分が情けない。誰とも手もつながず、また明日も登記申請。
むしろ“面談の方が気が楽”という境地
クライアントとの面談のほうが、よほどスムーズに話ができるし、終わったあとの充実感もある。変に気を使わず、専門性で信頼されるあの感じは、合コンでは味わえない。合コンよりも、相続登記の説明をしているほうがよほど自分らしい。
帰り道、なぜか登記事項証明書の方が愛おしくなる
誰からも連絡が来ない帰り道。ふと、かばんの中に残っていた登記事項証明書を見つめながら、「こっちは裏切らないな」と思ってしまった。仕事だけが、孤独をやわらげてくれる。そうやってまた、今日も私は司法書士としての自分に逃げ込むのだ。