事務所の片隅からお送りします

事務所の片隅からお送りします

事務所の片隅からこぼれる独り言

この文章は、地方の小さな司法書士事務所の、片隅の机から書いている。パソコンのファンの音と、近くの国道を走るトラックの振動が響く中、なんとなく思ったことを綴っている。日々の業務に追われてばかりで、誰かとゆっくり話す時間なんてほとんどない。それでも、ふとした瞬間にこぼれる独り言を、誰かに届けたくなる時がある。届くかどうかは分からない。でも、同じように忙しくて、しんどくて、それでもなんとかやっている誰かに、この小さな声が届いたらうれしい。

今日も机の前から動けない

朝9時に椅子に座って、気づけば夕方までほぼ同じ体勢。膝が固まって痛むし、肩も重い。司法書士というと「外回りが多い」と思われがちだが、実際はデスクワークの塊だ。登記の準備、確認、修正、報告書の作成、メールのやりとり。依頼者と電話で話しながら、同時に書類を開いてチェックする。効率がいいのか悪いのか分からない。気を抜いたら何かが漏れる。その恐怖に追われながら今日も机にかじりつく。

誰に届くわけでもない愚痴

たまに、机に向かって小声で「うーん」とか「なんでやねん」とつぶやく。誰も聞いてないのをいいことに、軽く文句も言う。理不尽な行政の対応、急に飛び込んでくる「至急」の依頼、完璧を求められるのに報われない感じ。そんな愚痴をこぼしても、結局自分でやるしかないと分かっている。でも言葉に出すと、少しだけ心が落ち着く。誰にも聞かれないからこそ、素直になれる。事務所の片隅は、ちょっとした“安全地帯”なのかもしれない。

それでも言葉にすることの意味

独り言って、意味があるのかと疑問に思っていた。でも最近は、心のバランスを取るために必要な行為なんじゃないかと思うようになった。誰かに向けて言っているわけじゃなくても、自分の気持ちを外に出すことで、「ああ、今ちょっと疲れてるな」とか「やっぱりこれは納得いかないな」と整理できる。声に出さないと、ずっと心の中に溜まり続けて、気づけば爆発する。小さな声でいい。誰かに聞かれなくていい。ただ、言葉にすることで前に進めることもある。

司法書士のリアルな日常

世間で思われている司法書士像と、実際の業務には大きなギャップがある。テレビドラマに出てくるようなスマートな仕事じゃない。資料にまみれ、行政と格闘し、神経をすり減らしながら、地道にやっている。それでも「先生」と呼ばれれば、それなりに振る舞わなきゃいけない。このギャップに苦しんでいる人、実は多いんじゃないだろうか。

華やかさゼロ、地味さ100%

開業当初は「司法書士ってカッコいい仕事かも」と少しだけ思っていた。でも現実はまったく違った。派手な案件なんてめったにないし、大半は地味で地道な確認作業。登記識別情報の一文字を何度も確認する作業なんて、誰も見てないし、褒められもしない。だけど、そういう見えない仕事が、誰かの大事な一歩を支えている。それは分かっている。分かっているけど、もうちょっと報われてもいいのにな、とつぶやきたくもなる。

「先生」と呼ばれても中身は迷子

依頼人から「先生」と呼ばれるたびに、少しだけ背筋が伸びる。でも正直、内心では「いや、そんな立派な人間じゃないです」と言いたくなることもある。日々の業務に追われて、余裕もなく、ついイライラしてしまう自分。こんな人間が“先生”でいいのか。たぶん、名前ではなく、役割としての“先生”なんだと理解はしている。でもやっぱり、しっくりこない。自分のことを自分で認められないのが、一番つらい。

誤解されやすいこの仕事の正体

司法書士って、何してるの?と聞かれると、未だに説明に困る。相続、登記、裁判書類の作成など、やってることはたくさんあるけれど、伝わりにくい。だから、ちゃんと仕事のことを話せる人も少ない。孤独感がついて回る職業だ。目立たない、分かりにくい、でもミスは許されない。その厳しさを抱えながら、今日もまた、誰にも気づかれないように、ひっそりと業務をこなしている。

片隅にいるから見えること

事務所の中心にいるより、片隅にいるほうが見える景色がある。全体を俯瞰して見るというより、静かに人の声や空気を感じ取るような感覚。依頼人のちょっとした表情の変化、事務員の沈黙の意味、電話の間に生まれる気配。片隅にいることで、そういう「音にならない情報」が入ってくる。

主役ではないからこそ寄り添える

自分は目立つタイプではないし、誰かの前に出て堂々と話すのも苦手だ。だからこそ、主役ではない位置にいる方がしっくりくる。依頼者が話しづらそうにしているとき、こちらも派手な言葉は使わず、ただ黙って待つ。焦らせず、急かさず、ただそばにいる。そんなふうにしかできない。でもそれが、結果的に「相談してよかった」と言ってもらえる理由になっている気がする。

依頼人の沈黙に気づく感覚

話すよりも、話さない時間の方がその人の本音が出ることもある。例えば相続の相談に来た依頼者が、突然黙ってしまう場面があった。表情は変わらない。でも目が少し潤んでいた。こちらが何かを言うより、その沈黙を壊さないことが大事だと感じた。言葉では伝えられない感情に気づけるのは、片隅でじっと見ている人間の役割かもしれない。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。