夜の風が寂しさを連れてくる

夜の風が寂しさを連れてくる

夜の静けさが心に忍び寄るとき

夜の風が肌を撫でるように吹いてくると、不思議と心がざわつきます。昼間はあんなに必死に仕事をこなしていたのに、ふと気がつくと静まり返った事務所に一人きり。音のない世界に、自分の存在だけが取り残されているような感覚。45歳、独身。司法書士という仕事に情熱がないわけではないけれど、たまに「これでよかったのか?」と問いかけてしまう夜があります。そんな夜に限って、風はやけに冷たく感じるのです。

事務所の明かりが一人だけを照らす

仕事が終わらない。そんなことは日常茶飯事です。登記書類の確認、提出準備、依頼者への連絡。すべてを終わらせてからでないと帰れない、いや、帰りたくないのかもしれない。明かりの灯った事務所は、たった一人の男を照らし続けています。孤独ではないと自分に言い聞かせながらも、その光の中にいるのは、責任を一身に背負った司法書士一人。事務員はもう帰っているし、電話も鳴らない。ただ、PCのファンの音だけが耳に残ります。

終わらない登記作業に追われて

「登記が終わるまで帰れないんで」と言えば、クライアントは満足げに頷いてくれる。でも、その裏で夜な夜な書類を確認し、印鑑を押し、申請データをアップロードしていることを知る人はほとんどいません。細かいミスは即トラブルになる。緊張の連続。集中力が切れそうになったとき、ふとコンビニで買ったおにぎりの味が異様にしょっぱく感じたりする。仕事のプレッシャーは、塩分よりも強烈です。

「誰のためにやってるんだろう」とふと思う瞬間

気がつけば、夜の11時。あたりは真っ暗。自分だけが何かを背負っているような錯覚に陥ります。依頼者の「ありがとう」が聞こえてくることは少なく、どちらかといえば「まだですか?」の催促が多い。やりがいはあるはずなのに、ふと「誰のために、何のために」と立ち止まりそうになる。でも、そこで止まったら誰がこの仕事をするのか、とまたキーボードを打ち始めるのです。

ふと窓の外に目をやると

夜風に揺れるカーテン越しに、外の街灯がちらちらと揺れて見える。窓の外の世界は、まるで自分とは無関係の場所のようです。車のライト、歩く人の影、遠くのコンビニのネオン。そのすべてが、どこか遠くに感じる。「このまま帰って誰と話すんだろう」と思った瞬間、外を歩くカップルの笑い声が耳に飛び込んでくる。それだけで、胸がズキリと痛むのです。

風の音と時計の針だけが進んでいく

音のない夜。いや、実際には風の音と時計の針の音が聞こえている。それだけのはずなのに、その音が妙に心に響く。時の流れを実感するには、誰かと過ごすよりも一人でいるほうがわかりやすい。止まることのない時間と、追われ続ける自分。どちらも逃げることができない存在です。司法書士の仕事とは、時間との戦いでもあると実感する夜でした。

コンビニ帰りのカップルが眩しく見える夜

事務所の前を通り過ぎる若いカップル。笑いながら袋を揺らして歩く姿が、やけに眩しく見える。別に羨ましいわけじゃない。そう自分に言い聞かせるけど、どこかで「自分にもあんな時代があったのか?」と思ってしまう。たぶん、なかったんだろうな…。仕事ばかりしていたから。女性にモテないというより、そもそも誰とも向き合ってこなかったのかもしれない。そんな自己嫌悪を風が静かに包み込んでいく。

司法書士という仕事と孤独の関係

「自由業っていいですね」と言われることがあるけれど、実際のところは自由なんてまったくない。クライアントに縛られ、役所に縛られ、時間に縛られる。しかもミスは許されない。誰にも相談できず、一人で解決しなければならないのが司法書士の宿命です。そんな中で孤独がすっと背中に忍び込んでくるのは自然なことかもしれません。

誰にも相談できない「責任」の重さ

司法書士の仕事には「責任」がつきものです。どんなに小さな案件でも、提出ミス一つで大ごとになる。だからこそ慎重にならざるを得ない。でも、それを共有できる人がほとんどいないのもこの仕事の特徴です。相談したくても、相談相手がいない。孤独に耐えながら、自分を律して進み続けるしかありません。

小さなミスも自分のせい

誰も見ていない、誰も気づかないような小さな誤字。それが致命的なトラブルになることもあります。「誰かがチェックしてくれたら…」と思っても、最終確認は自分。事務員に任せられない責任の重さ。これは、司法書士としての「業」なのかもしれません。何があっても、最後に責任を取るのは自分なのです。

信頼されるほどに増えていく重圧

「〇〇先生なら安心だから」と言われると、もちろんうれしい。でもその分、求められる水準も上がっていく。信頼はありがたい反面、重たいプレッシャーにもなる。気が抜けない。休めない。だからこそ、夜になってやっと解放されたときに、ぐっと寂しさが押し寄せてくるのです。

それでも明日も仕事に向かう理由

これだけ愚痴をこぼしても、やっぱり朝になれば事務所に向かってしまう。もう習慣なのか、責任感なのか、自分でもよくわからない。ただ一つ言えるのは、「困っている人を助けたい」という気持ちは今でも変わっていないということ。誰かの支えになるために、今日も明日も、風が吹く夜も働いているのです。

誰かの「困った」を救える仕事だから

この仕事をやめようと思ったことは何度もあります。それでもやめなかったのは、誰かが困っていて、自分にできることがあったから。「助かりました」の一言がすべてを癒やしてくれるときがあります。夜の風に心が揺れても、また立ち上がれるのはその一言のおかげです。

同じように頑張っているあなたへ

司法書士に限らず、孤独と向き合いながら働いている人はたくさんいると思います。誰かのために、今日も自分を削って働いているあなたへ。「夜の風が寂しさを連れてくる」と感じるのは、優しさを持っている証拠です。どうかその優しさを、誰かのために残してください。明日も、きっと誰かがあなたを必要としています。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。