誰にも愚痴をこぼせない日々の重さ
人は誰しも、少しは愚痴を言いたくなるものだと思う。ところが、この仕事をしていると、愚痴すら言う相手がいない日が続く。事務所の中では、責任を背負う立場。外に出ても「先生」と呼ばれ、弱音を吐く場はない。そんな生活を続けていると、どこか心の中に鉛のような重さが溜まっていく。大きなトラブルがあったわけではない。ただ、「話したいこと」が日々、積み重なっていくだけなのだ。
「忙しいね」と言われるけど、忙しいだけじゃない
確かに忙しい。朝から晩まで書類を見て、電話に出て、役所を回って、戻ればまた書類。そんな日々が何年も続いている。でも、誰かに「忙しいね」と言われるたびに、どこか違和感を覚える。忙しさよりも、誰かと気軽に「こんなことがあってさ」と言えない環境のほうが堪える。仕事に追われているからじゃない。気持ちの置き場がないから疲れているのだ。
仕事の渦中で感じる“話す人のいなさ”
誰かに聞いてもらう、それだけでずいぶん楽になるはずなのに、それができない。電話口で怒鳴られたときの悔しさも、理不尽な依頼の数々も、どこにも吐き出せないまま。事務所で一人の時間が長くなるほど、その感情は静かに膨らんでいく。気づけば、会話の大半は独り言。話す相手がいないというのは、思った以上に心を蝕む。
聞き役はいても、こっちの話をする場はない
スタッフはいる。でも、立場上あまり愚痴は言えない。彼女も気を遣ってくれているのがわかるからこそ、なおさら話せない。結果、相手の話を聞いて終わる日々。家庭もないから、帰ってからも誰かに話すことはない。コンビニ弁当を食べながら、ふと「今日も誰とも本音で話さなかったな」と思う瞬間がある。
誰かに話すことの価値を痛感する夜
何気ない会話が、どれだけ心の支えになるか。昔はそれが当たり前だった。大学時代の友人と夜中にファミレスで語った日々。あの頃は、愚痴も夢も、全部笑って話せた。いまはどうだろう。夜の静けさが、やけに堪える日もある。言葉を発することすら面倒に感じる。でも、本当は誰かに「ちょっと聞いてよ」と言いたいのだ。
ただ聞いてほしいだけの日もある
アドバイスなんていらない。ただ、聞いてもらえたらそれでいい。そう思うことがある。話すことで自分の中の整理がつくこともあるし、「大変だったね」の一言で救われる日もある。だけどそれを誰にも言えない。会話アプリを開いても、話しかける相手がいない。SNSは空虚で、そこに感情を置ける場所はない。
酒もスマホも、話し相手にはならなかった
誰もいない部屋でビールを飲むとき、「これって孤独ってやつか」と思う。酒は気持ちを紛らわせてくれるけど、愚痴の受け皿にはなってくれない。スマホに向かってつぶやいても、反応があるわけじゃない。声に出して話したい。でもそれが叶わない夜は、ただ静かに過ぎていく。
事務所という小さな世界で、孤独は増していく
地方の司法書士事務所は、とにかく閉じた世界だ。スタッフも少なく、業務の多くは自分の肩にのしかかる。会話は業務連絡中心で、感情を交わす場面はほとんどない。この狭い空間のなかで、どれだけ自分が孤独を感じているのか、ふとした瞬間に実感する。誰かと「気持ち」を交わす機会があまりに少ない。
スタッフとの距離感、縮められそうで縮められない
事務員とは良好な関係を築いているつもりだ。でも、心の距離というのは別だ。こちらは雇用主という立場、相手は従業員。どうしても線がある。愚痴を言うことは、相手に余計な不安を与えてしまうかもしれない。結果として、仕事以外の話題は控えがちになる。たまに笑い合う瞬間があるだけでも、ありがたいと思ってしまう。
雇う立場の限界と、気を遣わせてしまう現実
職場で愚痴を言えないのは、自分が我慢強いからではない。むしろ逆だ。自分の弱さをさらけ出すことに躊躇しているだけ。しかも、そんな自分を見せてしまえば、スタッフに不安を与えるだろうと思ってしまう。結局、何も言えず、気づけば心の中にどす黒い澱が溜まっていく。
依頼人とのやり取りも、あくまで仕事
一見、会話が多いように見えて、実は誰とも深く話していない。依頼人とのやり取りは、あくまで案件ベース。信頼関係はある。でも、それは「司法書士」としての信頼であって、「ひとりの人間」として見てもらえているわけではない。こちらの話を聞いてもらう関係ではないし、愚痴を言うなんてもってのほかだ。
「信頼されている」は「親しい」ではない
信頼されることはありがたい。でも、それは親しさとは違う。むしろ、信頼されるほど、感情を見せにくくなる。期待を裏切らないように、ちゃんとした自分でいなければと思ってしまう。だからこそ、愚痴をこぼすことは、自分に許されていないような気がしてしまう。孤独は、そんな“期待”の裏側に静かに潜んでいる。
