独り言にすら返事がない日も、仕事は止まらない

独り言にすら返事がない日も、仕事は止まらない

独り言にすら返事がない日も、仕事は止まらない

誰にも聞かれない言葉たちの行き先

朝の事務所で「さて、やるか」とつぶやくのが、すっかり癖になってしまった。もちろん誰も返事はしない。というか、返事を期待していない。けれど、それでも言わずにはいられない。そんな言葉たちは、返ってくることなく空中に漂って消えていく。それでも、どこかで「今日も自分はここにいる」と確かめたくて、毎日独り言を放ってしまう。ひとり仕事の多い司法書士という職業の中で、誰にも拾われない声を毎日積み重ねているような気分だ。

今日も朝から「よし、やるか」と言ってみる

一人暮らしで、通勤も徒歩3分の田舎の事務所。朝はコーヒーを淹れて、PCを立ち上げて、FAXを確認して、ついでに「よし、やるか」と声に出す。別に誰かに聞いてほしいわけじゃない。でも無言で仕事を始めると、まるで誰にも存在を気づかれていないような気持ちになる。まるで、自動販売機の横で「今月も赤字かぁ」とつぶやく酔っぱらいのように、誰にも届かないけれど、自分の気持ちに蓋をしたくないからつぶやく。それだけのことだ。

返事はないけど、ルーティンになっている

毎朝の独り言は、完全に儀式化している。言わないと気持ち悪い。言ったからといってテンションが上がるわけでもないけど、言わないと始まらない感じがある。テレビのリモコンを手にするときに「どれどれ」と言うような、あれと似たものだと思う。内容じゃない。声に出すという行為そのものに、気持ちを整理する役割があるのかもしれない。

誰かに言ってるというより、自分への点火

結局、独り言は誰かへの発信ではなく、自分に言い聞かせるものなんだろう。何かに取りかかるときの「よし」は、無言で始めることへの恐怖をごまかすスイッチ。誰かに話しかけるように装いながら、実は自分を奮い立たせている。そうでもしないと、この静けさの中では、ただの「作業マシン」になってしまいそうで怖い。

話し相手がいないという疲労感

仕事は好きだし、クライアントとのやりとりもある。でも、それ以外の「雑談」や「どうでもいいやりとり」が全くない日が続くと、思っている以上にメンタルが削れていく。人間って、仕事の話ばかりしてたらおかしくなるのかもしれないなって本気で思う。会話って、内容より存在の確認のほうが大事なのかもしれない。

「ちょっとこれさ…」に誰も乗ってこない

以前の事務所では、職員が数人いたから、気軽に「これさ、ちょっと変だよね」って言うと、誰かしら「ほんとだ〜」とか「またか…」って反応してくれていた。でも今は、事務員さんも別室で仕事に集中しているし、あえて声をかけるのも申し訳なくてためらう。結局、口に出しても虚しくて、自然と言葉が内に籠っていく。

一人事務所の空気は薄い

空気が“薄い”というのは言いすぎかもしれないけれど、本当にそう感じることがある。朝の冷たい空気、昼の静まり返った時間、そして夕方の物音すらない沈黙。誰かと過ごす空間には、意味のない音や声があったんだなと気づく。無音の中での作業は集中できる一方で、心がどこかしら縮こまってしまう。

事務員さんも忙しそうで話しかけにくい

せめて誰かに一言くらい聞いてもらえれば…と思うけれど、うちの事務員さんは真面目で、黙々と仕事をこなすタイプ。そんな姿を見ると、「雑談していいのかな」と遠慮が先に立つ。ちょっとしたおしゃべりができる空気を作るのって、簡単そうで難しい。結局今日も、話しかけられずに終わる。そんな日が続いていく。

電話だけが返事をくれる日

かろうじて「返事」をくれるのが、電話の向こうの人たち。依頼者だったり、金融機関だったり、法務局だったり。でも、そのやりとりに感情のやりとりなんてほとんどない。形式と確認だけで終わる会話。返事はあるけど、対話にはなっていない。むしろ、こちらが機械のように喋っている気すらする。

でもその返事はだいたい「確認します」

こちらが説明しても、「あー、それでは一度確認してまた折り返しますね」が定番。もちろんそれでいいのだけれど、「なるほど、それは大変でしたね」とか、そういう人間的なレスポンスがあると、もう少し救われる気がする。効率だけを追求する言葉のやりとりは、どこかしら味気ない。

無機質なやりとりに心も無機質になっていく

そういう無感情なやりとりを続けていると、こちらの感情もどこか削がれていく。返事は返ってくるけど、そこに感情はない。ただの「音」として聞こえてくるだけ。電話を切ったあと、少しの静寂がやってくる。そのとき、自分の存在まで無機質に感じることがある。

返事が返ってこなくても、今日も業務は終わっていく

結局のところ、独り言に返事がなくても、誰かと感情を共有できなくても、業務は進んでしまう。書類は出て、登記は通り、報酬は入ってくる。でも、それが心の充実に直結するかといえば、まったく別の話だ。静かに、淡々と、今日もまた終業の時間が近づいてくる。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。