登記完了より先に心が折れる

登記完了より先に心が折れる

登記完了通知が来る前に、僕の心が音を立てて折れた日

登記が完了するまでの数日間、司法書士にとっては地味ながらも神経をすり減らす時間だ。書類の不備がないか、法務局に受理されるか、補正が来るか…。依頼者は「登記って時間かかるんですね」と軽く言うが、その背後でこちらは胃を痛めている。先日も、書類を出した翌日に依頼者から「もう終わりました?」と電話が来た。いや、まだです、どころか受理されたかどうかすら確認できていない。そんな中で電話越しの催促を受けながら、心がポキリと折れる音がした。

登記完了を待つ時間が、実は一番しんどい

手続きのミスは許されない。けれど、完了通知が来るまでの間はどうしようもない。自分を信じて待つしかない時間が、実は一番しんどい。経験を積んだ今でも、提出ボタンをクリックする手が震えることがある。「あ、もしかして添付書類間違えてないか?」と提出後に気づいてしまうあの瞬間。確認してもどうにもならないとわかっていても、心の中では「お願いだから、このまま無事に通ってくれ」と祈り続けている。まるで試験の合格発表を待っているような気分になる。

気にしないふりをしても、気になるあの「未完了」ステータス

登記・供託オンライン申請システムの画面には、あの「受付中」や「補正待ち」といったステータスが並ぶ。慣れているつもりでも、やっぱり「完了」の二文字を見るまでは落ち着かない。経験則では翌々営業日には動くが、例外もあるのが法務局というものだ。「おかしいな、いつもなら今日あたり…」と不安になり、つい再確認のループに陥る。トイレに立つたびにPCを見て、スマホでも確認する。完全に依存症のようだ。

寝る前にe登記を確認してしまう癖

「今日はもう見なくてもいいだろう」と思いつつ、布団に入ってからスマホでe登記を開いてしまう。きっと何も変わっていない。でも、ひょっとしたら更新されてるかも、という期待が捨てられない。この習慣、精神衛生上は明らかに良くない。むしろ寝つきが悪くなるだけだ。ある日、夢の中でも法務局の画面を見ていたことがあって、自分でもさすがに「これは病んでるな」と思った。

「まだですか?」の電話に胃がきしむ

「そろそろ登記、終わってますよね?」という一言。これが一番きつい。こっちも早く完了してほしいし、遅れてるわけでもない。それでも、依頼者の期待と現実のギャップを毎回説明するのが辛い。電話口で丁寧に話しているつもりでも、内心は焦りと自己嫌悪の嵐だ。「また説明か…」と、ため息が漏れる。何十回も繰り返してきた言い回しを口にしながら、心の奥では「もうやめたい」と思ってしまう瞬間がある。

依頼者の気持ちはわかるけれど…

待つ側の気持ちも痛いほどわかる。特に相続や売買が絡む案件なら、依頼者だって不安なのだ。でも、説明してもなかなか伝わらない。「登記ってそんなに時間かかるんですか?」という問いに、何度答えただろう。こっちの不安や苦労は見えないし、見せてもいけない。だからこそ、ますます苦しくなる。ちょっとした言葉にグサッとくるのは、きっと余裕がない証拠なんだろう。

説明しても伝わらない焦りの連鎖

「法務局が混んでまして」「電子申請の確認に時間がかかりまして」…説明を尽くしても、「でも、早くしてほしい」と返ってくることがある。依頼者の要望は正論。でも、こっちの事情もまた現実。両者の間に横たわるこの溝が、どうにも埋まらない。焦っても、できることは限られている。にもかかわらず、電話が来るたびに自分の不甲斐なさを突きつけられているような気がして、だんだん言葉が出なくなってくる。

事務所経営は登記業務だけじゃない

司法書士の仕事というと、登記だけと思われがちだが、実際にはそれ以外の雑務や相談業務、経営判断まで含めてすべてが仕事だ。特に地方で小規模事務所を回していると、すべてを自分でこなす必要がある。人を雇うと、それはそれで責任も生まれる。登記が終わった瞬間よりも、電話応対、請求書作成、事務員のシフト管理で疲弊することも多い。「登記完了」はあくまで一区切りにすぎないのだ。

一人の事務員に支えられて

僕の事務所には一人の事務員がいて、彼女がいなければ到底やっていけない。けれど、そんな彼女にも限界があるし、いつも完璧にこなせるわけではない。むしろ僕が頼りすぎて、負担をかけてしまっている。電話が鳴りっぱなしの日や、月末の繁忙期は、ふたりとも黙り込んで作業に追われることがある。その空気の重さに耐えながら、「この仕事って、本当にこれでいいのか?」と自問する時間が増えてきた。

彼女がいなければ成り立たない現実

事務員の存在は、もはや僕にとっての生命線だ。郵送物の仕分け、依頼者への連絡、登記簿の確認…。全部任せっきりにしている部分が多い。何かあればフォローするつもりではいるが、彼女が休む日には事務所が半分止まってしまうような感覚に陥る。それに気づくたびに、「このままで本当にいいのか?」という不安が心に浮かぶ。経営者としての自覚が問われる毎日だ。

ミスが怖くて何度もチェックする日々

小さなミスが大きなトラブルに発展するのが司法書士の世界だ。だからこそ、何度も確認する。けれど、それが心をすり減らす作業でもある。信頼しているつもりでも、「本当にこれで大丈夫か?」と確認し直す自分がいる。その姿を見て、事務員に不信感を持たれていないかも心配になる。疑心暗鬼が生まれると、仕事の効率も雰囲気も悪くなる。ミスを防ぎたい。でも、信じることも大切。そのバランスが本当に難しい。

収入と時間、釣り合わないと思う瞬間

忙しく働いていても、思ったほど手元に残らない月がある。特に時間をかけて丁寧に対応した案件ほど、費用対効果のバランスが悪く感じる。顧客満足度は高い。でも、自分の生活は苦しい。そういうジレンマがずっと付きまとう。仕事を丁寧にやるほど、自分の首を絞めてる気がする。ふと、「もうちょっと適当にやったほうが楽なんじゃないか」と思ってしまうこともある。でも、それはできない性分だ。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。