「司法書士なら何でも知ってるでしょ?」という誤解
開業してから何度となく耳にしたこのセリフ。「司法書士なんだから法律のことは何でもわかるでしょ?」というニュアンスを含んでいて、正直なところプレッシャーになります。もちろん登記や相続の手続きに関しては専門家として対応しますが、税務や紛争のことまで話を振られても、すぐに答えられるわけではありません。世間のイメージと実際の業務範囲にはギャップがある。それを説明するたびに、ちょっとした気まずさが生まれるのも事実です。
相談を受けるたびに感じるプレッシャー
たとえば、不動産の登記で来所されたお客様から「これって税金どうなるの?」と聞かれることがあります。税理士ではないので明確な回答は避けるようにしているのですが、「知らないの?」という目を向けられることもあってつらい。プロとしての信頼に応えたい気持ちはあるけれど、専門外のことに踏み込むリスクもある。そういうジレンマを抱えながら、日々対応しています。
専門外でも「ちょっと見てくれ」と言われる日常
ご近所の方から「この契約書、ざっと見てほしいんだけど」と頼まれることもしょっちゅうです。「簡単でいいから」って言われるけど、法的にどうこう言う責任は簡単じゃない。しかもそれが無償だったりする。人助けのつもりでやってきたけど、どこかで線を引かないと身が持たないと感じるようになりました。
登記と相続以外の話もバンバン来る
たとえば交通事故の相談や離婚問題の話までくることがあります。「法律に詳しい人に聞いてみたら?」と誰かに言われて回ってくるのでしょうが、私はその道のプロではありません。最初は全部に応えようとしていましたが、どんどん疲弊して、仕事にも集中できなくなった時期がありました。専門家にも限界があるんです。
「何でも屋」じゃないけど、頼られる現実
特に田舎では、司法書士という存在が「ちょっと知ってる人」くらいに思われていて、困りごと相談所みたいになりがちです。もちろん頼られるのはありがたいし、地域に貢献したい気持ちもある。でも、できることとできないことを切り分けないと、いつか自分がつぶれてしまう。そんな葛藤と常に向き合っています。
「とりあえず聞いてみよう」が重くのしかかる
「これ司法書士さんでわかりますかね?」という電話が事務所によくかかってきます。その内容が戸籍謄本の収集だったり、農地転用の話だったり。明らかに行政書士や役所の領域なのに、「よくわからないから聞いてみた」という軽い気持ちで連絡がくる。でも、こっちはそれを一つひとつ調べて、丁寧に断らなければならない。この時間と気力の消耗は地味にきつい。
最初の窓口としてのしんどさ
お客さんにとっては、誰に相談すればいいかわからない問題って多いんですよね。だからとりあえず司法書士の看板を見て入ってくる。でもそこで「それはうちの仕事ではありません」と言えば、がっかりされるか、時には怒られることもある。まるで病院の受付で「内科ですけど耳は診れません」と言っただけで不満をぶつけられる医師のような気持ちになります。
答えないと冷たい人扱いされるジレンマ
「先生なら分かると思ったのに、冷たいなぁ」なんて言われることもあります。分からないことを無責任に答える方が危険だからこそ断っているのに、そう受け取ってもらえない。心の中では何度も「こっちだって人間なんだよ」と叫んでいますが、顔では笑って対応し続けています。
事務員1人、全部抱えるのが当たり前?
うちの事務所は、僕と事務員さんの二人三脚。ありがたいことに、彼女は本当に頑張ってくれている。でも、それでも回らない時は回らない。相談対応、書類作成、郵送、現地確認…。まさに一人三役どころか五役ぐらいの仕事量。お昼ご飯も食べ損ねる日が珍しくないし、気づけばトイレすら我慢していたりします。
小さな事務所の限界と孤独
よくある士業事務所のように、何人もの補助者がいるわけじゃない。すべて自分で管理し、自分で判断し、自分で責任を取る。それが続くと、ふとした瞬間に「何のためにやってるんだろう…」と思うようになります。誰にも頼れない孤独感が心に重くのしかかるんです。
電話、来客、現場、全部ワンオペ
現場での立ち会いに出ている間に電話が鳴り続けて、事務所に戻ると留守電が3件。すぐ折り返しても「なんで出ないんですか?」と怒られる。そんな日は本当に心が折れます。業務の効率化とか言われるけど、田舎の現場仕事はアナログで、現地に行かなきゃ済まない案件が山ほどあるんですよ。
「先生なんだから」の圧力に疲れる
「先生なんだからちゃんとしてよ」「先生って呼ばれてるからにはしっかりしてるんでしょ」と言われることもあります。でも、ただの中年男性ですよ。特別な力があるわけでも、余裕があるわけでもない。たまには愚痴も言いたいし、誰かに甘えたい。そんな気持ちを隠しながら、毎日看板を背負って立ち続けています。