司法書士の孤独な現実とその裏側

司法書士の孤独な現実とその裏側

忙しさに埋もれる日常と誰にも言えない本音

地方の司法書士として日々働くなかで、気づけば「忙しい」と口にすることが増えた。だが、その忙しさの正体は、単に仕事量が多いからではない。「誰にも頼れない」「失敗が許されない」という精神的な重圧が、毎日の業務にのしかかる。気がつけば休日も電話対応に追われ、ふと鏡を見ると目の下にくっきりとクマ。身体は動いていても、心はとっくに疲れている。そういう状態でも、愚痴をこぼす相手がいないというのが、いちばんの辛さだったりする。

「終わらない業務」に押し潰されそうになる感覚

不動産登記の依頼が1件来れば、関連する書類の準備、委任状、戸籍集め…すべてが芋づる式に広がっていく。終わりが見えない。しかも、それぞれに「期限」がある。補正通知がくればまた振り出し。そんなとき、私は事務所の床を見つめて動けなくなる。たとえ話だが、積み木を一生懸命に積んでいるときに、誰かがこっそり下の土台を引き抜いていくような、そんな感覚。完成目前にガラガラと崩れ落ちる。心も同じように崩れてしまうのだ。

何をどうやっても減らない書類の山

書類が片付いたと思った矢先に、今度は別件の相談が電話で舞い込む。FAXもメールも同時に鳴る。まるで私が一人で回している遊園地のコーヒーカップ。乗ってる人は楽しそうでも、回してる私は目が回る。午前中に処理する予定だった一式は、結局翌日に持ち越し。業務用のToDoリストは減るどころかどんどん増えていく。まるでゴミ捨て場に自分でゴミを運んでいるのに、振り返ると誰かが新たに袋を置いていくような虚しさ。

締切と向き合うだけで一日が終わる現実

「今日はこれだけは終わらせよう」と決めた書類。何度チェックしても、書式の不備が気になってしまい、提出までに2時間かかる。午後からの面談に遅れそうになり、タクシーに飛び乗った。結局、夕方には補正通知が届き、「あの努力は何だったのか」と力が抜ける。書類と時間の戦いに、勝った試しがない。達成感よりも「間に合っただけマシ」という感覚。司法書士という仕事には、完了の達成感よりも、ひとつの不安が消えるだけの感覚が残る。

「もう無理かも」と心がつぶやく瞬間

業務が重なると、ふとした拍子に心が悲鳴を上げる。「もう、無理かもな」と。そんな声が、頭の奥のほうで小さくつぶやかれる。依頼者の笑顔を見ると「頑張ってよかった」と思えるが、その笑顔を引き出すために自分がどれだけ擦り切れているか、他人にはわからない。先日、帰宅途中にコンビニの明かりを見て「このままどこか遠くに行けたら」と思ってしまった。司法書士だからというより、「一人で背負い続ける日常」が限界に来ていたのだ。

弱音を吐けない職業の孤独

私は事務所で代表を名乗っている。たった一人の事務員にさえ、弱音は見せたくない。だから愚痴も誰かに漏らすことができない。飲み会で「最近どう?」と聞かれても、「まあまあですね」としか言えないのが本音だ。自営業は自由だと言われるが、自由の裏には「責任」が常につきまとう。その重さが、少しずつ肩に蓄積されていく。風呂に入っているときでさえ、登記のことが頭から離れない。この職業、正直しんどい。

事務員との距離感に悩む、微妙な関係性

雇用しているとはいえ、たった一人の事務員との関係は極めて繊細だ。立場上、指示を出さなければならないが、感情的な距離が近いぶん言葉選びに気を遣う。うまく指示が伝わらなかったとき、「ああ、自分の説明が悪かったな」と自己嫌悪に陥る。とはいえ、こちらも余裕がないときには、つい冷たい言い方をしてしまうこともある。そして夜になって後悔する。その繰り返しだ。

雇っているのに気を遣う、変な立場

本来であれば、雇い主と従業員という関係。しかし、現実はそううまく割り切れない。特に小規模事務所では、一人ひとりの存在が業務全体に大きく影響する。事務員が不機嫌そうだと、それだけで一日中ソワソワする。休みを希望されたとき、「いや、それ今言う?」と思いながらも「大丈夫ですよ」としか言えない。結局、自分が無理をしてカバーするだけ。こういうの、うまくやってる人がいたら本当に尊敬する。

仕事の指示が「指示」にならない葛藤

「これお願いできますか?」という言い方が正解なのか、「これやってください」が正しいのか、毎回悩む。遠慮しすぎると伝わらないし、強く言えばギスギスする。過去に一度、少し語気が強くなってしまっただけで翌日から微妙な空気に。自分の感情と業務のバランスを取るのが、本当に難しい。まるで、板の上に水を乗せて揺らさないように運んでいるような気持ちだ。

感謝と遠慮が入り混じる日々

仕事を任せるとき、内心「本当にありがとう」と思っている。でもそれを口に出すと、なぜか逆に距離が生まれるような気もしてしまう。礼を言いすぎると軽く見られそうで、でも言わなければ自分の気が済まない。この感覚、伝わる人には伝わると思う。結局、自分の中で答えは出ないまま、毎日をなんとなく乗り切っている。相手は気にしていないかもしれないのに、自分だけが気にしている。そんな不器用な毎日。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。