たまの休みに限って緊急対応

たまの休みに限って緊急対応

休みの日に限って鳴る電話の恐怖

やっとの思いで確保した休日。前日までに書類を仕上げ、スーツも脱いで、少しだけ羽を伸ばすぞと気合いを入れたその朝。枕元でスマートフォンが震え出す。ディスプレイに映るのは、見覚えのある依頼人の名前。あぁ、今日は何か起きる日だったんだと悟る。休みの日に限って、なぜこうもタイミングよく“緊急”の連絡が来るのだろうか。日常業務の中でも、この「鳴ってほしくない電話」は特別に精神を削る存在だ。

なぜか日曜日に集中する「至急お願いします」案件

私の事務所では、基本的に土日祝は休業としている。それでも、なぜか「日曜日の朝」に限って、電話やLINEで「今すぐ相談できますか?」という連絡が舞い込む。平日には音沙汰がなかった依頼人が、休日になると急に慌て出すパターンが多い。しかも大抵が、平日のうちに対応できたであろう内容だったりするから、余計に疲れる。自分の無力さより、相手の“都合”に振り回されている気がして、心が荒れる。

休日の朝に感じる不穏な気配と着信音

経験上、朝の6時台や7時台にスマホが震えると、ほぼ間違いなくロクな連絡ではない。もちろん誰も悪気はないのだろう。しかし、自分の気持ちの中では「なんでよりによって今日なんだよ」と毒づいてしまう。外は晴天。近所の子どもの笑い声が響く中で、私はスーツに袖を通し、依頼人の元へ向かう。そんな時、自分だけが世界から取り残されたような、なんとも言えない孤独感が湧いてくるのだ。

メールチェックさえしなければよかったという後悔

「今日は完全にオフにする」と決めたのに、ついスマホを開いてしまう。メールやメッセージに目を通した瞬間、見てしまった自分を後悔する。「気づかなければそのまま休めたのに」と思いながらも、性分なのか無視できない。結局、返信し、やりとりが始まり、事務所に向かう。メールを開くという行為が、まるで自分の首を絞めるスイッチのように思えてくる瞬間がある。

「ちょっとだけ手伝ってください」に潜む罠

依頼人から「ちょっとだけ相談があるんですけど」という言葉を聞いた時、私はもう警戒モードに入る。なぜなら、「ちょっとだけ」が「全部やってください」になることを、私は何度も経験してきたからだ。特に休みの日は、その罠に気づいていながらも、断れない自分に腹が立つ。そして結局、休日がつぶれ、何のための休みだったのか分からなくなる。

軽い頼みごとほど重くなる現場のリアル

「書類を一枚だけ確認してほしいんです」――それだけなら5分で終わるだろうと思って引き受ける。だが、実際には記載ミス、添付不足、本人確認書類の不備、ついには相談内容の拡大解釈が始まり、気づけば1時間、2時間と過ぎていく。こちらとしてはその時間は“休みの中から切り取られた”貴重な時間だが、相手にとっては「ついでにもうひとつ」の感覚。感謝されることもなく、ただ疲れだけが残る。

結局全部こちらがやる羽目になるまでの流れ

「最初は自分でやってみます」と言っていた依頼人も、結局「やっぱり無理そうなのでお願いできますか?」に変わる。頼られるのは嬉しい。でも、だったら最初からそう言ってくれたら、こちらの段取りも考えられたのにと思う。書類作成だけでなく、役所の連絡や日程調整までこちらがやることになると、「これってもう全部こっちの仕事じゃん」と苦笑いすら浮かばなくなる。

相手は悪くない。でも……と自分に言い聞かせる日々

依頼人が悪いわけじゃない。多くの人にとって、法務の手続きなんて人生に何度もあることではないし、不安もあって当然だ。ただ、こちらも人間。仕事だからと割り切っていても、重なるとしんどい。何より、自分の時間を削って対応しても、その「しんどさ」は誰にも伝わらない。そんな時、「せめて誰かが気づいてくれたら」と、つい誰にも言えない思いが溜まっていく。

休みを確保する難しさと罪悪感

「自営業なんだから、好きなときに休めていいね」なんて言われることもあるけど、実際は逆だ。誰も代わりがいないから、休めばその分すべてが止まる。そのうえ、休んでいることに罪悪感を感じてしまうのは、長年染みついた習慣のせいかもしれない。きちんとした休日を取るという行為が、どこか自分にとって「わがまま」に感じてしまう。

「他の人が休んでるときに働くのが司法書士」と割り切れない

確かに、登記や相続、売買などの案件は、平日に動けない一般の方々のために、土日祝に対応することが求められる場合もある。でも、常にそれを受け入れていたら、こちらの心がすり減ってしまう。「人の役に立っているから頑張れる」と思いたいけど、割り切れないのが本音だ。誰かの幸せの裏側で、自分がどんどん疲弊していく感覚は、なかなか言葉にできない。

独立したのに休めないという矛盾

独立すれば自由になれると思っていた。でも実際は、責任と不安の重さがのしかかり、以前よりも休みが取りづらくなった気がする。誰に何を言われたわけでもないのに、「このタイミングで休んでいていいのか」と、ひとりで自問自答してしまう。組織に属していたころの“有給”のありがたみを、こんなに噛みしめる日が来るとは思ってもいなかった。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。