孤独に勝ったつもりで、誰にも頼れなくなった日

孤独に勝ったつもりで、誰にも頼れなくなった日

あの日、「もう孤独なんて慣れた」と思っていた

司法書士の仕事って、基本的に一人で完結することが多い。依頼を受けて、書類を作って、登記を進めて、時には法務局や依頼人とやりとりする。それで1日が終わる。そんな日々が何年も続くと、気づけば「ひとり」に慣れてしまう。いや、慣れたと錯覚する。でもある日、事務所でひとり黙々と書類を作っていたとき、ふとした瞬間に「あれ?誰とも会話してないな」と気づいた。昼に食べたコンビニのパンも、黙って机でかじった。あの静けさが、あまりにも無音すぎて、なんだか自分の存在が消えていくような錯覚を覚えた。

忙しさにまぎれていたのは、心の声だった

たしかに、日々の業務は忙しい。電話も鳴るし、書類も溜まるし、期限は待ってくれない。けれど、それらに追われるうちに、心の奥から聞こえていたはずの「誰かとちゃんと話したい」という声を無視していたのかもしれない。正確には、聞こえてはいた。でも無視することに慣れていた。誰かとゆっくり話す時間なんて、仕事が落ち着いたら…と思い続けてもう5年。忙しさは、心の寂しさを誤魔化すにはちょうどよかった。でも、誤魔化し続けていたら、自分の感情がどこか遠くへ行ってしまったような、そんな感じがする。

「平気なふり」は仕事では便利なスキル?

司法書士は、依頼人から「安心」を求められる仕事だ。だから、少しぐらい心が沈んでいても、元気なふりをすることがある。むしろ、それが仕事の一部だと思っていた。でも、それって本当に必要だったのか? たとえば、依頼人に「今日は調子悪くて…」なんて言うのはもちろんNGだ。でも、同業者や仲間にまで同じように振る舞っていたら、自分で自分を閉じ込めているようなものだ。平気なふりは、やがて習慣になって、本音を出せない自分を作ってしまう。

慣れると鈍る。鈍ると気づけなくなる

最初は意識していた「ちょっと無理してるな」という感覚も、日々繰り返すうちに鈍ってくる。そしてある日、ふと心が折れていることに気づく。なんだか毎朝の出勤が重たい。書類を見るだけで頭が痛くなる。そんなとき、「あれ、自分って、こんなに疲れてたっけ?」と驚く。でもそれは、ずっと前から出ていたサインを見落としていただけだ。孤独に「慣れた」んじゃなくて、「気づかなくなった」だけだったんだと思う。

頼ることができない職業病

司法書士という仕事には、「一人で完結できる強み」がある。でもそれは裏を返せば、「誰にも頼らなくて済む」という罠でもある。自分の判断、自分の責任、自分の処理能力。すべてが自分にかかっているからこそ、誰かに「ちょっと手伝って」と言えなくなる。気づけば、仕事だけでなく、感情の整理すら一人で抱えるようになっていた。

司法書士って、結局ひとり作業なんですよね

登記の処理、契約書の確認、相談者へのアドバイス…日々の業務は「チームで分担」というより「ひとりで完結」が基本。事務員さんに任せられる部分もあるけれど、肝心なところは結局自分でやらなきゃいけない。そうなると、孤独というより“自己完結主義”になっていく。そして、そのスタイルがクセになる。やがて、誰かに話すより、自分の中で処理する方が楽に感じてしまうようになる。

「困った」と口にしたとき、誰が助けてくれるのか

あるとき、登記の不備が続いて心が折れかけたことがある。でも、誰にも相談できなかった。相談する相手がいなかったわけじゃない。たぶん「自分でやらなきゃいけない」と思い込んでいた。そして「こんなことも自分で解決できないなんて情けない」と自分を責める。誰かに「困った」と言えれば、少し楽になったかもしれない。でもその言葉を口にできる相手を、作ってこなかったのは自分だった。

「全部自分でやった方が早い」の落とし穴

事務作業にしても、スケジュール調整にしても、「自分でやった方が早いから」が口癖になっていた。でも、その積み重ねが、結果的に「全部自分でやらなきゃ」という思考に変わっていく。そしてそれが、誰にも頼れなくなる土壌を作っていく。気がついたら、事務員さんにも仕事を振らなくなっていた。それって信頼してないわけじゃない。でも、任せ方を忘れてしまっていた。そうなると、ますます孤独に拍車がかかる。

「話せる人がいる」のと「話せると思える人がいる」のは違う

友人や知人がいないわけじゃない。でも「この人には話せる」と思える相手がどれだけいるか。それが本当の意味での“孤独度”なんじゃないかと思う。形式的な会話ではなく、弱音を吐ける相手。自分がしんどい時に、「あーそれ、わかるわ」って言ってくれる存在。年齢を重ねるほどに、そういう人が減っていくのは実感している。だからこそ、意識的に“話せる環境”を作らないと、気づけば心が置き去りになってしまう。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。