ひとり事務所の現実：誰にも頼れない日々
地方でひとり司法書士事務所を営んでいると、何よりも「孤独」と「プレッシャー」がついて回ります。事務員さんを一人雇ってはいるけれど、頼みづらさや責任の重みは結局、自分ひとりで背負うことが多い。書類のチェック、顧客対応、電話、調整、登記…。一つ一つは小さな作業でも、積もれば山です。「ちょっと手伝って」が気軽に言えない雰囲気があるから、苦しくても表に出さない。結果、心身ともに擦り減っていく日々です。
「事務員がいるだけマシ」と言われるけれど
同業の友人に「事務員いるなんて羨ましいよ」と言われたことがあります。確かに、全部ひとりでやっていた頃に比べれば、今はまだ少しはマシなのかもしれません。でも、事務員さんにお願いできるのは限られた業務だけ。法的判断や責任が伴う部分は、当然自分でやるしかないし、頼んだあとのミスや誤解が怖くて、逆に気疲れすることもあるんです。
雑務の山は減らない
例えばある日、午前中に3件の電話、午後に役所とのやり取りが2件、夕方に顧客との打ち合わせが1件。どれも急ぎで対応しなければならない上に、書類作成は山積み。事務員さんには顧客対応やスケジュール管理をお願いしているものの、「この処理は絶対に自分で」が多すぎて、結局残業。土曜も事務所に出る羽目になります。
お願いするのも、気を遣う
頼むこと自体がストレスになることもあります。「これお願いしてもいいかな」と聞くと、「あ、はい…」と一拍おかれる。その一拍が気になってしまって、「やっぱり自分でやるわ」と言ってしまう。結局、誰にも頼れずに自分で抱える。そして夜に「ああ、また言えなかったな」と自己嫌悪。そんなことの繰り返しです。
「丸投げできない職種」の宿命
司法書士という職業は、最後は自分の名前で責任を負う仕事です。だからこそ、他人に任せることには限界がある。でも、それにしても全部自分でやろうとしすぎてるのかもしれないと感じる瞬間もあります。でもね、「これ、誰かにやってもらう」という発想そのものが、もう麻痺してるんです。
チェックするのも、結局自分
事務員さんが作ってくれた資料や入力も、最終チェックは当然自分がします。でも「チェック」じゃなくて、もはや「最初から全部やり直す」に近いこともあります。じゃあ最初から自分でやればよかったのか、という堂々巡り。時間だけが過ぎていき、心もすり減っていきます。
手間より責任が先に立つ
「手間がかかるかどうか」じゃなくて、「もし間違っていたらどうしよう」が先に来る。たとえ些細な入力ミスでも、登記に関することは信用問題につながります。そう思うと、自分が疲れていても眠くても、最後まで手を抜けない。これが毎日続くと、正直、きついです。
「助けて」と言えない理由
何度も「誰かに相談すれば楽になるんだろうな」と思ったことがあります。でも、どうしても言えない。「助けて」って言ったら負けた気がするし、頼った相手に申し訳ない気持ちが勝ってしまうんです。性格的なものかもしれませんが、司法書士という立場がさらに言葉を詰まらせるんだと思います。
プライドなのか、性格なのか
子どもの頃から「人に迷惑をかけるな」と言われて育ってきたせいか、人に頼ることにブレーキがかかるんです。特にこの仕事は「正確であること」「信頼されること」が命なので、弱音を吐くことが信用を損ねるんじゃないかと心配になる。だから「大丈夫」と言ってしまうけど、本当は全然大丈夫じゃない。
弱さを出すことへの罪悪感
「忙しくて大変なんです」とこぼすことが、まるで甘えのように感じてしまう。実際、そう言ったあとに「それが仕事でしょ」と返されたこともありました。そんな経験があると、もう言えないんです。口を閉ざして、自分の中で飲み込んで、ため息だけが増えていく。
「プロらしさ」に縛られている
「プロなら黙ってやるのが当然」みたいな空気があります。自分で勝手に作り上げたルールかもしれませんが、それに縛られてしまっている。「ちゃんとしてる司法書士」でありたい。そんな理想が邪魔をして、「疲れた」「無理だ」という言葉が出てこなくなってしまったのかもしれません。
仕事を減らすと、生活が苦しくなる矛盾
「もうちょっと仕事を減らせばいいのに」と言われたことがあります。でも、現実にはそう簡単にはいきません。地方の小さな事務所では、一件の仕事が収入の柱になることもある。依頼を断るということは、生活を切り詰めるということにも直結するのです。
依頼を断る勇気がない
忙しい時期に、急ぎの相続登記の依頼が飛び込んできた。明らかにスケジュールはパンパンなのに、「他を当たってください」と言えなかった。結局、無理して受けて、夜中まで残業。断ったら次はないかもしれないという恐怖が、いつも頭にあります。
「暇な司法書士」に見られたくない
「あの事務所、最近ヒマらしいよ」なんて噂話は、小さな町では命取りです。そう思うと、少々無理してでも依頼を受けてしまう。「断らない＝忙しい＝信頼されてる」という、妙な論理に縛られていて、助けてもらう前に、まず断れない。どうにも矛盾しています。
小さな声を出す練習
最近、ほんの少しだけ「助けて」に近い言葉を出してみました。「すみません、ちょっとお願いしてもいいですか？」という一言。それだけで、すっと肩の力が抜けた気がしたんです。人に頼ることが悪じゃない。そう思えた瞬間でした。
「手伝って」と言ってみた日のこと
ある日、忙しさのピークで頭が回らなくなって、「○○のコピーだけお願いできませんか」と事務員さんに頼んだことがあります。申し訳ない気持ちでいっぱいだったけれど、返ってきたのは「」という笑顔。それだけで、泣きそうになりました。頼るって、こんなに救われることだったんですね。
返ってきたのは、意外な笑顔
こっちが遠慮して言い出せなかったことも、相手にとっては「頼ってくれて嬉しい」と感じてもらえることがある。これって、大きな発見でした。今までずっと一人で背負ってきたけれど、少しずつでも分け合えることがあるんだと、ようやく気づきました。
弱さを出せる相手の大切さ
誰でもいいわけじゃないけど、「この人なら話してもいいかも」と思える存在がいるだけで、救われます。家族でも、同業者でも、事務員さんでもいい。助けてって言える相手を持つこと、それこそが司法書士にとっての大きなライフラインなのかもしれません。
少しずつでも、頼っていい
今すぐすべてを変えることはできません。でも、「ちょっと手伝って」と言えるようになるだけで、心の重荷はぐっと軽くなる。それだけでも、生きやすさは変わるはずです。司法書士だって人間。完璧じゃなくてもいい。
自分ひとりで全部抱え込まなくてもいい
「自分でやらなきゃ」と思い込んでいたけれど、実際には「やりすぎていた」だけだったのかもしれない。全部やろうとすればするほど、自分が壊れてしまう。ちょっと肩の力を抜いて、少しでも助けを借りる。そんな選択肢があってもいいんだと思います。
司法書士も人間なんだから
肩書きは司法書士でも、心はただの一人の人間です。疲れることもあるし、泣きたい夜もある。それを否定せず、少しずつ受け入れていけたら――「助けて」が言えなくても、「頼ってもいいよ」と自分に言えるようになれたら、それだけでずいぶん救われるのかもしれません。
