「知り合い価格でお願い」と言われたときの心のざわつき
「知り合い価格でお願いできる?」。この言葉、聞くたびに複雑な気持ちになります。地方で司法書士事務所をやっていると、どうしても顔見知りからの依頼が多く、料金交渉というより“値切り”が日常的にあります。こちらも人間ですから、頼まれごとには応えたい気持ちはあります。しかしそれが積み重なると、「結局、正当な対価をもらってないな…」という思いに支配されてしまうのです。
「頼みやすい人」ほど損をする現実
私自身、あまり強く断れない性格です。「あの人なら安くしてくれるよ」と思われてしまうことも多く、まるで「割引提供人」みたいになってることに気づく瞬間があります。ある日、同業の友人と話していたら、「お前、顔に“安くします”って書いてあるぞ」と笑われたことがあります。冗談ではありましたが、図星でした。優しさが損になるなんて、なんともやるせない話です。
値引きの裏にある「労働の軽視」
「ちょっと書類を作るだけでしょ?」なんて軽く言われることも多いですが、その“ちょっと”の裏にある法的責任や知識、手間の重みをわかってもらえないことが多いのです。価格を下げることは、自分の労働の価値を下げることに直結します。それを何度も経験すると、「もう誰のためにやってるんだろう…」という虚しさに襲われるんです。
善意の連鎖が断ち切られるとき
最初は善意で引き受けたつもりでも、それが次第に「あの人は安くしてくれる人」というレッテルになり、それを聞いた別の知人からも「俺も頼もうかな」という流れになりがちです。気がつけば、周囲の人の多くが“特別価格”で依頼してくる。結局、善意は伝播するのではなく、安売りの連鎖になるという現実に直面します。
値段の話ができる関係を築く難しさ
「お金の話をすると関係が壊れる」…そんな風に思ってしまうのが私の悪いクセです。司法書士という仕事柄、冷静に話すことは得意なはずなのに、料金交渉だけは苦手です。特に“知り合い”が相手となると、急に言葉を選びすぎてしまい、気まずい空気を作ってしまうことも多いです。やはり、日頃から「仕事には対価が必要」という感覚を共有していないと、スムーズなやり取りは難しいのかもしれません。
一度譲ると戻れない価格設定
以前、一度だけ「じゃあ今回は〇〇円でいいですよ」と軽く引き受けた案件がありました。ところがそれが悪手で、次回も同じ価格でお願いされ、さらにその人の紹介で来た依頼も“その価格基準”で話が進んでしまいました。自分で自分の首を絞めるとはこのことです。価格って一度譲ると、元に戻すのが本当に難しいんです。
プロとしての線引きと覚悟
「仕事としての線引き」をどこで引くかは、本当に難しい問題です。私の場合、最近ようやく「この金額以下では引き受けられません」と伝えられるようになってきました。最初はドキドキしましたが、「そうですよね」と理解してくれる方も増え、自分の価値を認めてもらえるような気がしています。線引きは勇気だけじゃなく、自分を守るための戦略でもあると実感しています。
断った後の気まずさと付き合う
断ったあと、「なんだよ、冷たいな」と言われたり、露骨に距離を置かれることもありました。そういうとき、「やっぱり引き受ければよかったかな…」と後悔する気持ちもあります。でも、自分をすり減らし続けることが本当に正解だったのか。答えは未だにわかりませんが、“気まずさ”とも付き合っていく覚悟が、長くこの仕事を続けていくためには必要だと感じています。