夜になると不安が膨らむときに思い出すこと

夜になると不安が膨らむときに思い出すこと

一日が終わると心に訪れる静かなざわめき

日が暮れて、電話も鳴らなくなり、パソコンの画面を閉じたその瞬間。ようやく仕事が終わったはずなのに、胸の奥にざわざわとした違和感が広がってくる。「今日の処理、間違ってなかったか」「あの件、あのままで本当によかったんだろうか」。日中は忙しさに紛れて気づかなかった不安が、夜になると決まって顔を出す。真っ暗な事務所の窓から外を眺めながら、時々そのざわめきに飲み込まれそうになるのが、正直なところだ。

昼間の喧騒と違って孤独が際立つ時間

司法書士という仕事は、昼間はとにかく相談や手続きでバタバタしている。事務員とやりとりしながら登記の確認、郵送、電話対応。やることは山ほどあって、「孤独」なんて感じている余裕もない。でも、夜になると全てが止まる。誰からも連絡は来ないし、声も音も消えていく。テレビをつけても、心のざわつきは静まりそうにない。元野球部だった頃は、常に誰かが近くにいた。でも今は、帰ってくるのも、夜を迎えるのも、独りだ。

誰にも見せない弱さが浮かび上がる

日中、依頼人には毅然とした態度を取っている。事務員の前でも「頼れる先生」でいなきゃと思う。だけど、ふと気を抜いた瞬間に浮かぶのは「自分って、ほんとにしっかりできてるのかな」という不安だ。心の奥に沈めていた弱さが、夜になるとじわじわと浮かんできて、自己嫌悪に変わる。強くなりたくて司法書士になったはずなのに、今の自分はむしろ、誰かに頼りたい側なのかもしれない。

心のなかで何度も繰り返すこれでよかったのか

処理を終えた案件に対して、「これでよかったのか?」と繰り返し自問してしまう夜がある。経験を積めば不安は減ると思っていたが、むしろ逆だ。選択肢が見える分、どれが最善だったかを考えるようになった。人の人生に関わる仕事だからこそ、簡単に割り切れない。高校球児だった頃は、試合が終われば勝ち負けが明確だった。でも今は、何が「勝ち」かも分からない。それが夜の不安をさらに深くしていく。

仕事を終えても思考は止まらない

業務が終わっても、頭の中では処理しきれなかった書類のこと、気になっている案件の進捗がぐるぐる回る。机に向かっていない時間でも、思考は止まってくれない。脳のスイッチをオフにできたらどんなに楽かと思うが、それができないのがこの仕事の辛さでもある。休日にさえ、ふとした瞬間に「あの件どうなったっけ」と思い出してしまう自分がいる。

依頼人の顔がふと頭に浮かぶ夜

何もしていない時間に限って、依頼人の顔が浮かぶ。特に、何か不安げに帰っていった方のことは、ずっと気にかかる。私の説明は足りていたか、もっと安心してもらえる言葉をかけられたのではないか。そういう後悔が、寝つけない夜の原因になることもある。正解がないからこそ、「もっとできたのでは」と自分を責めてしまう。

あのときの判断は本当に正しかったのか

たとえ手続き上は間違いがなかったとしても、心の中では「あの対応でよかったのか」と悩むことが多い。時間が経ってもその問いが消えることはない。依頼人の人生の節目に関わる仕事だからこそ、一つひとつの判断に重みがある。誰にも答え合わせができない世界で、ひとり自問自答しながら夜を越えていく。それがこの仕事の孤独であり、責任の重さでもある。

司法書士という職業が抱える静かな重圧

世間から見れば、堅実で安定した仕事に見える司法書士。でも、その裏には想像以上の重圧がある。決断を迫られ、正確さを求められ、感情を抑えて冷静に対応する。そうした積み重ねが、夜になると一気に肩にのしかかってくる。誰かに「よく頑張ってるね」と言ってもらえたら、少しは救われるのかもしれない。

日中は事務員と二人三脚の慌ただしさ

事務員との連携がうまくいかない日もある。忙しいのはお互い様なのに、ちょっとしたミスが重なると、つい声を荒げてしまうこともある。そんな自分に自己嫌悪。少人数ゆえに逃げ場もないし、気まずさを引きずったまま翌日を迎えることも珍しくない。人間関係の気遣いも、静かに疲れを溜めていく。

業務量に対する人手の少なさに疲弊

地方の小さな事務所だから、人手は常にギリギリ。専門職の業務に加えて事務作業も、電話応対も、全部自分でこなさないと回らない。事務員には限界があるし、外注するにも費用がかさむ。人を増やせない現実と、自分のキャパの限界。その狭間で、日々擦り減っていく感覚がある。

休めばいいのにと言われるのが一番きつい

「そんなに大変なら少し休めば?」と、善意で言ってくれる人もいる。でも、正直それが一番つらい。自分が休んだら仕事は止まるし、誰も代わりはいない。その責任感に縛られて、休むことさえできない。「倒れたら終わり」とは思っているが、じゃあ誰がこの仕事をやってくれるのか。考え出すと、また眠れなくなる。

地方ならではの孤独な立ち位置

都市部のように同業者とのつながりも少ない地方では、相談相手がいない。「ここで間違ってないか」と確かめる相手もいない。気軽に話せる仲間がいれば、どれだけ気が楽だろうか。けれど現実は、目の前の仕事をこなすのに精一杯で、人と会う余裕さえないのだ。

相談件数は多くても気軽なつながりは少ない

仕事の相談は多い。けれど、それは「業務」の話であって、「自分の気持ち」を話せる相手ではない。SNSを見ると、司法書士同士で楽しそうにやっている人たちもいるけど、自分にはそんな余裕もセンスもない。ただただ、一人で必死にやってるだけ。それが妙に惨めに思えてくる夜もある。

友達は減り恋人もできず気がつけば独り暮らし

忙しさを理由に連絡を絶った友人は数知れず。恋愛なんて、いつからしてないか覚えてない。気がつけば独り暮らし歴も15年。誰かと生きる未来が見えない自分に、焦りはないけど、なんとも言えない虚しさだけが残る。そんな夜は、眠るのも少し怖い。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。