気を抜いた瞬間が命取りになる日々

気を抜いた瞬間が命取りになる日々

一瞬の気の緩みが招く恐怖

司法書士の仕事は、一見すると地味で安定した業務に見えるかもしれません。が、現実は綱渡り。ちょっとした確認漏れ、たった一文字の記入ミス、一本の電話を後回しにしただけで、明日からの仕事が全部吹っ飛びます。私もそれを何度も経験してきました。誰かに怒鳴られるわけでもない、でも自分が自分を責め続ける。特に疲れている時ほど、その「気を抜いた瞬間」がふいにやってくるんです。そしてその一瞬が、あとで何倍ものしんどさになって返ってきます。

見落としたファックス一枚が地獄の入口だった

ある日、朝のバタバタした時間帯に届いた1枚のFAX。登記に関する確認事項が書かれていたのですが、私はそのとき事務員とのやり取りや電話対応に追われ、つい「あとで見よう」と脇に置いてしまいました。結果、その「あとで」はやってこず、書類提出期限を1日勘違いしてしまうという凡ミス。先方には平謝り、取引先の信頼も少し損ねました。自分では「そんなに大したことじゃない」と思っていたものが、相手にとっては致命傷になる。結局、一番自分がダメージを食らうのです。

確認したはずが…脳内チェックリストの罠

脳内で「あれはやった、これもやった」と思い込んでいるときほど、実は何もやっていなかったりします。私の場合、頭の中でチェックリストを作ってるつもりが、実際にはメモしていない。で、あとから「やったっけ?」と不安になる。こんなことが毎日起こるんです。事務員さんも気づかないときは、二人して見落とし。後追いの訂正書類、急いで走る法務局。体力的にも精神的にもすり減る一方です。紙に書いて確認していれば防げたはず…と後悔しても、時すでに遅し。

体は動いても頭が止まっていた日の話

疲労がピークに達していたある日、私は午前中ずっとお客様の相談に対応し、午後から書類の作成に入っていました。でも集中力はまるでゼロ。手は動いているのに、頭がまったく回っていない。結果、登記申請書にミスが連発。本人確認の欄に違う人の名前を入れてしまったり、添付書類が1枚足りなかったり…。提出後に法務局から連絡がきて冷や汗。あの時の頭の中は完全に空っぽだったんだと思います。こんな状態で働くこと自体、危険だと後になって痛感しました。

電話一本で崩れる予定表

司法書士の予定というのは、まるで積み木のように組み立てられているものです。ひとつでもズレると、全体がガタガタと崩れ出します。特に恐ろしいのが、突然の電話です。「今から伺ってもいいですか?」の一言が、今日のスケジュールを丸ごと飲み込んでいきます。柔軟に対応できるのがプロ…なんて思われがちですが、現場は常に火の車。それでも断れないのがこの仕事の難しさです。

朝イチの「今から行きます」にすべてが狂う

午前中に集中して処理する予定だった大量の書類。その日も事務員と段取りを組み、タイムスケジュールを詰めていました。ところが、8時58分。電話が鳴って、「今日しか行けないので、10時に伺いたい」と言われてしまう。来るのがありがたい反面、こちらの準備もままならず、焦りながら対応。結果、午後に予定していた他の案件がずれ込み、終業時間が3時間以上延びる羽目に。こういう「小さなズレ」が、積もり積もって大きなストレスになります。

段取り崩壊の連鎖と疲労の蓄積

一度崩れた段取りを修正するには、倍以上のエネルギーが必要です。しかもその間にも、次の案件や問い合わせが容赦なく入ってくる。休憩時間は削られ、食事もろくに取れないまま午後も突入。体だけでなく、頭もどんどん鈍くなるのがわかります。電話1本でこうも影響を受けるのかと思うと、怖さすら感じます。前もって調整できればいいんですが、現実はそう甘くありません。

「ちょっとだけ」が一日を奪う瞬間

「すぐ終わると思いますので、ちょっとだけお願いします」――この言葉、何度聞いたかわかりません。でも「ちょっとだけ」で済んだ試しはありません。気づけば1時間、2時間…。その間に来ていたメールや確認事項は後回しになり、結局夜遅くまで残業。体も心もすり減る一方です。断りたい気持ちは山々。でも一人で事務所を回していると、結局すべてを受け入れてしまう。それがまた自分を追い詰める原因になってしまうのです。

完璧にやったと思ったときほど危ない

「今回は完璧だったな」と思った仕事ほど、後から何かしらのミスが見つかることがよくあります。油断という名の敵は、常に背後から忍び寄ってきていて、こちらの慢心を待っているのです。私は何度も「これは完璧」と思った案件で痛い目を見ました。確認の抜け、印紙の貼り忘れ、記録のミス。どれも小さいけれど、司法書士にとっては致命的。自分に自信を持ちすぎたときほど、慎重さを失っていたことに気づかされます。

「これで大丈夫」と思った瞬間に限って戻ってくる

登記完了の報告をして「よし、完了」と気を抜いた矢先、法務局から電話が来る。「添付書類に不備があります」と。あれ?と慌てて確認すると、確かに一枚足りていない。自分では確かに確認したはずなのに、どこで間違えたのかも思い出せない。こういうことが続くと、「完璧」の基準がわからなくなってくるんです。どれだけ確認しても、「もしかしたら…」という疑念が頭に残る。終わった気でいた自分が恥ずかしくなります。

戻ってきた書類が突きつける自分のミス

法務局から送り返されてくる訂正書類。その封筒を開ける瞬間の、あの何とも言えない気持ち。ため息、後悔、自己嫌悪…。そのすべてが押し寄せます。「こんな初歩的なこと、なんで見落としたんだ」と自分を責めるしかない。事務員に言っても、結局は自分の責任です。クライアントにも謝らないといけない。でも何より、信頼を失うのが一番きつい。人の信頼って、失うのは一瞬、取り戻すのは何年もかかるんですよね。

プライドと焦りと言い訳の三重奏

「でもあのとき忙しかったし…」「そもそもあの人の連絡が遅かったし…」と、自分の中で言い訳が頭をよぎります。でも、それは誰にも通用しません。結局、自分のプライドを守るための心の逃げ道。でも、焦りと自責と、表向きの冷静さを装う自分がいて、心の中はもう大混乱です。こんなとき、せめて誰かに話せたら…と思っても、結局ひとり。事務員さんには重すぎる話もあるし、男友達にこんなグチを言えるわけでもない。こうしてまた、孤独が一層深まるんです。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。