今日も誰とも話してない日常、それでも仕事は待ってくれない

今日も誰とも話してない日常、それでも仕事は待ってくれない

朝、声を出さずに始まる一日

朝起きて、カーテンを開けて、コーヒーを淹れても、誰かと交わす「おはよう」の一言がない。天気がどうとか、夢の話とか、そういう日常の端っこにある会話が、ここ何年も抜け落ちたままだ。地方の司法書士として独立して十年以上、ひとり暮らしが長くなればなるほど、会話というものが「特別なイベント」になってしまった気がする。

テレビをつけることが会話の代わり

テレビの音がなければ、自分の生活音しかしない。冷蔵庫のモーター音と、電気ポットの湯沸かし音。それに自分の咀嚼音が混ざるだけ。朝の情報番組で、芸能人が「今日も元気にいきましょう!」と笑っているのを見て、「いや、元気ってなんだよ」と心の中で返す。それがこの頃の唯一の“会話”だ。独り暮らしの男が声を発する機会って、実はテレビに文句を言うときだけなのかもしれない。

コーヒーに話しかけたくなる朝

たまにマグカップを手に取りながら、「さて、今日も頑張るか」とつぶやく自分がいる。でもそれは自分に向けた気合いじゃなくて、誰かに聞いてほしい気持ちの代用だ。昔は彼女に朝のひとことを言うのが日課だったけど、そんな記憶も遠くなってしまった。今じゃ、コーヒーに向かって言葉を投げかけている。なんともシュールな朝だ。

「おはよう」すら言わない生活に慣れてしまった

「おはよう」を最後に言ったのは、いつだっただろう。事務員さんもシフト制で、朝はすれ違うことが多い。気がつけば、自分の発する第一声が「申請通ったかな」の独り言になっていた。声を出さない生活は、最初は寂しかったけれど、今はもう慣れてしまった。そういうものなんだろう。寂しさってのは、時間とともに静かに体に馴染んでしまう。

事務所に着いても、基本は一人芝居

ドアを開けて電気をつけて、パソコンを立ち上げる。この一連の流れも全部、無音。電話が鳴らなければ、本当に一言も発しないまま昼になる。司法書士って、業務上のやりとりはあっても、雑談が必要とされない仕事でもある。書類を作って、チェックして、提出して、戻ってくるのを待つ。それだけの日々が、音もなく流れていく。

事務員さんが休みの日はさらに無音

週に一度、事務員さんが休む日がある。そんな日は、余計に静かだ。電話のベルが鳴らなければ、本当に「人の声ゼロ」のまま時間が過ぎる。事務員さんの「先生、これ確認してください」って声がどれだけありがたいか、ああいう日になると身に染みる。必要最低限の会話でも、あるとないとでは心の安定が違うのだ。

独り言で進行する登記のチェック

「この添付書類…いけるか?いや、これじゃダメか」なんて、自分に言いながら確認している。誰もいない部屋でブツブツ言ってる姿は、はたから見たら怪しいかもしれない。でも、無音だと集中力が切れるというか、何か声を出してないと落ち着かないんだよね。もはや独り言すら仕事道具の一部になっている。

「何かしゃべりたい」欲求との戦い

昼前くらいになると、「誰か、何か話してくれないか」と思ってしまう。そんな都合よく人は現れない。だから、スマホで無意味なニュースを開いて、コメント欄を読む。それもまた、誰かの声を間接的に聞いてるような錯覚に浸るため。言葉が交わされないと、人ってこんなにも心が飢えるんだなと思う。

昼休み、スマホだけが相手

コンビニで買った弁当を広げて、スマホを開く。Instagramのストーリーズは、みんな誰かと一緒に笑ってる。LINEは通知ゼロ、SNSも反応なし。結局、食べている間も誰とも言葉を交わすことはない。「昼休みの雑談」が存在しないと、食事ってただの“作業”になるんだなと改めて感じる。

LINEは既読スルー、通知はゼロ

たまに思い出したように送ったLINEが既読スルーになると、「あ、やっぱり俺、今話す相手いないんだな」って現実を突きつけられる。かといって何か重い話をするほどの親密な関係の人もいない。誰かと話したいけど、誰とも話せない。これが45歳独身の現実なんだと、昼飯を噛みながらしみじみ思う。

食事中にふと感じる「自分って透明?」

コンビニのイートインで、周りのテーブルには高校生や夫婦がいる。笑い声が飛び交うなか、自分の存在だけが“無音”だ。別に悲しいことがあったわけでもないのに、何となく胸の奥がスースーする。誰かと一緒にご飯を食べるって、心の温度を上げてくれるものだったんだと、今になって実感する。

「孤独」って、こんなに日常に馴染むんだ

孤独って、最初は異物みたいに感じていたのに、今ではまるで空気のように日常に溶け込んでしまった。誰かと話さない生活、声を出さない時間。そんなものに違和感を覚えなくなった今、「これで本当にいいのか?」という問いすら浮かばなくなっている。そこが一番、怖いところなのかもしれない。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。