「何度も言ってますけど」って、そんな言い方ある?――地方の司法書士が感じた小さな絶望

「何度も言ってますけど」って、そんな言い方ある?――地方の司法書士が感じた小さな絶望

「何度も言ってますけど」で始まる心の崩壊

「何度も言ってますけど」――この一言、効きますね。僕は45歳の地方の司法書士です。事務所では事務員さんが一人いて、日々協力してやっています。忙しい中でミスが起こることもあるのですが、そのたびにこのフレーズを投げかけられると、胸に鋭いものが突き刺さります。相手は悪気があるわけじゃないのかもしれません。でも、その言葉に込められた「ちゃんとしてよ」という圧は、どうしても無視できません。年齢や肩書きの割に、自分の存在価値が薄れていくような気がして、ひどく落ち込むのです。

言い方ひとつで、人は簡単に壊れる

僕自身、事務員さんに怒鳴ったことはありません。というより、できません。お互い人間なので、感情のぶつかり合いは避けられないけれど、それでも「伝え方」って大事だと思うのです。とある日、僕が予定をうっかり見落としていたとき、「だから何度も言ってますけど!」と強めに言われたことがありました。その瞬間、言い訳もできず、ただうなだれてしまいました。こうして信頼って崩れるんだなと痛感しました。立場的には僕が上かもしれませんが、感情では完全に下でした。

怒っているわけじゃない。でも、確実に刺さる

「怒ってないですけど…」と前置きされたうえでの「何度も言いましたよね?」という言葉ほど、心がチクチクするものはありません。感情を抑えた口調であればあるほど、逆にその言葉の重みは増します。なぜなら、それは相手がすでに諦めの境地にあるから。信頼が徐々に失われていく過程を、冷静に告げられているような気がするのです。叱られている方がまだましで、こうした静かな断絶の言葉の方が、僕にはよほどきついのです。

「覚えてないんですか?」の追撃でトドメ

この手の言葉は続くことが多くて、「何度も言ってますけど」に続いて「覚えてないんですか?」とくると、もう完全に沈黙です。言葉を返す気力もなくなって、ただうつむいてしまう。「申し訳ない」というより、「もうダメだな」と思う瞬間です。何かを覚えていなかったことへの悔しさではなく、信頼を失ったことの絶望がじわじわと広がっていく感じ。こんなとき、自分はただの「ミス製造機」になった気さえしてきます。

司法書士という仕事の「理不尽な二重苦」

司法書士の仕事って、ミスが許されないんです。書類一枚の間違いが登記全体に影響しますし、最悪、損害賠償にも発展します。でも、人間ですからミスは起こる。しかも、事務員が間違っても、それを見落とした僕の責任。つまり、「自分のミス=自分の責任」「他人のミス=やっぱり自分の責任」なんです。この二重苦に耐えながら、毎日仕事をしています。

ミスは許されない、でも全責任はこっち

ある日、印鑑証明書の有効期限が切れていることに気づかず、書類を提出してしまいました。発覚したのは法務局からの指摘。実務的には事務員が管理しているものだけど、「それを最終確認しなかったのは司法書士ですね」と言われて、ぐうの音も出ませんでした。もちろん事務員に文句なんて言えません。言ったところで現場は回らないし、むしろ人間関係が壊れる。そうなると、また自分にしわ寄せが来るだけなんです。

自分が悪いのか、制度が悪いのか

この仕事に就いてから、何度も「自分が悪いのか、それとも制度が理不尽なのか」と悩むことがあります。法律は正しくても、現場では理不尽なことが多すぎます。僕たち司法書士は、顧客と法務局と事務員の板挟みになる存在。どこかで不満が出ると、まず自分が矢面に立つしかありません。そういう役回りなのだと割り切ってはいるものの、やはり心はすり減っていくのが現実です。

「先生」のくせに頼りなくてすみません

司法書士は「先生」と呼ばれる立場にいます。でも、実態は全然立派じゃない。仕事をミスすれば「だからダメなんだ」と言われ、うまくいっても当たり前。顧客からも事務員からも期待されている一方で、その期待に押し潰されそうになる日もあります。「先生って、もっとしっかりしてるもんだと思ってました」と言われたときは、内心ズタボロでした。頼られる嬉しさと、応えられない不甲斐なさの間で、僕は今も揺れています。

それでも、今日も登記をする

こんなふうに愚痴ばかり書いていますが、明日も僕は登記をします。誰かの役に立つために、たとえ感謝されなくても、やるべきことを淡々とこなします。間違えたら謝って、修正して、次に進む。誰にも褒められなくても、司法書士としての誇りだけは失いたくないんです。そしていつか、少しだけでいいから「先生、ありがとう」と言ってもらえる日が来ることを、どこかで信じていたりします。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。