「安心したい」なんて言えなかった日々
司法書士として独立してからというもの、誰かに「不安だ」なんて口に出すことはありませんでした。特に地方で一人事務所を構えていると、愚痴る相手すら限られてきます。相談を受ける側である自分が、不安を漏らすわけにはいかない。そんな思いが、心のどこかに根を張っていました。でも、本当はたった一言「今日は安心できた」と思えるだけで、救われたかったのかもしれません。
忙しすぎて、自分の気持ちに気づかない
朝から晩までスケジュールに追われ、郵便局や法務局を駆けずり回り、気がつけばもう夕方。そんな日々を何年も続けていると、自分の心がどんな状態かを見失います。ふと気が緩むと、わけもなく不安が押し寄せてきて、ため息ばかりついている自分に気づく。安心したいという欲求にすら、蓋をしていたのかもしれません。
誰にも頼れない現実と、頼られる責任の重さ
自分ひとりで事務所を背負い、事務員さんにさえ弱音を吐けない。そんな状況は、思っていた以上にプレッシャーが強いものです。お客さんからの「先生に頼んでよかった」という言葉は嬉しい。でもその一方で、「次も絶対にミスできない」という恐怖も膨らむばかり。安心よりも、責任と緊張のほうが常に上を行っていました。
独立して15年、それでも不安は消えない
気づけば司法書士として独立してから15年が経っていました。15年というと、何かしら「慣れ」や「安定」があってもいい頃合い。でも現実は違いました。年を重ねれば重ねるほど、不安も増す。不測の事態に備えなければ、という意識ばかりが強くなり、安心という感情がますます遠ざかっていくのです。
「このままでいいのか?」という夜中の自問自答
夜、事務所の電気を消して自宅に帰る途中、ふと浮かぶ問い。「この仕事をずっと続けていて、自分は幸せなのか?」そんな疑問が、年々リアルになってきます。誇りはある。でも、それが心の安定につながるわけではないという現実。結局、安心という感情が欲しいのは、自分も誰かと同じ「ただの人間」だからなのでしょう。
依頼はある。でも、なぜか不安が残る
ありがたいことに、仕事の依頼はそれなりにあります。でも、それでも心のどこかにぽっかりと空いた穴が残っているような感覚があります。お金の不安じゃない、人間としての存在価値や、やっていることの意味を問いたくなる時がある。依頼数と安心感は、比例しないのです。
収入はある。でも、心が満たされない
生活に困っているわけではありません。収入も、同年代の平均よりはあるでしょう。それでも、夜にひとりでご飯を食べながら、「ああ、今日も誰とも話さなかったな」と思う瞬間が一番つらい。心を満たす「何か」は、どうやらお金では手に入らないらしいということに、ようやく気づいてきました。
同業者と話す機会が減ってしまった
コロナの影響もあって、同業者とのつながりが激減しました。昔は研修会や飲み会で、自然と話せる場があったのに、今はその機会がめっきり減っています。誰かと「最近どう?」って話せるだけで、不安の半分は和らぐのに、それすらできなくなってきました。
孤独を選んだのは自分。でもやっぱり寂しい
都会を離れ、地元に戻ってきて事務所を開いたのは自分の選択です。誰にも邪魔されず、自由にやれる環境がほしかった。でも、静けさは時に孤独と紙一重。自分で選んだ道だけど、「もう少し誰かと話したい」と思う日が増えてきたのも事実です。
「同じように感じてる人、他にもいるのかな」
不安を感じながらも日々仕事をこなしている同業者は、きっと他にもいるはずです。でも、それを表に出す人はほとんどいません。みんな平気な顔してやってるけど、心の中では案外、同じように思ってるんじゃないか。そんな共感を、どこかで感じたくなる自分がいます。
事務員さんの支えに、心が救われることも
今の事務員さんは、勤続5年目になります。特に多くを語るわけでもないし、プライベートの話をすることもほとんどない。でも、彼女が毎朝事務所の鍵を開け、黙ってファイルをそろえてくれる姿に、何度も救われてきました。大げさに言えば、彼女の存在だけで、この事務所は保たれているのかもしれません。
無言の気遣いが、予想外に沁みる
ある日、机の上にそっと置かれていた缶コーヒー。「あれ、これどうしたの?」と聞くと、「多めに買ったので」とだけ返されました。そんなさりげない気遣いに、思わず泣きそうになることもあります。口数の少ないやりとりの中に、安心の種が隠れていると感じた瞬間でした。
感謝してる。でも、うまく伝えられない
「ありがとう」の一言を、なぜこんなに言いにくいのか。男同士ならまだしも、相手が年下の女性だと、どう伝えていいかわからない。無愛想な態度になってしまう自分に自己嫌悪しつつ、でも心の中では何度も「感謝してる」とつぶやいています。安心って、たぶん、こういう気持ちの積み重ねから生まれるんですよね。