ただ誰かに大丈夫と聞いてほしい夜がある

ただ誰かに大丈夫と聞いてほしい夜がある

ひとりで頑張るって決めたけど

司法書士として独立してからというもの、誰かに頼るという発想がどんどん遠のいていきました。「自分の力でなんとかする」。それが当たり前になってしまった。毎朝ひとりで事務所の鍵を開けて、依頼書をチェックし、ひとつひとつの案件に取り組む。たまに事務員さんが声をかけてくれるけれど、業務的な内容がほとんどで、そこに感情を交わす余白はあまりない。帰り道、コンビニで買うのはおにぎりと缶コーヒー。肩にかかるカバンが、いつの間にか心の重さを象徴しているように思える夜もある。

昔は強がることで自分を守っていた

中学高校と、野球部だった。ケガしても「大丈夫っす」と笑って練習を続けたあの頃。今思えば、あの「大丈夫」は誰にも迷惑をかけたくないという強がりだった。それが今も抜けない。大人になっても、痛みや疲れを誰かに伝えることに、どこかで「弱い」と思ってしまっている。だから、無意識に「大丈夫なふり」をしてしまう。けれど、本当はたまには誰かに「大丈夫?」って聞いてほしい。ただそれだけのことで、救われる気がするのに。

野球部時代の根性が染みついている

「痛いって言うな」「疲れたって言うな」。そんな風に叩き込まれてきたから、つらいときに「助けて」が言えないまま大人になった。あの頃は「根性」が美徳だった。でも今思う。あの「根性」が自分を守ってくれた一方で、今の自分を縛ってもいる。誰にも見せられない「疲れ」が積もっていくと、それはもう根性ではどうにもならない重みになる。

頼られることに慣れすぎた代償

司法書士という仕事柄、「先生、頼りにしてます」と言われることが多い。もちろん嬉しい。だけど、頼られる側ばかりの毎日は、知らぬ間に心をすり減らす。誰にも頼れない。誰かに「お疲れさま」と言ってもらうことも少ない。気づけば、肩肘張って笑っている自分ばかりになっていた。

独立したあの日から孤独はセットだった

地方で司法書士として独立したあの日、「これからは自分の力でやっていこう」と覚悟を決めた。がむしゃらに動いた。地元の信頼を得るために、休日も返上で対応した。クレームにも頭を下げ、トラブルには身体を張って対応した。でも気づいたら、孤独と疲労が常に隣にいるようになっていた。開業の自由の裏に、こんなに寂しさがあるとは想像もしていなかった。

司法書士って孤独な仕事だと思う

たとえば税理士さんや弁護士さんのように、チームで動くことが当たり前の職種もある。でも司法書士は違う。大半の業務はひとりで完結する。だからこそ、孤独だ。判断も対応も自己責任。お客さんとの関係も一期一会が多く、継続的な信頼関係に至ることは少ない。誰にも弱音を吐けないまま、今日も黙って処理を進める。

事務員さんがいても話せないことはある

ありがたいことに、今は一人の事務員さんに支えられている。でも、自分の不安や迷いをその方に話すわけにもいかない。「先生、どうかされましたか?」なんて聞かれたことはない。そりゃそうだ。自分がそういう雰囲気を出さないようにしているのだから。でも、心のどこかで「聞いてくれたら、きっと泣いてしまうだろうな」と思う日もある。

ふとした瞬間に感じる弱さ

仕事がひと段落して、夜の事務所にひとり残ったとき、ふと机に突っ伏したくなることがある。誰に見られているわけでもないのに、張りつめていた気持ちがゆるむ瞬間。強くあろうとすればするほど、弱さが隠しきれなくなる。そんな自分に気づくと、余計に情けなくなって、また自分を責めてしまう。

今日もよくやったなって言ってくれる人がいない

誰に認められなくても頑張れる。そう思っていた。でも本当は違った。「今日も頑張ったね」と、ただそう言ってくれる人がひとりいるだけで、救われる夜がある。独身の身には、その言葉すら届かない。スマホを見ても、LINEは広告ばかり。SNSでつながっていても、心まではつながっていない。そんな夜が続く。

仕事帰りのコンビニで何を買うかに悩むほど空虚

晩ご飯、今日は何にしようかとコンビニで立ち尽くす。その瞬間、「俺って何のために働いてるんだろう」と思うことがある。誰かのためじゃなく、自分のためだけの生活。それは時に自由で、時に虚しい。弁当を選ぶ手が止まるたびに、答えのない問いが胸に刺さる。

スマホに誰からも連絡が来ない夜

仕事用の電話が鳴り止んだ後の静けさが、やけに重たい夜がある。誰からも求められていないような錯覚に襲われる。たった一通の「元気?」というメッセージが、こんなにも欲しい日があるとは。心のどこかでずっと誰かを待っているのに、それを認めることすら苦しい。

電話の着信に期待してしまう自分がいる

通知が鳴ると、ついスマホを見てしまう。誰かからの連絡かもしれないという期待。けれど、ほとんどが業務連絡か通知アプリ。人として、ただ「話したい」「聞いてほしい」と思える存在がどれほど貴重か、独立してから思い知った。司法書士としての自分は、誰かの役には立っているけれど、自分の心はどんどん擦り切れていく。

誰かの大丈夫が欲しいだけなのに

「大丈夫?」とたった一言、聞いてもらえるだけで、人は驚くほど救われる。僕もきっとそう。相談者には何度もその言葉をかけてきた。でも、誰かにその言葉を向けられた記憶は、もう思い出せないほど昔のことになっていた。求めるほどでもないけど、心がそれを渇望している。そんな自分を、どう扱っていいか分からないまま、また夜は更けていく。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。