「なんでそんなに高いんですか？」という一言に凍る
その一言を言われた瞬間、頭が真っ白になりました。私は地方で司法書士をやっており、日々コツコツと登記や相続の手続きをこなしています。もちろん報酬は事前に伝えていたし、内容も丁寧に説明したつもりでした。でも相手の口から出たのは「なんでそんなに高いんですか？」という一言。こちらとしては誠実に仕事してきたつもりだっただけに、心にズシンと響きました。
善意でやってるつもりだったのに
その案件は、相続登記に関するものでした。戸籍の収集から、不動産の名義変更、相続人同士の調整など、なかなか手間がかかる内容でした。でも相手は高齢者で、複雑な手続きを一人で抱えて困っていたため、「少し安くしておきますよ」と自ら言ったんです。それでも、「高い」と言われた。善意でやっていたつもりが、まるでぼったくりのように言われた気がして、心底がっかりしました。
沈黙の数秒間に過る思い
「この金額に納得できないのなら、どうしたらよかったんだろう」と、その瞬間いろんな思いが頭を駆け巡りました。説明が足りなかったのか、もっと安い業者を紹介すべきだったのか、それとも最初から断るべきだったのか。だけど現実は、ただ「……そうですか」としか返せなかった自分がいて、そのことにもまた自己嫌悪を感じるのです。
司法書士の報酬って本当に高いのか
世の中には「高い」と感じる人もいれば、「安い」と感じる人もいます。でも、司法書士の報酬がなぜその金額なのか、その根拠を知らずに判断している方も多いと感じます。すべての業務が等しく高額というわけではありません。しかし、正当な対価であることは、胸を張って言えるのです。
そもそも「高い」と感じる理由
報酬の話になると、だいたい「書類出すだけでしょ？」という言葉が返ってきます。その一言がどれだけ専門職の心を折るか、わかってほしいところです。そこに至るまでに、いくつの書類を集め、何度も役所や法務局に足を運び、何度も確認と修正を重ねているか。机上の仕事に見えて、実際は地味で骨の折れる作業ばかりです。
ネットに溢れる格安サービスとの比較
「ネットで頼んだら5千円だった」と言われることもあります。たしかに自動化されたシステムで、単純な手続きだけなら格安で済むこともあるでしょう。でも、実際は「一見単純だけど、少しイレギュラーな状況」に対処できないケースが多く、結局こちらに持ち込まれてくることになります。そうなると、余計にややこしくなっているのに、「なんで余計にかかるのか」と言われる始末です。
「書類作成＝簡単」という誤解
「Wordで書けばすぐでしょ？」という言葉もよく聞きますが、我々の書類は“様式に従えば良い”という次元ではありません。法令や登記官の運用方針、前提となる権利関係の判断など、背景知識がなければ書けない世界です。それを「簡単な書類」と言われてしまうと、やる気も萎えてしまいます。
地方ならではの価格交渉のリアル
私は地方で開業して15年ほどになりますが、都会と違って価格競争が激しいわけではない代わりに、「人間関係のしがらみ」による値引き圧力がかなりあります。しかも、付き合いのある人ほど“値引きありき”で話を進めてくる。これは本当に精神的にキツいんです。
都市部と比べて単価は下がる
同じ登記をやっても、都市部と比べると1〜2万円単価が下がることはザラです。それでも固定費は変わらないし、交通費だってむしろ田舎のほうがかかることもあります。それでも「地域密着でやってるんでしょ」と言われてしまう。誠意が報われない感じがして、ふとむなしくなる瞬間があります。
「知り合い価格」の圧力がキツい
「昔から知ってるでしょ」「同じ町内だから」そんな理由で値引きを求められることがあります。もちろん全員じゃありません。でも、そういった依頼に限って手がかかるんです。報酬の説明を丁寧にしても、最後は「それで、いくらまけてくれるの？」という空気に負けそうになります。
心がすり減った後の回復法
正直、帰宅してからもモヤモヤが消えない日があります。独立して仕事している以上、すべて自分の責任ですが、それでも「なんでこんな思いまでしてやってるんだろう」と思ってしまう。そんなとき、どうやって立ち直っているか、自分なりの対処法を書いてみたいと思います。
愚痴を吐き出せる相手の存在
ありがたいことに、同業の友人が数人います。年に数回、情報交換という名目で集まり、結局は愚痴大会になります。笑いながらも「俺もそれ言われたよ」という話が出てくると、妙に安心するんですよね。自分だけじゃないとわかると、少しだけ前向きになれます。
たまには「断る」勇気を持つ
以前は「すべて受けなきゃ」という気持ちが強く、無理な依頼でも引き受けていました。でも最近は、無理な価格交渉をされたときは「が、うちでは難しいです」と丁寧にお断りするようにしています。すると意外にも、相手が考え直して「じゃあお願いします」と言ってくれることもある。断ることは悪ではない、と気づいた瞬間でした。
あの日の「なんで高いの？」を、今どう思うか
あの一言を言われた日、帰りの車の中で「もう辞めたい」とさえ思いました。でも結局、翌日もまた事務所に出て、黙々と書類に向き合っていた自分がいます。おそらく、私にとってこの仕事は、悔しい思いをしながらも続けていけるくらいには、やりがいがあるんだと思います。
腹は立ったけど、少しだけ冷静になれた
あのとき、咄嗟に言い返さなかったことを、少しだけ自分で褒めています。たぶん、言い返していたら、関係も崩れていたし、自分ももっと後悔していたでしょう。今思えば、感情に流されない判断ができたというだけでも、司法書士として成長したのかもしれません。
そして今日も黙って働いている
「なんでそんなに高いんですか？」と言われる日もあれば、「ありがとう、本当に助かりました」と言ってもらえる日もある。それがこの仕事です。愚痴は尽きませんが、やっぱり誰かの困りごとを解決できた日は、心が少し軽くなる。だから今日もまた、黙って机に向かっています。
