登記完了日を1日間違えた——たったそれだけのことなのに
たった1日。日付の確認を1日間違えただけで、信頼も信用も、1件の依頼も、すべてがガラガラと崩れ落ちるなんて思ってもみませんでした。司法書士として日々忙しく業務に追われていると、細かい確認作業を「後でいいか」で流してしまいがち。でも、その「1日」が取引先や依頼者、そして自分自身に大きな痛手を与えるなんてこともあるんです。今回は、そんな痛い体験を共有しつつ、なぜそれが起きてしまったのか、そして今後どう防げるのかを、正直に書いていきます。
小さな油断が生む大きな代償
「ま、明日で大丈夫だろう」の甘さ
登記完了予定日を「たしか○日だったよな」と頭の中で勝手に決めつけてしまったのが始まりでした。メールで通知は来ていたのに、ろくに確認もせず、「明日には完了してるはず」と楽観的に見積もった自分の判断が命取りに。時間に追われていると、人間は都合のいいように情報を解釈してしまうんですね。
確認したつもりが“見た気になってただけ”
「確認したつもり」ほど恐ろしいものはありません。私も件の登記について「完了したと思ってた」と言い張ってしまいましたが、実際には通知メールを開いてもいなかったという有様。しかもメールのタイトルだけ見て「もう大丈夫」と思い込んでいたのだから救えません。習慣的に確認作業を曖昧にしていると、こういうミスが起きるんだなと、身に染みました。
依頼人からの電話で血の気が引く
「まだ終わってないみたいなんですが…?」
あの日の午前10時すぎ、依頼人からの電話。なんとなく胸騒ぎがして出たら、予感は的中。「司法書士の先生、法務局に確認したらまだ完了してないって言われたんですけど…」。一瞬、頭が真っ白になりました。「えっ、もう終わってるはず…じゃないの?」と口に出しかけて、慌てて法務局のサイトを確認。……完了日は明日。目の前が真っ暗になりました。
法務局の処理タイミングとこちらの思い込み
今回のミスの裏には、法務局の処理スケジュールと、こちらの勝手な思い込みのズレがありました。たとえば、補正もなくスムーズに通る案件だと「数日で終わる」という前提で動いてしまう。そしてその“数日”が、自分の中ではすでに具体的な“日付”に変換されている。でも、実際には祝日や混雑の影響で処理がズレ込むこともある。それを見越していなかった自分の甘さが露呈した瞬間でした。
なぜ間違いが起きたのかを冷静に振り返る
落ち込んでばかりもいられないので、冷静に原因分析をしてみました。いくつかの小さなミスが積み重なって、大きなトラブルになった今回の件。その中身を振り返ることで、同じ失敗を繰り返さないようにしようと思います。
システムに頼りすぎたツケ
電子申請通知の誤読と勘違い
今や申請も完了通知もすべてオンライン。便利になった反面、通知メールをちゃんと読まずに「来たから完了だろう」と早合点してしまうことが多くなりました。今回はまさにそれ。件名に「完了予定日」と書かれていただけで、肝心の「完了したかどうか」は記載されていなかったのに、思い込みで突き進んでしまったんです。
「完了通知」は届いたけど、それって「翌営業日」なんだよね
忘れがちなのが、法務局の完了日は「発送日」ではなく「登記簿上の完了日」。つまり、金曜に処理されて通知が届いても、登記簿上では「月曜完了」になることもある。今回はまさにそれで、「金曜に通知が来た=金曜に完了」と思い込んでしまい、月曜に取引を設定してしまった。完全に自分の確認不足でした。
事務員との分担と認識ズレ
「確認しといて」と「ちゃんと確認してました」のすれ違い
私の事務所は私と事務員1名の少人数体制。「完了の確認はお願いね」と言ったつもりでも、相手は「完了したら知らせます」と受け取っていた。お互いの認識がズレていると、こういった確認作業が抜け落ちる。指示や共有を「言った・聞いた」ではなく、目で見える形にすることの大事さを痛感しました。
たった1日のズレが引き起こす業務への影響
こんな小さな勘違いが、あれほど大きな混乱を招くとは思っていませんでした。たかが1日、されど1日。スケジュールが分単位で動いている登記業務の現場では、この「ズレ」は致命的になることもあるんです。
取引スケジュールの大混乱
買主・売主・仲介会社、全員に謝罪の電話
今回の登記は、不動産の引渡しと同日完了を前提にスケジュールが組まれていました。なので、登記が未完了となればすべてがストップ。買主はローン実行に影響、売主は日程再調整、仲介業者もバタバタ。すぐに全員に電話して頭を下げましたが、心の中では「この1日をどう取り戻せばいいのか」と自問自答の連続でした。
言い訳はできない、ただ平謝り
この時ばかりは、「完了日を1日勘違いしました」なんて言い訳は通用しません。ただ「でした」と何度も頭を下げるしかありませんでした。信用が全てのこの仕事で、信頼を損なうミスをしたときのダメージの大きさを改めて思い知った瞬間です。
信頼の損失と、再発防止策へのプレッシャー
「やっぱり先生に任せるのは怖い」と言われて
関係各所に謝罪をして回っていた中、ある仲介業者さんから言われたのがこの一言。「やっぱり、こういうことがあると、先生に任せるのはちょっと怖いんですよね…」。その場では笑ってごまかしましたが、内心はズタボロ。何年も築いてきた信頼が、一回のミスで崩れる現実をまざまざと見せつけられました。
二度と繰り返さないための対策
このままでは終われません。同じミスを繰り返さないために、自分なりにできる対策をいくつか実践しています。完璧にはできなくても、少しずつでもミスの確率を下げる努力を続けるしかないのです。
「一日遅れるかも」を前提にした業務設計
日付の読み方と感覚を“法務局寄り”に
スケジュールを立てる際は「完了日はこの日」ではなく、「この日か、遅くてもこの日」と余裕を持つようにしました。特に混雑しやすい月末や連休前などは、「1日ズレるかも」を前提にすることで、取引先とのトラブルを避けやすくなります。早め早めの申請と、慎重なスケジュール組み。面倒でも、これが自分と依頼人を守る方法です。
ダブルチェックを習慣化するには
事務員との業務ルールを明文化
再発防止のため、事務員と一緒に「登記完了確認のフロー」を紙にまとめ、ルール化しました。「申請→完了通知→登記情報の確認→スケジュール連絡」という一連の流れを明文化し、どこで誰が確認するかを明確に。口頭でのやり取りに頼らず、視覚的にチェックできるようにしたことで、少し安心感が増しました。
それでも、また起きるかもしれないという現実
ここまでしても、100%防げるとは限りません。人間ですから、ミスはゼロにはできない。でも、「ミスしにくい仕組み」を作ることはできるし、「ミスしても最小限に抑える」ことは可能です。だからこそ、できる限りの準備をしておくしかないのです。
完璧なんて無理だと割り切る心構え
「凡ミス」はゼロにできないけど、減らすことはできる
自分にできるのは、失敗を認め、次に生かすこと。そして、他人にも同じような思いをしてほしくないと願うことです。このコラムを読んでいる司法書士の方、もしくはこれから司法書士を目指す方には、ぜひこの「たった1日の重み」を胸に刻んでほしいと思います。ミスは起こる。でも、それを放置せず、改善し続けること。それが、私たちの仕事なんだと、今は思っています。