一見「ただの書類」でも、裏では汗だく
「登記の書類、届きました。ありがとうございます」――依頼者からのそんな一言で、すべてが報われる……なんてことは実はあまりなくて、正直に言えば「はぁ、ようやく終わった」とため息交じりに思うのが本音です。表に出るのはたった1枚の登記識別情報通知。でも、その裏では何十通ものやりとりと、何日もの神経戦が繰り広げられています。司法書士の仕事が「地味で目立たない」と言われる所以ですが、その分、見えない労力はとんでもなく大きいんです。
「登記終わりました」の一言の重み
依頼者にとって「登記完了しました」はたったの一文。でもその文にたどり着くまでに、何通の電話をかけ、何度役所に足を運び、何枚の書類を確認したことか。ときにはお客様の代わりに市役所や法務局に走ることも。自分が走っている姿を誰が見てくれるわけでもないのに、間違いは許されない。それでも一言の「助かりました」で、気持ちが少しだけ救われたりもするんです。
誰も見てくれない、地味すぎる努力
「司法書士って、パソコンでちょこちょこっと入力してるだけでしょ?」なんて言われた日には、もう笑うしかありません。実際には、依頼者の事情を汲み取って、先回りして必要書類を想定し、関係機関に問い合わせ、漏れがないようにチェックを繰り返す。しかも、一度の申請で済むことは稀で、大抵は補正が入る。そのたびに事務員さんと顔を見合わせて「またか……」と肩を落とします。
書類ひとつ揃わないだけで詰む現実
登記業務において、「書類が1枚足りない」だけで、すべての工程がストップすることは珍しくありません。しかも、その足りない書類が役所でしか取れないものだったりすると、時間も交通費もかかります。事務所にとっては大きな負担ですし、依頼者が遠方だったり、高齢だったりすると、説明にひと苦労します。「なんでそんなに書類が必要なんですか?」と聞かれるたびに、こっちが聞きたいよと思ってしまいます。
印鑑証明、住民票、委任状……落とし穴の連続
必要な書類はケースによって違うため、常にチェックリストを頭に思い浮かべながら進めます。でも、たとえば印鑑証明の「有効期限が過ぎている」だけで差し戻しになることも。住民票の記載内容に「本籍地」がないから取り直し、なんてことも日常茶飯事です。登記が一発で通ることなんて、都市伝説レベルじゃないかと思うほどです。
「依頼者にお願いする」ことの難しさ
お願いする側のストレス、なめてもらっちゃ困ります。「こちらで住民票を取らせてもらっていいですか?」と聞くだけでも、お客様によっては警戒されたり、「なんでそんなことまで?」と聞かれたり。こちらとしてはスムーズに進めたいだけなんですが、それが伝わらない。結局、何度も説明して、ようやく納得してもらう。そのたびに、こちらの時間も精神力もすり減っていきます。
待つしかないストレスとの戦い
依頼者からの書類が届くのを「ただ待つ」――これが本当に辛い。こちらのスケジュールは完全に止まったまま。それでも、催促しすぎれば関係が悪くなるし、待ちすぎれば申請期限が迫る。まるで時限爆弾を抱えているような緊張感。電話しても出ない、メールしても返信なし。そんなときは、机をトントン叩きながら、無言で天井を見上げるしかないんです。
事務所の人手は限界ギリギリ
うちは事務員さん一人。たった一人で電話対応、書類作成、郵送準備、時には法務局への相談までこなしてくれています。こっちはこっちで登記申請とお客様対応で手一杯。どちらかが体調を崩せば、すべてがストップします。ギリギリで回っている現場の現実は、たぶん外からは想像できないでしょう。
ワンオペ気味の司法書士の本音
気がつけば、自分ひとりで夕方までトイレにも行けず、昼食はコンビニおにぎりを5分で流し込むだけの日も。こんな働き方、身体に悪いとわかっていても、仕事は待ってくれない。求人を出したくても人が集まらないこのご時世。「先生って大変ですね」って言われるたびに、笑いながら「まぁね」と返すしかない。笑ってごまかさなきゃ、やってられないんです。
事務員さんの支えに頭が上がらない
文句一つ言わずに動いてくれる事務員さんには、頭が上がりません。彼女がいるから、なんとか事務所が回っている。それなのに、仕事量が多くてミスが出た日には、つい強めに注意してしまう自分が情けなくなります。せめて美味しいコーヒーでも差し入れしようと思うのですが、そんな時間さえ取れない。もっと余裕を持って働きたい。そう思うだけで、現実は何も変わらないのが辛いところです。
登記のシステム、なんでこんなに不親切?
正直、登記システムは使いにくいです。オンライン申請が進んだとは言っても、クセが強すぎて逆に手間が増えることもあります。もっと直感的に使えるシステムだったら、と思うことは何度もあります。書類の不備で跳ねられるたびに、「いやそこ、事前にチェックできる仕組みにしてくれよ」とつっこみたくなるんです。
オンライン申請のクセの強さ
フォーマットの指定が細かすぎたり、エラーの内容が曖昧だったり。たとえば「添付ファイルに誤りがあります」とだけ出ても、どこがどう間違ってるのかわからない。エラー解消に1時間以上かけることもあります。結局、法務局に電話して「それはですね…」と説明を受ける始末。効率化どころか、逆に時間がかかっているような気さえします。
法務局との相性問題という謎
同じ書式で出しても、法務局によって指摘される点が違う。こっちは統一基準だと思って動いているのに、「この法務局ではこうしてください」と言われて混乱することも多々あります。たぶん、職員さんごとの判断もあるんでしょうけど……せめてマニュアル化してほしい。こっちは神経すり減らして申請してるんですから。
「効率化しろ」と言われても……
効率化、効率化って、上からは簡単に言われるけれど、現場はそんなに単純じゃない。少人数で回している事務所では、作業を「圧縮」するより「正確に処理する」ほうが大事。時短のために大事な確認を省いてしまったら、それこそ後で大事故になります。楽にできるなら、とっくにやってるんですよ。
それができたら苦労しない
RPA?クラウド管理?確かに便利そうだけど、それを学ぶ時間がない。お金もかかる。しかも地方だとネット回線すら不安定なことがある。紙とペンとFAXでなんとかしなきゃいけないこともまだまだ多い。現場の泥臭さを知らない人ほど、「なんでデジタル化しないの?」って軽く言ってきます。やれたらやってますって。
紙文化の壁にぶつかる毎日
役所も法務局も、まだまだ紙文化が根強い。FAXでの連絡を求められたり、窓口でないと受け取れない書類があったりと、非効率の極み。それに対応しようとすると、結局手足が縛られて自由がきかない。業務の大半が「移動と確認」に費やされている感覚です。いつになったらスマートに仕事ができるようになるんでしょうか。
ソフト導入の悩ましさ:高い・難しい・合わない
業務効率化ソフトは確かに便利ですが、高額なうえに自分の事務所にぴったり合うかは未知数。導入しても、結局は使いこなせずに宝の持ち腐れになることも。サポートセンターに電話しても、マニュアル通りの回答しか返ってこない。そんなの、現場では通用しないんです。
心が折れそうな瞬間ランキング
どんな仕事にも「もう限界……」と思う瞬間はありますが、登記業務にもいくつか「やってられない瞬間」があります。小さなことの積み重ねが、静かに心を削っていくのです。
連絡が取れない依頼者
書類の確認が必要なのに、何度電話しても出ない。メールを送っても無視。そんな依頼者に振り回される時間ほど、虚しいものはありません。「あなたのためにやってるのに……」という気持ちが積もって、電話をかける指が重くなる瞬間が何度もあります。
提出期限直前の書類差し替え
ようやく整ったと思ったら、「やっぱりこっちの資料で」と言われる。提出期限は明日。夜中にコンビニでスキャンして、印刷して、申請準備をし直す羽目に。結局、寝るのは午前2時過ぎ。こんな仕事の仕方、続けてて大丈夫なんでしょうか……と不安になることもあります。
「なんでそんなことで怒られるの?」
依頼者からの理不尽な怒りに晒されることもあります。「登記が遅い」「そんな書類、最初に言ってくれればよかったのに」――いや、言いましたよ?でもそのときは聞いてなかったじゃないですか。そんな気持ちを押し殺して、丁寧に対応するのが「大人の対応」ってやつなんでしょうけど……正直、辛いです。
それでもやめない理由
じゃあ、なぜこの仕事を続けるのか。辞めたいと思う日は確かにあります。でも、それでも続けてしまうのは、どこかに「自分が必要とされている」と感じる瞬間があるからです。誰かの人生の一場面に関われる。それは、小さくても確かな誇りなのです。
「ありがとう」の一言が救いになる
疲れている日、心が折れそうな日に届く依頼者からの「ありがとうございました」という一言。その一言が、全部をリセットしてくれるわけじゃないけど、「もう少し頑張るか」と思わせてくれる。どんなに面倒な案件でも、感謝されるとやっぱり嬉しいんです。単純ですが、それが原動力なのかもしれません。
誰かの人生に関われているという実感
不動産の売買、相続、会社設立――登記業務は、人生の節目に関わることばかり。大げさかもしれませんが、司法書士は裏方として人生の航路を整える仕事だと思っています。その責任は重いけれど、だからこそ意味がある。見えない努力も、いつか誰かの安心に変わるなら、それで十分です。