スマホの通知が鳴らない日が続いているという現実

スマホの通知が鳴らない日が続いているという現実

誰からも連絡が来ないことに慣れてしまった日常

朝、机の上に置いたスマートフォンをふと手に取る。通知はゼロ。カレンダーのリマインダー以外は何もない。いつからだったか、通知が来ないことに驚かなくなったのは。最初の頃は「電波が悪いのか?」「壊れてるのか?」と気になって仕方なかったが、今はもう、何の反応もないことが日常になってしまった。
仕事はそれなりにあるし、依頼の電話やメールは事務所に届く。でもそれは「業務上の連絡」であって、「個人的な通知」ではない。LINE、Messenger、SNS…すべてが静まり返ったまま。独立開業して10年以上経つが、気づけば人とのつながりが減っていたのかもしれない。

昔は鳴り止まない通知がうるさいと思っていた

会社勤めをしていた頃、あるいは研修の時代、通知は常に鳴っていた。同期からの誘いや、ちょっとしたグループトーク、夜遅くまで続くLINE…。その頃は「ちょっと静かにしてほしいな」とすら思ったこともあった。でも今思えば、それは人とのつながりの証だったのだ。
独立して、責任ある立場になって、仕事に追われて、気づいたら「誰かからの通知」が本当に来なくなっていた。誰にも頼れない、誰にも甘えられない立場で、自分の存在が透明になっていく感覚。通知音が鳴らないことに、こんなに寂しさを感じるとは思わなかった。

一日中着信ゼロでも仕事は山積み

通知がないからといって暇なわけじゃない。登記の依頼はどんどん来るし、書類も山のようにある。役所への確認電話、依頼人とのやり取り、郵送手配…一日中何かしらに追われている。それでもスマホを見るたびに、「あ、やっぱり何も来てないな」と確認してしまう自分がいる。
事務員もひとりいるが、当然ながら業務連絡以外の会話はそう多くない。雑談の途中にスマホを見ても、やっぱり通知はゼロ。むしろ事務員のスマホがピロンと鳴るたびに、ちょっとだけ羨ましくなる。それが恋人からでも、家族からでも。

個人事務所の孤独は通知音では紛れない

個人で事務所を構えてからというもの、誰かに頼られる立場でいなければというプレッシャーが常につきまとう。気軽な連絡も、弱音を吐く相手も減っていった。「あの件、どうなりましたか?」という問い合わせにはすぐ反応しないといけない。でも自分が誰かに「聞いてほしい」と思っても、その相手がいない。
通知音が鳴れば、誰かが自分を思い出してくれたという安心感が得られる。でもそれがない日々が続くと、自分の存在が世界から消えかけているような錯覚すらする。ただ仕事だけが残っていて、こなしても誰にも褒められない現実。

唯一鳴るのは広告と宅配のSMSだけ

最近鳴る通知といえば、通販の発送連絡か、キャリアからの料金案内。それが鳴っても、スマホに手が伸びる速度は落ちた。期待はしていないと自分に言い聞かせながら、どこかで人間関係の痕跡を探している。
「ああ、ただの佐川か」と画面を閉じるたび、ちょっとした虚しさが心に残る。自分がどれだけ連絡を欲していたのか、そんな時に気づかされる。誰かに呼ばれたい。ただ、それだけだったのに。

誘いが来ないのではなく誘えなくなった自分

友達がいないわけじゃない。飲みに行こうと言えば、付き合ってくれる人はいるだろう。でも、「今さら自分から誘うのもな…」とためらってしまう。忙しいかもしれない、迷惑かもしれない、そうやって連絡を送らないうちに、時間だけが過ぎていく。
自分から連絡を絶った結果、相手からも通知は来ない。当たり前のことなのに、それが想像以上に心に堪える。誘われなくなったわけじゃなく、誘えなくなった。それが静かなスマホ画面の理由だ。

飲み会の連絡が来ないのは気遣いなのか

かつての同僚や先輩たちは、僕が独立した時、「忙しいだろうから」と言って誘いを控えるようになった。最初はそれがありがたかった。でも、それが2年、3年と続くうちに、完全に誘われなくなった。
気遣いから来る沈黙なのか、ただの忘却なのか、今ではもう分からない。ただ、誰かと話したい日があっても、自分から声をかける勇気が湧かない。事務所の帰り道、コンビニで買った缶チューハイを片手に、スマホを見てもやっぱり通知はない。

事務員との雑談すら貴重な時間になった理由

朝の「おはようございます」、昼の「お弁当温めてきます」、そんなやり取りすら、今では心の支えになっている。事務員は20代の女性で、特に多くを語るタイプではない。でも、何気ない一言で救われた日もあった。
「先生、今日元気なさそうですね」と言われた日、何も話してないのに気づいてくれたことに驚いた。通知よりもずっと温かい一言だった。でもそれでも、業務外で話すのはためらってしまう。距離感は守らないといけないから。

それでもスマホを気にしてしまう自分がいる

ロック画面を何度も見てしまう。通知がないと分かっていても、時間だけを確認するフリをして、何度もスワイプしてしまう。まるで、通知が来ている世界線にワープできるかのように。
現実は何も変わらないのに、希望だけが残っている。そんな日常を、今日も事務所の机の前で繰り返している。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。