経験が通用しない瞬間に、僕たちは何を試されているのか

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経験が通用しない瞬間に、僕たちは何を試されているのか

経験を積んでも「初めて」はやってくる

司法書士として20年近くやってきましたが、いまだに「これは初めてだな」と感じる案件に出くわします。経験が増えれば増えるほど安心できると思いきや、逆です。むしろ経験を重ねることで「想定外」の怖さを知り、警戒心ばかり強くなってしまいます。これまでの知識がかえって自分を縛るような場面もあり、ベテランの肩書きが重たくのしかかるのです。

ベテランでも戸惑う「例外的な案件」

つい先日も、不動産登記で共有名義が10人以上という案件が舞い込みました。しかもその中に外国籍の方が数名。翻訳の問題、公証人の手配、書類の不備…。何度もやってきた登記手続きのはずが、ひとつもスムーズに進まない。こういう「例外」の塊みたいな案件にぶつかると、キャリアなんて無力に感じます。

経験値の罠:知ってる気になる怖さ

正直、経験があるからといって「これは大丈夫」と思ってしまったのが失敗でした。いつものパターンで進めようとした結果、重要な添付書類の抜け漏れに気づかず、法務局から補正通知。事務員にも強く言えないし、自分でかぶるしかない。経験は「慣れ」と「油断」を生むこともあると、痛感しました。

「過去の成功」が通用しない現実

これまで上手くいってきた手順が、ある日突然まったく通用しなくなる。そんな時、何が起きているのか自分でも分からないことがあります。たとえ過去に同じような案件を100件やっていたとしても、101件目が全然違う顔をして現れるのが、この仕事の難しさです。

同じ案件は二度とないという前提

相続登記ひとつとっても、家族構成、被相続人の財産内容、相続人間の関係性が違えば、必要な配慮も異なります。「同じような案件」はあっても、「まったく同じ案件」は存在しません。だからこそ一つひとつ慎重に、という基本を忘れると痛い目に遭います。

マニュアルではなく判断が問われる

マニュアルがあっても、それ通りにいかないのが現場です。柔軟な判断、対応力、そして何より「責任を自分で取る覚悟」が求められます。特にクレームが入りそうな案件では、神経をすり減らしながら「これは大丈夫か?」と何度も自問自答するのが日常です。

不安と焦りが同時に押し寄せるとき

誰にも相談できず、自分でも確信が持てないまま案件が進んでいく。そんなとき、胸の中に重い石が沈んでいるような感覚になります。不安と焦り、そして「失敗したらどうしよう」という恐れが頭をよぎります。

心の中で「やばい」とつぶやく瞬間

とくに登記の提出直前、何度もチェックしたはずなのに「本当にこれでいいのか?」と手が止まる瞬間があります。そのたびに自分の中で「やばい、ミスってないか」と警報が鳴るんです。でも、時間は待ってくれない。提出しなければならない時間は刻々と迫る。あの緊張感は今でも慣れません。

「時間をかければ解決する」わけでもない

時間をかけて丁寧にやれば解決する…というのは理想論です。実際は、時間をかけても不安が消えないこともある。むしろ、長く悩みすぎて他の仕事が滞る、という悪循環になることすらあります。「完璧」を目指すことが逆効果になる。そこがつらい。

事務員にも頼れない状況の孤独感

事務員は一人。しかも彼女はまだこの業界に入って数年。気を遣わせたくないし、下手なプレッシャーもかけたくない。だから自分で抱えるしかない。でも、その「ひとりで全部やる」感覚が、どんどん自分を追い詰めていきます。

誰にも相談できない案件のプレッシャー

司法書士って、基本的には「なんでも一人で完結させる職業」だと思われがちですが、本当に孤独です。法律的な解釈や手続きに関する最終判断を下すのは全部自分。相談できる先輩も周囲にいない場合、その重圧はすさまじいものです。

「先生」なんて呼ばれるけど、内心は迷ってばかり

お客様からは「先生、お願いします」と言われます。でも心の中では「どうしよう、これ本当に合ってるのか…」と迷い続けています。誰にも言えない弱さを抱えながら、表面では「大丈夫ですよ」と笑っている自分が、なんとも情けなく思える日もあります。

結局、試されているのは「覚悟」

どれだけ勉強して、どれだけ経験を積んでも、不安がゼロになることはありません。でも、それでもやらなきゃいけない。結局のところ、司法書士という仕事は「覚悟」の仕事なんだと、思い知らされる場面が多いです。

経験よりも問われるのは責任の重さ

お客様の人生に関わる書類を扱う。もし登記が遅れれば、損害が発生する可能性もある。だからこそ、経験よりも「責任を取る覚悟」が常に問われます。逃げ出したくなる日もありますが、それでもやるしかない。覚悟がなければ、続けられない仕事です。

逃げないこと、それが唯一の突破口

怖くても、不安でも、逃げなかった。たったそれだけの積み重ねで今があります。完璧な司法書士なんていないけど、「逃げずにやりきる」ことだけは、自分の中で大事にしてきました。それが唯一、僕にできる「プロの仕事」なんだと思っています。

司法書士を目指す人へ伝えたいこと

これからこの道を目指す方には、正直に伝えたい。「楽な仕事ではない」と。でも、苦しみながらも、自分の判断で何かを決められる仕事は、誇りでもあります。経験があっても不安にはなる。でも、それでいいんです。

「わからない」を口にできる勇気を持って

僕も昔は「分からない」と言えない性格でした。でも今は、正直に「ちょっと調べさせてください」と言うようにしています。それを言える勇気こそが、本当のプロフェッショナルだと信じています。

経験だけでは足りないとき、何が支えになるか

最後に支えてくれるのは、やっぱり「誰かの役に立ちたい」という気持ちです。経験ではなく、覚悟でもなく、その根っこにある「想い」。その気持ちがあれば、経験が通じない局面でも、なんとかやっていける。そう思っています。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。

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