午前中に完了させるはずだった登記

午前中に完了させるはずだった登記

「午前中で終わるはずだったのに…」

「これは午前中に片付けて、午後は他の案件に集中できるな」――そんな期待を込めて始まったある日の登記手続き。しかし現実はそう甘くなかった。予想外の出来事が次々と起こり、気づけば時計は正午を過ぎ、昼飯も食べずに対応に追われていた。登記は予定どおりに進まない。そんなことはわかっているつもりだったけれど、いざ目の前に「予定外」が降ってくると、気持ちはざわつき、イライラは募る。

予定は未定、という現実

登記の仕事では、予定が立てられそうで立てられない。とくに「午前中で終わる予定だった登記」に限って、なぜか終わらない。書類一式を揃えて、依頼者からも確認を取って、これで万全…と思っても、たった一つの誤字や捺印漏れでストップがかかる。その瞬間、「あぁ、またか…」と肩が落ちる。そして、再提出や確認の連絡に追われ、気づけば午前中という時間はどこかに消えているのだ。

完了予定時刻はあくまで理想

登記申請は、処理フロー上はシンプルでも、「理想的な条件」がすべて整っていることが前提になる。でも実務では、理想なんてほとんどない。前提が崩れていたり、添付書類が古かったり、相手の認識が違っていたり…。「午前中には終わります」と言ってしまった自分を呪いたくなる瞬間が何度あったことか。クライアントには期待させてしまうし、自分の首を絞める結果になることも多い。

書類一枚の不備がすべてを狂わせる

とあるケースでは、たった1枚、代表者印の押印がかすれていただけで受付を拒否されたことがあった。もちろんこちらも確認はしたつもりだったが、光の加減で印影がうすく見えていた。そんな小さな見落としが、午後の予定をすべて巻き込んで崩していく。補正対応、クライアントへの謝罪、事務員への再指示――一気に忙しさが膨れ上がる瞬間だった。

法務局とのやり取りに潜む罠

「この書類で大丈夫」と思っていても、法務局からの電話一本で状況は一変する。あの番号から着信があるだけで心拍数が上がるのは、司法書士あるあるじゃないだろうか。法務局側も確認を丁寧にしてくれるのはありがたいが、時にそのひと言が地雷のように重たい。「この書き方では意味が通りません」――そんな言葉に、また振り出しに戻される。

電話の一報でスケジュール総崩れ

午前9時半、法務局からの電話。「この書類なんですけどね…」という前置きから始まり、10分後には「差し替えお願いします」の結論に至る。この瞬間、午前中の完了は白紙。事務員に指示を出し、依頼者に連絡し、修正作業に入る。せっかく前倒しで動いていたはずなのに、あっという間に“通常より遅れている人”になる。時間の読めなさに、ただただ疲れが積もる。

受付職員さんのひと言が効く

法務局の窓口で「これはちょっと…」と首をかしげられたときの絶望感。相手に悪気はなくても、こちらは内心パニックだ。待っている依頼者の顔が浮かぶ。職員さんの何気ない一言に、今日一日が左右されることもある。「この言い回しじゃ通りません」なんて柔らかい表現が、実は致命傷。丁寧に説明してくれるのはありがたいが、そのたびに「今日も予定通りには進まないのか」と肩を落とす。

事務員のフォローに救われる瞬間

そんな中で救いになるのが、事務員の存在だ。たった一人しかいないが、彼女がいてくれることで、どれだけ助かっているか。冷静に書類を確認し、足りない情報をピックアップしてくれる。自分ひとりだったら、確実に処理しきれていない。負荷が集中するとついイライラしがちだが、的確に動いてくれる事務員の姿に、何度も助けられてきた。

一人でやってたら詰んでた

ある日、補正対応に追われていた自分を横目に、事務員が「この書類、前回もこうでしたよね」と過去の事例を引っ張り出してくれた。そのおかげで補正内容の方向性が見えて、スムーズに再提出ができた。もし彼女がいなかったら、午前どころか一日中その案件に振り回されていただろう。小さなミスでも積み重なると致命的になる。事務員のフォローは、その積み重ねを未然に防いでくれる。

的確な指示が出せるありがたさ

「これ、優先して処理したほうがいいですよね?」と先回りして確認してくれる姿勢に、こちらも助けられている。自分が余裕なくなっているときほど、周囲に頼れる人がいるありがたさを痛感する。司法書士は孤独な仕事だと思っていたけれど、信頼できるスタッフがいるだけで、現場の雰囲気も全然違う。文句ばかり言ってないで、感謝はちゃんと伝えなきゃと反省する日も多い。

それでも手が足りない現場

とはいえ、一人事務所に一人の事務員では限界がある。電話応対に来客対応、書類確認と提出書類の作成…タスクは山積み。時間がかかるのはわかっているのに、焦りだけが先走ってしまう。あと一人いれば…。でも地方ではなかなか人も見つからない。結局、自分たちでなんとかするしかないのが現実で、それがまた精神的に堪える。

完了報告できない昼休み

「午前中に完了して、昼前には報告の連絡を入れますね」――そんな風に約束していた依頼者に、まだ何も報告できないまま昼を迎えると、胃がキリキリしてくる。ご飯を食べる気にもならず、コンビニ弁当はデスクの上で冷えていく。焦って食べても味なんてしない。こうして午後のエネルギーも奪われ、悪循環に陥っていく。

冷めた弁当と溜まる未処理案件

昼食が唯一の楽しみだったはずなのに、それさえ後回しになる。目の前には対応すべき書類が積まれ、あれもこれも…と頭の中がパンク状態。集中しようとしても気ばかり焦り、手が止まる。電話が鳴るたびに心臓が跳ね上がり、昼休みどころじゃない。人間、余裕がなくなると、どんどん視野が狭くなる。そんなときほど、ふと深呼吸でもできたらいいんだけど。

“なんで終わってないの?”という圧

午後になり、依頼者から電話が鳴る。「あの登記、もう終わりましたか?」――その一言に、申し訳なさと焦りと、いろんな感情がないまぜになる。自分の中では最大限やっているつもりでも、結果が出ていなければ伝わらないのが現実。信頼って、こういう小さな積み重ねで失われるものなんだなと痛感する。

説明すれども伝わらぬもどかしさ

「書類に不備があって再提出中です」と説明しても、「でも午前中に終わるって言ってましたよね?」という言葉が返ってくる。たしかに言った。でも、言ったことを後悔しても、今さらどうしようもない。クライアントの立場では不満もわかるし、こっちも悪気があって遅れているわけじゃない。それでも、その溝はなかなか埋まらない。

信頼の綱が少しずつほつれる音

依頼者との信頼関係は、一度崩れると元に戻すのが難しい。「あの人に頼んでも時間かかるかも」と思われたら、それだけで次の仕事が遠のく。たった半日の遅れが、そんな風に響くこともある。だからこそ、慎重にならざるを得ない。でも、それがまたプレッシャーになる。この繰り返しが、日々の重荷になっていく。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。