「納税証明って今!?と言われた日の朝」
その日はいつも通り、午前中に登記書類をまとめていた。あとは法務局に提出するだけ…そう思っていた矢先、「あ、納税証明書って必要ですよね?」という依頼人からの一本の電話。耳を疑った。え、今さら? もう印紙も貼ってるし、登記原因証明情報も整ってる。全部終わった後で、それを言う?こんなこと、今までも何度かあった。でも今回は完全に「詰んだ」と思った。
準備万端のはずが、突然の一言に凍る
登記業務は基本、事前に必要書類をチェックする。いや、したはずなんだ。自分の中では「もう完璧」と思っていた。納税証明が必要だと分かっていれば、初回面談のときに必ず伝えていた。でも、それを依頼人が持ってこなかった、というか“聞いていなかった”という。いや、言った。確かに言った。だけどそれが通じていなかった。「準備万端」と思っていたその安心感は、一気に砕け散った。
「それ、最初に言ってよ…」と心の声が漏れる
電話を切ったあと、思わず独り言。「それ、最初に言ってよ…」でも言えない。依頼人を責めたところで、何かが解決するわけじゃない。責任感の強い性格だからこそ、すべて自分の確認ミスだったような気になってしまう。いや、たぶん実際そうなんだろう。でも、もうちょっと空気読んでよ…と誰にも言えない本音がぐるぐると頭を回る。
そもそも納税証明書って、どんなときに必要になるのか
一般的な売買登記や相続登記の際、関係する不動産についての納税が済んでいるかを証明するために「納税証明書」を提出するケースがある。中でも固定資産税の納税証明は意外と忘れられがち。依頼人の方も「登記に税金関係あるの?」という顔をされることが多い。だが、ある。しかも後で気づくと、手続きが止まる。
所有権移転登記だけじゃない、相続・売買でも求められる
売買の際には当然だが、相続登記においても市町村によっては納税の確認が必要なことがある。「前の年の分が未納になってませんか?」という確認が求められるのだ。特に相続登記の場合は不動産が複数にまたがっていると、それぞれの自治体で別々に証明が必要になることもある。知らなかったでは済まされないが、実際にはよくある。
「納税証明2号」の落とし穴、知らないと地味に痛い
「納税証明」とひとことで言っても、その種類は複数ある。中でも「納税証明書(その2)」は、個人の所得税等がきちんと納付されているかを証明するもの。これが必要なケースに気づかず「違う証明書」を提出してしまうと、役所から突き返される。私も昔、税務署から「これじゃなくてその2です」と言われたことがある。まさに“その2”の罠。
なぜ“後から”言われるのか?依頼者・役所・関係者の事情
そもそもなぜ、こうした書類が“後から”必要になるのか。これは、依頼人だけのせいではない。役所の運用の違いや、不動産会社との連携ミスも絡んでくる。ときには司法書士の自分のミスもある。だが「全体としての曖昧さ」があることも確かだ。
依頼人の「言われてない」は信じすぎないほうがいい
「聞いてない」「説明されてない」…こうした言葉をそのまま信じていると、痛い目にあう。たとえ初回に渡したチェックリストに書いてあっても、見ていない人が多いのが現実。だから“見てくれる前提”では動けない。こちらから口頭で確認する、繰り返す、書面で渡す。それでも伝わらないときはある。
市町村によって運用も対応もまちまち
同じ登記でも、自治体によって必要書類が異なることがある。「あれ、前の市では不要だったのに…」というのは珍しくない。そのため、私は自治体ごとに情報をまとめたリストを作っている。
ある自治体では1枚で済むのに、隣では3通必要な理由
たとえば、A市では「一括納付証明書」で済むのに、B町では「年度ごとの納税証明3通」が必要だと言われる。理由を尋ねても「慣例です」としか返ってこない。ルールではなく“空気”で運用されている感覚に、イライラを隠せないこともある。
司法書士が焦る瞬間と、その心理的プレッシャー
急ぎの登記が絡んでいるときほど、プレッシャーは強い。「今日中に出さないと決済が遅れる」と言われると、胃が痛くなる。依頼人の信頼もかかっているから、うっかりミスが命取りだ。
「書類は全部揃ってる」と思っていた自分を殴りたくなる
「今回は完璧」と思っていた。だけど現実には抜けていた。そんなとき、真っ先に自分を責めてしまう。「なんで確認しなかった」「なんでチェックリストをもっと精査しなかった」と。自己嫌悪で頭がいっぱいになる。
依頼人に謝りながらも心では「こっちのせい?」
表面上は「」と謝る。でも心の中では、微妙な怒りが渦巻く。「あなたも書類チェックしてくれてたら…」と思ってしまうこともある。とはいえ、それを言っても関係は悪くなるだけなので、グッと堪える。司法書士の仕事は、こういう“飲み込む場面”が多すぎる。
あとがき:今日も一件、心臓に悪い仕事でした
結局、納税証明書はギリギリで間に合い、登記は無事完了した。でも心臓のバクバクはしばらく治まらなかった。司法書士の仕事って、地味でミスが許されない。ほんと、心に悪い。
司法書士という仕事に慣れる日は来ないのかもしれない
やればやるほど「慣れ」よりも「慎重さ」が増していく。それは成長かもしれないが、疲れるのも事実。たまにはもうちょっと、気楽にやりたいと思う日もある。
それでも、明日もやるんだろうなと思う
文句ばかり言っていても、やっぱりこの仕事が好きなんだろう。だからまた、明日も朝からチェックリストとにらめっこしながら、納税証明の確認から始めるんだと思う。