なんでもない一日が、いちばんありがたい
「今日もなんとか無事に終わったなぁ」。毎日、事務所を出て車に乗り込んだ瞬間、思わず口にしてしまう言葉です。大きな事件があったわけでもない、誰かに褒められたわけでもない。でも、トラブルなく過ぎた一日は、実はものすごく価値のあるものだと感じるようになりました。地方の小さな司法書士事務所を営んでいると、派手さのない日常こそが「奇跡の連続」だと身に染みます。
疲れ果てた帰り道に思うこと
忙しいのに誰も気づいてくれない
正直に言えば、毎日が戦場です。登記の受付、補正の連絡、クライアントの怒り、法務局との駆け引き。事務員さんが一人いるとはいえ、事務所の回転はほぼ私にかかっています。でもこの忙しさ、誰かに伝わることはまずありません。家に帰っても「今日は何してたの?」って聞かれるくらいです。疲れていることすら、誰にも見えない。だからこそ、帰り道にふと涙が出そうになることもあります。
「今日も何も起きなかった」ことの尊さ
若い頃は「事件があったほうが充実感ある」なんて思っていたのですが、今では「何も起きなかった日」が最高です。電話も鳴らず、トラブルもなく、書類がすんなり通る。そんな日があると、心の底から「ありがたい」と感じるようになりました。司法書士という仕事は、事件がないほど地味にうまくいっている証拠。だからこそ、そんな日は心から祝いたくなるのです。
トラブルがない日=本当にラッキーな日
電話が鳴らなかった日の安心感
朝から夕方まで電話が一度も鳴らなかった日は、たぶん年間に数回しかありません。けれど、その日がどれほど心穏やかに過ごせるか、他の司法書士さんならきっと分かってくれると思います。「何か起きたらどうしよう」とビクビクしながら進める業務と違って、集中力も続きますし、精神的な摩耗も段違い。電話が鳴らない、それだけで幸福度が跳ね上がる仕事って、なかなか珍しいと思いませんか。
「事件」がないときのほうが実は仕事が進む
誰かの依頼が突然飛び込んでくると、それまで予定していた作業がすべて後回しになります。「急ぎでお願いしたいんですが…」という言葉、耳にタコができるほど聞いてきました。逆に何の事件もなく、静かに一日が進むときほど、長年放置していた書類の整理や、確認作業が驚くほどはかどるのです。実務は、派手さではなく積み重ね。これは最近ようやく実感したことです。
事務員さんがいることのありがたみ
1人で全部やってた時代を思い出すとゾッとする
開業当初は一人で全部やってました。電話、接客、登記申請、郵送、掃除、会計まで。本当に「死ぬかと思った」時期です。そんな過去があるからこそ、今の事務員さんの存在には頭が上がりません。書類を揃えてくれるだけで、どれだけ助かっているか…。ただ、昔の自分に「無理してでも人を雇え」と言いたいですね。潰れる前に。
でも、人がいるとそれはそれで神経を使う
とはいえ、人がいると気を遣います。忙しい中でも声をかけないといけないし、ミスがあったときの対応も悩ましい。仕事を覚えてもらう過程では、つい口調が強くなってしまって自己嫌悪に陥ることも…。結局、誰かと一緒に働くのは大変なんだと痛感します。ありがたいけど、簡単ではない。これが本音です。
一見、平凡に見える日々の裏側
「何もない日」の陰にある地味な積み重ね
「今日は何もなかったですね」と言われた日も、実際は細かい仕事の連続です。登記簿の確認、権利証のチェック、委任状の作成、事前相談の対応。どれも目立たないけど、これがなければ仕事は回りません。平凡に見える一日は、実は地味な作業の積み上げの結果なんです。
登記簿のチェック、書類の確認、謎の待ち時間
登記簿を確認してミスがないか何度も目を通す。法務局の返答待ちで1時間以上かかるときもある。それでも外から見れば、「あの先生は暇そうだね」と思われてしまう。外からは絶対に伝わらない、見えない仕事の多さに、もどかしさを感じます。
目立たないけど、なくてはならない作業たち
例えば申請前の書類番号のチェック。ちょっとのミスが大問題になります。そういう“当たり前にやってること”が、全体を支えている。でも、誰からも評価されません。だからこそ、自分で自分を認めてあげるしかないのです。「今日もよくやったな」と。
結局、精神的にすり減るのがいちばんキツい
人の悩みや怒りを受け止め続ける疲れ
登記の依頼といっても、その背景には誰かの不安やストレスがあります。「早くやってほしい」「どうしてこんなに時間がかかるのか」。その気持ちは分かります。でも、それを全部自分が受け止めるのは、かなり堪えます。怒鳴られた日なんかは、夜中まで引きずりますからね…。
自分の感情を置き去りにする毎日
「冷静に対応しないといけない」「感情的になってはいけない」。そう自分に言い聞かせながら、どんどん自分の感情が麻痺していく感じがします。だから帰りの車の中でようやく自分に戻れるんです。「今日もしんどかったなあ」と思える時間は、ほんの少しだけど救いです。
なぜ、続けられているのか?
感謝のひと言だけで救われることがある
「ありがとうございました」「助かりました」。この一言があるだけで、何日分もの疲れが吹き飛びます。どれだけつらくても、誰かに感謝された瞬間に「またやろう」と思えてしまうんですよね。司法書士は、やりがいの少ない仕事じゃない。けど、やりがいにたどりつくまでが遠い。
小さな達成感がじわじわ支えてくれている
書類が一発で通った、補正がなかった、依頼者に笑顔で帰ってもらえた。そんな小さな成功の積み重ねが、自分を支えています。毎日ドラマチックじゃないけど、だからこそ、地味な達成感がじわじわと心に効いてくる。まるでじんわり温かい味噌汁みたいに。
「やめたい」と思った回数なら数え切れない
でも、やめない理由はいつも単純
やめたいと思った日は何度もあります。理不尽なクレーム、終わらない業務、報われない努力。でも、結局やめないんですよね。理由は単純。「今さら他の仕事できないし」「お客さん待ってるし」「明日の申請あるし」。情けないけど、それが本音です。
司法書士という仕事に向いてない気がする日もある
他の先生たちはどうやってこなしてるの?
周りの司法書士の先生がスマートに仕事をしてるように見えると、自分が情けなく思えることもあります。「あの先生は補正もないし、怒られてるのも見たことないなぁ」なんて。でも実際は、みんな表に出さないだけ。きっとどこかで同じように悩んでるはずです。
比べたって意味はないと分かってるけど
それでも、つい比べてしまいます。「自分ってなんでこんなに要領悪いんだろう」とか。でも最近は「自分のペースでやるしかない」と思うようになってきました。うまくやろうとしすぎると、かえって心が削れていくので。
それでも、今日も無事に帰ってこれた
「普通」がこんなにありがたいと知った今
何も起きなかった日、特別なことはなかった日、ただ静かに業務が終わった日。そんな「普通の一日」が、いまは一番ありがたいです。若い頃には気づかなかったこの感覚が、今では支えになっています。
そして明日もまた、地味な戦いが待っている
明日もまた、朝から電話が鳴り、登記の確認に追われ、イライラすることもあるでしょう。でも、それでも帰りに「なんとか今日も無事だったな」と思えるなら、それでいい。そんな日々を重ねていけたら、それがこの仕事の価値なんじゃないかと思っています。