「これって税金かかりますか？」の破壊力
ある日、相続登記の相談をしていたお客様が、ふとした瞬間にこう聞いてきました。「これって税金かかりますか？」。たったそれだけの一言。だけど、心の中では「うわ、来た」と固まる自分がいました。司法書士という肩書があるだけで、税金のことまでわかって当然だと思われている。いや、ある程度は勉強してる。でも、それって「ちゃんと答えられる自信があるか」と言われると話は別なんですよね。
予想外の一言が心の芯を突く
相談の流れはスムーズだったんです。不動産の名義変更の必要性、必要書類、法定相続情報の説明…。お客様もうんうんとうなずいてくれて、「これはスムーズにいけるな」と思った矢先。「あ、そういえば先生、これって税金ってどうなりますか？」と。その瞬間、頭の中で思考がフリーズしました。「税金…？それは…」と口をついたけど、内心では「これ、税理士案件だよ…」と叫んでいました。
その場の空気が凍る感覚
無言になると余計に怪しまれる。だから、とりあえず知ってる限りの相続税の基礎控除の話をしてみる。でも、あくまで“参考程度”のつもりで話していても、相手は「司法書士が言ったから正しい」と思い込む。こっちは不安なのに、相手はどんどん確信を深めていく。変なプレッシャーが生まれて、汗がじっとり出てきたのを今でも覚えています。
「え、司法書士って税金の専門家じゃないの？」的な視線
お客様が悪いわけじゃない。司法書士と税理士の違いなんて、一般の方にとってはどうでもいいこと。でもその「期待」を向けられると、答えられない自分が恥ずかしくなる。「先生だから何でも知ってるはず」って思われてるのに、「それはわかりません」なんて言えない自分もいて、複雑な気持ちになりました。
職域の曖昧さが呼ぶ勘違い
司法書士の業務範囲って、あるようで無いような、曖昧なラインが多いんですよ。登記は得意、相続関係の書類もOK。でも税務相談はできない。なのに、相続となれば税金の話がつきもの。そりゃ当然、聞かれますよね。そうなると、自分の中でも「少しくらい答えなきゃ」という変な正義感が生まれてしまう。
税理士と司法書士、境界線どこ？
例えば「不動産を相続する際に贈与税がかかりますか？」と聞かれても、正直に言えば「税理士に聞いてください」が正解。でも、そんな答えじゃ納得してもらえないこともある。だから「こういうケースではこうなることが多いですが…」と、グレーな表現をしてしまう。これが怖い。あとで間違ってたら、どう責任を取るのか…。
「答えられない＝頼りない」のプレッシャー
「それは税理士さんに聞いてください」と言うだけなら簡単。でもそれって、お客様から見たら“逃げてる”ように感じられることもある。「ああ、この人は頼りにならないな」とか、「なんだ、司法書士って思ったより知識ないんだな」とか思われてたら嫌だなって。だから、つい無理してでも説明しようとして、後から自己嫌悪に陥るんです。
なぜ詰まるのか――心の言い訳と現実
実は、「答えられない」自分を責める気持ちと、「そもそも専門外だろ」と開き直る気持ちが常にせめぎ合っています。これは多くの司法書士さんにもあるんじゃないでしょうか。心では言い訳してるけど、現実では毎日「少しでも答えられるように」と資料を漁ってる自分もいます。
「そこ、こっちの管轄じゃないんだけど…」
よくある話ですが、「相続放棄って税金にも影響あるんですか？」とか、「名義変更したら贈与税ってかかりますか？」とか、ちょっとズレた質問が飛んできます。明らかに税理士の領域だと分かっていても、それをお客様にストレートに言うのは気が引ける。だから余計に疲れるし、ストレスが溜まるんですよね。
頭ではわかっていても、言えない
「その質問は税理士に聞いてください」とだけ言えばいい。簡単なはず。でも、口が動かない。無言になってしまう。「ちょっとそこはわからないですね」と濁した答えをしてしまい、後で一人で反省会です。ああ、またちゃんと言えなかったって。優しさなのか、弱さなのか、自分でもよくわかりません。
答えるべきか、スルーすべきか
こういった質問に対して、全く触れずにスルーするという選択もあります。でも、それって誠実じゃない気がする。かといって、答えれば答えたでリスクがある。このあたりのバランス感覚って、本当に難しい。結局いつも「正解」はわからないまま、今日も同じような質問に戸惑う日々です。
変なこと言って炎上したくないジレンマ
ネットが発達した今、変なことを言えば一瞬で拡散される時代です。たとえ地方の小さな司法書士事務所でも、悪評は広がる。だからこそ、「余計なことは言わない」方が安全。でも、それじゃお客様との信頼関係が築けない。どうしたらいいのか、本当に悩ましいところです。
本当に求められているのは“答え”じゃなかったりする
ふと思ったんですが、お客様が求めてるのって「正確な税務情報」じゃなくて、「安心感」なんですよね。「大丈夫ですよ」っていう雰囲気や、頼れる存在感。それが伝われば、実は中身なんてそれほど重要じゃなかったりすることもあります。
相談者の本音は「安心したい」だけ
「このままで問題ないんですよね？」という質問の裏には、「私は損してないですか？」「後から怒られたりしないですか？」という不安が隠れている気がします。だから、こちらが冷静に落ち着いて対応していれば、それだけで安心してくれることもある。答える内容よりも、態度が大事なんだと最近は感じます。
正解じゃなく“納得”をどう提供するか
だからといって嘘をつくわけにはいかない。でも、話し方や説明の順序、ちょっとした言葉遣いで相手の理解や納得度は変わる。「私の専門外ですが、一般的にはこういう仕組みになっていますよ」という伝え方一つで、印象も変わる。結局、伝え方次第なんだなと痛感します。
そして今日も、「ちょっとお時間よろしいですか？」
どれだけ準備していても、想定外の質問は毎日のように飛んできます。それでも、自分なりに向き合って、答えたり答えなかったりしながら、今日も仕事を続けています。あの日の「税金かかりますか？」の一言を忘れることはないでしょう。だけどそれも、司法書士として成長していく一歩だったのかもしれません。
予測不能な質問とどう向き合うか
明日も、同じような質問をされるかもしれません。でも、少しずつでもいいから、答え方の引き出しを増やしていくしかない。全部に完璧に答えられなくても、誠実さだけは失わないようにしよう。それが自分の信条です。
それでも前を向く司法書士の背中
時には「逃げたな」と自分に腹が立つこともある。でも、それでも目の前のお客様のために、自分なりのベストを尽くしている。そう思うことで、少しだけ気持ちが軽くなります。苦しいことも多いけれど、今日も自分なりに司法書士としての仕事を、淡々と積み重ねていこうと思っています。
