話を聞いてない人の相手をするときの気持ち

話を聞いてない人の相手をするときの気持ち

話を聞いてない人の相手をするときの気持ち

司法書士という仕事は、依頼人の話を聞き、必要な説明をして、互いに理解を深めながら進めていく仕事だと思っていました。もちろん今でもそのつもりです。けれど、ある日事務所に来た若い依頼人は、最初から最後までスマホをいじりながら「うん、うん」と上の空で返事するだけ。こちらがいくら説明しても、視線は画面のまま。まるで、僕の話なんて背景音の一部かのように扱われている感覚でした。話す意味があるのか、そんな疑念すら湧いてきたあの瞬間のやるせなさを、今でも忘れられません。

目の前のスマホと会話しているような感覚

その日、僕は彼に相続登記の流れを丁寧に説明していました。戸籍の収集、評価証明書の話、必要な印鑑のこと。でも、彼はずっとスマホを操作していて、明らかに僕の目を見ない。返事も遅れがちで、「それってLINEの返信待ってるのかな?」と内心ツッコミを入れたくなるほどでした。こんな時、自分が一体誰に向かって話しているのか、分からなくなります。依頼人ではなく、机の上の空気に向けて話しているような、そんな変な孤独感に襲われるんです。

うなずきすらなくなった瞬間の空気

話の途中で少し沈黙ができた時、彼は何の悪びれもなくスマホの画面をタップし続けていました。せめてうなずくだけでも、ちょっと目線を上げてくれるだけでも「聞いてるふり」くらいはできるはず。でもそれすらなかった。説明の区切りで「ここまで大丈夫ですか?」と聞くと、「え? あ、はい」と、何を聞かれたかも理解してない様子。あの瞬間、室内の空気がストンと落ちたような、言葉にできない虚無感が心に広がったのを今でも覚えています。

伝わっていないのに話し続ける虚しさ

伝わってないと分かっていても、こちらは話し続けなきゃいけないんです。説明しないと後で「そんなの聞いてません」と言われるかもしれない。録音でもしておけばいいのかとも思うけど、それって悲しいですよね。相手のために説明しているのに、その思いが全く届いていない。この仕事って、どれだけ真剣に向き合っても、受け取る側にその気がなければ成り立たないんだと痛感しました。

実務上のリスクも地味に怖い

感情的なモヤモヤだけならまだしも、こうした態度のまま契約や手続きに進んでしまうと、あとから思わぬトラブルが発生する可能性もある。それが地味に怖い。たとえば、「そんなこと説明受けてません」とか「そんな費用聞いてなかった」など、後出しジャンケンのようなトラブルの火種になりかねません。結局、言ったかどうかではなく、相手がどう受け取ったかが問題になる。だからこそ、聞いていない姿勢が一番リスクなんです。

大事なことに限ってスルーされる予感

経験上、こういう時に限って一番大事なところをスルーされるんですよ。「この印鑑証明は3ヶ月以内のものが必要です」なんて説明した直後に、「あれ? 印鑑証明いるんですか?」と聞かれるパターン。もうデジャヴかってくらい何度も遭遇してます。こちらも逐一確認するけど、確認するたびに信頼されてないようで複雑な気持ちになります。ちゃんと伝えてるのに、届いてないってつらいですよね。

確認しましたよねの恐怖から逃げられない

最終的に一番怖いのは「確認しましたよね」と言わなきゃならない状況になることです。その一言を発するときって、まるでこちらが責めてるような空気になる。でも、本当はそれを言わないと自分が責任をかぶることになるから、言わざるを得ないんです。こういう時、「聞いてない」の一言でこっちの何時間もが帳消しになる感じがして、心が擦り切れていきます。

昔なら怒ってたけど今はもう疲れた

若い頃なら、「ちゃんと聞いてください」とか、「大事なことなんで、スマホやめてもらっていいですか?」って注意してたかもしれません。でも今は、怒るエネルギーもない。いや、怒ったところで、その場の空気が悪くなるだけだし、こちらの印象も悪くなるだけ。それなら、淡々と仕事をこなす方が結果的にマシ。そんな風に割り切ってしまった自分に、少しだけ寂しさも感じています。

怒るほどのエネルギーもないのが本音

怒るって、ものすごくエネルギーが要ります。言葉を選ばなきゃいけないし、相手の反応も気になるし、結局消耗するだけ。そのうち「そこまでして改善されるわけでもないしな」って思うようになって、自然と怒らなくなった。事務員にも「先生、よう我慢してますね」と言われることがありますが、それは我慢というより諦めに近いかもしれません。悲しいことに、それが今の処世術です。

距離を取ることで自分を守っている

最近は、そういう依頼人には無理に入り込まないようにしています。どうせ心を込めても伝わらないのなら、業務に必要な最低限だけを伝えて終わらせる。昔は「この人の役に立ちたい」と思って頑張ってたけど、そうやって心をすり減らすより、自分を守る方が優先。こう言うと冷たい人間みたいだけど、そうでもしないとこの仕事、長く続けられません。

気持ちを切り替えるためのちょっとした工夫

それでも、モヤモヤをずっと引きずっていても仕方ない。だから最近は、嫌な気持ちを引きずらないための「切り替えスイッチ」を持つようにしています。仕事帰りにいつもと違う道を歩いてみたり、事務員としょうもない雑談をして笑ってみたり。些細なことでも、リセットできる時間があるだけで心が軽くなるものです。元野球部のクセで、気持ちの切り替えは意外とうまくできる方かもしれません。

割り切るってこういうことなのかも

「割り切る」って、ネガティブな意味じゃなく、自分を守るための前向きな選択だと思うようになりました。すべての人と心を通わせる必要はないし、できないのが現実。伝わらなかったことに一人で落ち込むのではなく、「それもまた仕事」として受け止めることが大切なんだと思います。割り切ることで、次の依頼人にはまたちゃんと向き合える自分でいられる気がしています。

スマホをいじる人にも理由があると思ってみる

あの時の依頼人も、もしかしたら家庭のことで悩んでいたのかもしれません。仕事中にトラブルが起きていたのかもしれない。そう思うと、少しだけ気持ちが楽になります。こちらの話を聞く余裕すらなかったのかも、と思えば、それはそれで理解できる。自分の中で相手を悪者にしないことも、長く仕事を続ける上での大事なポイントだと思います。

自分の話し方にも改善点はあったかもしれない

そして、ちょっとだけ反省もします。「もしかして、僕の説明が長すぎたかな?」「専門用語が多かった?」と。自己反省って、すごく大事。改善すべき点があれば見直す。でも、それでも聞く気がない人はやっぱり聞かないんですよね。だからこそ、どこまでが自分の責任で、どこからが相手の問題なのか、その線引きをちゃんと持っておくことも必要なんです。

話を聞いてくれる人がいるありがたさ

その一件のあと、別の依頼人が「先生の話、すごくわかりやすいです」と言ってくれました。たった一言だけど、それだけで心が救われるんです。自分の仕事が、ちゃんと誰かに届いていると感じる瞬間って、本当に尊い。そういう人のために、この仕事をやっているんだと思い出せます。

たった一人でも真剣に耳を傾けてくれる人

正直、全員に伝わらなくてもいい。でも、たった一人でも真剣に耳を傾けてくれる人がいるなら、その人のために話し続けたい。そんな気持ちを持てるのが、司法書士という仕事の良さだと思います。地味で報われにくい仕事だけど、その一言があるだけで、また頑張ろうって思えるんです。

その人たちのために今日もやっている

だから僕は、話を聞いてくれない人に出会っても、それで全部が無駄だったとは思わないようにしています。そういう経験を通して、「ちゃんと話を聞いてくれる人」の存在がどれほどありがたいか、実感できるから。結局、誰かに必要とされること。それが、この仕事の原動力なんです。

同じような体験をしているあなたへ

もしあなたが、同じように「聞いてもらえない苦しさ」に悩んでいたら、まずはそれを「自分のせい」と思いすぎないでください。相手の問題も確実にあるし、あなたは十分頑張っているはずです。僕も日々、そんな気持ちと向き合いながら、なんとかやっています。

報われなさを感じる日もあるけれど

どれだけ準備しても、どれだけ丁寧に話しても、それが届かないことって本当にあります。そんな日は、報われなさに打ちのめされますよね。でも、その経験があるからこそ、ちゃんと話を聞いてくれる人に出会ったときの感動がある。だから、あきらめないでください。

それでも踏ん張るあなたはすごいと思う

たとえ誰にも感謝されなくても、日々コツコツと人のために働いているあなたは、本当にすごい。自分で自分を褒めてあげてください。僕もそうしてます。誰かが評価してくれることを待つより、まずは自分で自分を認める。それが、次の一歩を踏み出す力になります。

愚痴りながらでも前に進めばいい

たまには愚痴っていい。僕もこうして書きながら、実はだいぶスッキリしています。愚痴ることで、心の整理ができるなら、それもまた大事な一歩。前向きでなくても、止まらなければそれで十分。これを読んでくれたあなたが、少しでも心軽くなってくれたら嬉しいです。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。