「大丈夫ですか?」の一言が胸に刺さる理由
司法書士として日々多くの案件を抱えていると、感情を押し殺して動くことが当たり前になってきます。効率と正確さが求められるこの仕事では、心の揺れを表に出すことが許されない空気があります。そんな中でふいにかけられた「大丈夫ですか?」の一言が、不意打ちのように心に刺さる。気づけば、涙が出そうになっていた──そんな経験、ありませんか?
日々の仕事に追われるなかで心が擦り減る
不動産の相続登記、遺言の作成支援、成年後見など、人の人生の重い場面に関わる仕事が多いこの業界。書類ひとつ間違えれば信頼に関わり、時には訴訟沙汰にすらなる。朝から晩まで気を張ってばかりいると、いつの間にか心がカサカサになっているのを感じます。休む暇もなく、ミスも許されない。そんな日常に慣れすぎて、感情の動かし方を忘れてしまうことさえあるのです。
強がりと孤独のバランスが崩れる瞬間
「自分がやらなきゃ誰がやる」「泣き言なんか言ってられない」と、つい強がってしまう。でも、忙しさにかまけて周囲とのつながりをおろそかにしていると、ふとした瞬間に孤独感が押し寄せてきます。たとえば、夜遅くまで一人で登記書類を見直しているとき。外から虫の鳴き声しか聞こえない中、パソコンの明かりに照らされながら、「何やってるんだろうな」と思ってしまう瞬間があるんです。
誰にでもある「限界ギリギリの日」
どれだけ仕事に慣れていても、どれだけ経験を積んでも、心が限界を迎える日は誰にでもあります。自分で気づいていないだけで、疲れが顔に出ていたり、言葉の端々ににじみ出ていたりする。そんな日に限って、妙に些細な一言に心が反応してしまうんです。
ひとりで抱えすぎてしまう司法書士の性
この仕事には「相談される側」としての重みがあります。お客様の前で弱音を吐けない。仲間内でも「しっかりしてるね」と言われる方が評価される。だからこそ、自分の感情を押し込めて、問題をすべて内側に抱え込んでしまう。でも、実はそれが一番危うい。知らず知らずのうちに、心の限界に近づいているのです。
「事務員さんがいなかったら終わってた」なんてこと、よくある
たった一人の事務員さんが、どれだけこの事務所を支えてくれているか。私は身に沁みて感じています。ミスの確認、郵送手配、電話応対──すべて自分でやっていた頃を思い出すと、今の環境に感謝しかありません。ある日、「先生、顔色悪いですよ? 大丈夫ですか?」と声をかけられたとき、冗談で返すしかなかった自分に、少し情けなさを感じました。
泣きそうになるくらい心が疲れていた日のこと
ある日、相続の件で感情的なお客様に長時間対応したあと、ふとスマホを見たら、友人から「最近大丈夫?顔見てないけど無理してないか?」というメッセージが届いていました。その瞬間、ずっと押し込めていた感情が堰を切ったようにあふれてきて、トイレにこもって泣いてしまったんです。自分でも驚きました。
思わず手が止まった「大丈夫ですか?」のメッセージ
どんなに忙しくても、ふとした一言で全身が緩む瞬間があります。相手は何気なく言っただけかもしれない。でも、その一言が、自分の心の奥に触れることがあるんです。まるで硬く結ばれた糸がほどけていくような、そんな感覚でした。
お客さんの一言が、こっちを救うこともある
お客様に「こんなに丁寧にやってくれて、本当に助かりました。先生も無理なさらないでくださいね」と言われたとき、胸の奥が熱くなりました。私たちは支える側であっても、実は支えられていることもある。感謝の言葉やねぎらいの一言が、どれだけこちらの救いになるか、あらためて実感しました。
誰かの優しさが、時に重く、時に支えになる
優しさというのは、時にはプレッシャーにもなります。「自分がしっかりしなきゃ」と思わせる。でも、その重さを超えてくるような言葉は、支えにもなりうる。「大丈夫ですか?」というたった一言が、弱い自分を認めてくれるような気がしたのです。
司法書士の仕事は「感情労働」でもある
私たちの仕事は法律に基づく手続きの専門家ですが、それ以上に「人の感情」に深く関わります。特に相続や遺言の案件では、家族間の葛藤や過去のしがらみが噴き出す場面が多く、精神的に消耗することも少なくありません。
手続き以上に、人生に関わる重さがある
「登記をお願いしたい」──この一言の裏には、亡くなった家族への想いや、相続人同士の複雑な関係、時には長年の確執すらあります。手続きをスムーズに進めるためには、そうした感情の流れを受け止める力も必要です。そして、それが積み重なることで、知らず知らずのうちにこちらも疲れていくのです。
「聞き役」であることのしんどさ
「話を聞いてくれてありがとう」と言われることは多いですが、それはつまり、私たちが感情の受け皿になっているということでもあります。誰かの悲しみや怒りを受け止め続けるのは、想像以上に消耗します。だけど、それを表に出すことは難しい。だからこそ、「大丈夫ですか?」という問いが心に響くんです。
後輩や司法書士志望の方に伝えたいこと
今この仕事を目指している人、始めたばかりの人には、ぜひ知っておいてほしい。「しんどい時はしんどいって言っていい」ということ。理想ばかり追い求めず、まずは自分の心を守ることが大切です。
強がらなくていい。泣きたくなる日もある
泣きたくなる日があるのは、弱さではありません。それは、ちゃんと人のことを考えている証拠です。気持ちが揺れるのは自然なこと。それを無理に抑えようとせず、正直に受け止めることが、長く続ける秘訣かもしれません。
一人で抱え込まず、誰かと話せる場所を
私が救われたのは、事務員さんや同業の仲間との何気ない会話でした。「最近どう?」と聞かれるだけで、「ああ、自分のことを見てくれてる人がいる」と思える。それだけで心の負担が軽くなります。孤立しないこと、それが何より大事なんです。
同業者の「弱音」こそ、救いになる
意外と多いのが、「自分だけじゃなかったんだ」という気づき。飲みの場や勉強会で聞いた先輩司法書士の弱音に、私は何度も救われてきました。強く見えるあの人も、同じように悩んでいたんだと知ることで、自分も少しだけ楽になれるんです。
「大丈夫ですか?」をかける側にもなってほしい
自分が苦しいときこそ、周囲にも目を向けてみてください。もしかしたら、あの人も限界かもしれない。気づいて声をかけること、それがあなた自身の支えにもなる。支え合いの意識が、この仕事には必要です。
最後に:弱さを見せられる司法書士でありたい
司法書士という肩書の裏に、人としての弱さや揺れを抱えていることを、私は恥だとは思いません。むしろ、それがあるからこそ人の痛みに寄り添える。そう信じています。
支える立場でも、支えられていい
「先生って、完璧そうで実はポンコツですよね」──あるお客様に笑いながら言われたこの言葉が、妙に嬉しかったのを覚えています。完璧じゃなくていい。支える立場でも、誰かに支えられていい。そう思えるようになったのは、「大丈夫ですか?」の一言があったからです。
だからこそ、また明日もやっていける
しんどい日もある。でも、それを乗り越えられるのは、人の優しさがあるから。そして、そんな優しさに気づける自分でありたい。今日もまた「大丈夫?」と誰かに声をかけられたら、「うん、ありがとう」と素直に返せる自分でいたいと思います。