登記の知識なんて後回しでいい。もっと大事な“あの力”

登記の知識なんて後回しでいい。もっと大事な“あの力”

「知識」だけじゃ食っていけない現実

司法書士になるために、あれだけ試験勉強をしたのに…いざ開業してみると、食っていくのは簡単じゃない。そんな現実に直面したのは、私だけではないはず。登記の知識なんて、当然あって当たり前。そのうえで、「それ以外の何か」がなければ、お客さんはやってこないし、事務所も回っていかない。この「何か」が何なのか、自分でも最初はよく分かっていなかった。

どれだけ勉強しても、依頼は来ない

資格を取った頃は、「知識があれば仕事は自然と舞い込んでくる」と信じて疑わなかった。だが現実はそう甘くない。開業して半年、電話はほぼ鳴らない。名刺を配っても誰にも覚えてもらえない。「この登記の構成は完璧だ」と自信満々に仕上げても、そもそも依頼がなければ何の意味もない。知識だけじゃ、誰にも頼られない。これは思った以上に堪える。

実務では知識の使いどころが9割

知識は「引き出し」だ。だけど、その引き出しをいつ・どこで・どのように使うか。それを間違えると、どんなに正しいことを言っても相手の信頼は得られない。登記の仕組みをどれだけ熟知していても、それをお客さんの言葉で噛み砕いて説明できなければ「なんか難しい人だな」で終わってしまう。知識の運用力、つまり“人に伝える力”こそが真に求められている。

事務所経営の本当の敵は「人間関係」だった

登記ミスより怖いのは、人間関係のトラブル。信じてもらえなかったり、紹介を断られたり、たった一言の言い方で信頼を失ったり。登記の知識が足りなかったからじゃない。そこにあるのは「人間力」の問題。誰とどう関わるかが、すべてのベースになっている。

お客さんは「正しさ」より「安心感」を求めている

ある日、土地の分筆登記について相談があった。こちらとしては、必要書類や手続きの順序を詳細に説明したつもりだった。しかし、相手の顔は曇ったまま。後日、別の司法書士に依頼されたことを知った。内容は間違っていなかった。でも「この人に任せて大丈夫かも」という安心感を与えられなかったのだと思う。正しさだけでは、人の心は動かない。

紹介が来ない理由は、技術不足じゃない

開業して数年経っても、なかなか紹介が増えない時期があった。原因を探っていると、ある先輩がポツリと教えてくれた。「あんた、悪くないけど話しかけづらいんだよね」──ハッとした。知識があるだけじゃダメ、話しかけやすさや雰囲気、ちょっとした立ち振る舞いが紹介の出発点なのだ。

開業して気づいた「登記の知識」より大切なもの

開業して10年、やっとわかった。「登記の知識があること」はスタート地点に過ぎない。その先にあるのは、人との信頼関係や、空気を読む力、タイミングの見極め…つまり、「コミュニケーション能力」と「気づく力」だ。これがないと、どんなに優秀な司法書士でも信頼は得られない。

愛想笑いの技術は、六法全書より重い

私は根が真面目で、雑談が苦手だ。でも、あるときお客さんに「先生って、ちょっと冷たい感じする」と言われた。それからは、無理やりでも笑顔を作るように心がけた。すると不思議と、話してもらえる内容が変わってくる。「こんなこと聞いていいのか分からないけど…」と、相談の質が上がったのだ。

「相手の話を最後まで聞く」スキルの価値

お客さんの話を遮ってしまった経験がある。こちらとしては、早く答えを出してあげたかった。でも、最後まで話させてくれなかったという印象を残してしまい、信頼を損ねた。人は話を聞いてもらうことで安心し、信頼が生まれる。「話を聞く力」は、登記知識よりも、よっぽど大事な技術だ。

空気の読めない説明は、信用を削る

専門用語を並べて説明した結果、「何を言っているのか分からない」と言われたことがある。自分では丁寧に説明したつもりでも、相手に伝わらなければ意味がない。目の前の相手がどういう言葉で話せば理解できるのか、感覚的に察する力が必要なのだ。

事務員一人に支えられる日々のリアル

うちは小さな事務所だ。事務員さん一人と二人三脚で毎日動いている。仕事の9割は実務と段取り。登記申請の合間に電話対応、銀行との連絡調整、郵送書類のチェック…知識よりも、いかに効率よく回すかが勝負になる。

知識はある。でも手が足りない

知識があっても、手が足りなければ意味がない。申請書は完璧でも、提出が遅れれば信用は下がる。時間がなくて確認が雑になり、あとで慌てて修正、なんてこともしょっちゅうある。正直、知識より「動ける体力」と「現場の段取り力」が欲しいと思う日が多い。

人に仕事を任せるのが一番むずかしい

事務員さんに仕事をお願いするとき、最初は細かく指示していた。でも、途中で「全部自分でやったほうが早いんじゃないか」と思ってしまった。それは間違いだった。信頼して任せることで、事務所全体が強くなる。人に任せるのもまた「技術」だ。

「聞く力」「伝える力」こそが司法書士の武器

この仕事で本当に必要なのは、聞く力と伝える力だ。登記の内容を理解するより、「この先生になら任せて大丈夫だ」と思ってもらえるかどうか。それは知識ではなく、コミュニケーションの積み重ねから生まれる。

説得じゃなく共感で信頼を得る

ある相続の相談で、感情的になったお客様がいた。私は一生懸命、法的な説明をした。でも、それは逆効果だった。必要だったのは説得ではなく「気持ちに寄り添う言葉」だったと、あとで気づいた。感情に共感しない限り、信頼は生まれない。

うまく話せない人ほど損をする世界

司法書士は口数が少ない人が多い。でも、この仕事で評価されるのは「うまく伝えられる人」だ。黙っていても誠実さが伝わる…そんな幻想は捨てた方がいい。話し方ひとつで相手の印象は180度変わる。もどかしいが、それが現実だ。

司法書士を目指す人へ:「勉強熱心」は罠にもなる

これから司法書士を目指す方には声を大にして言いたい。勉強熱心なのは素晴らしい。でも、それだけでは足りない。知識以外の部分をないがしろにしていると、現場で大きな壁にぶつかる。試験勉強と実務は、まるで別世界だ。

机の上の努力と現場のギャップ

私も試験合格までは、1日10時間以上机に向かっていた。でも、開業して思った。「この努力は実務にはほとんど使えない」と。知識よりも、お客さんに好かれる力、事務作業をこなす力、段取り力、全部別のスキルだった。ギャップに苦しむのは当然だ。

「いい先生」と呼ばれる人の共通点

「あの先生はいいよ」と紹介される人たちは、みんな話がうまい。柔らかくて、わかりやすくて、安心させる雰囲気がある。決して「知識があるから」ではない。むしろ知識を見せびらかさないから信頼されている。そんな先生に、私はなりたい。

まとめ:知識は後からついてくる。大事なのは人間力

司法書士という仕事は、知識職ではあるけれど、最終的には人間力がすべてを左右する。聞く力、伝える力、共感する力、信頼される雰囲気。登記の知識はあとからでも学べる。でも、人間力はすぐには身につかない。今こそ、その「力」を意識して磨くべきだと思う。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。

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