見えないところで積み重ねている努力
司法書士の仕事というと、登記の書類をポンと出してハンコをもらうだけの「お役所仕事」みたいに思われていることが多い。でも、実際はその前段階で何十時間も費やして調査や準備をしている。書類一枚の背後には、依頼者とのやりとり、法務局との確認、不動産情報のチェック、戸籍の読み解きなど、目に見えない作業が山ほどある。ひとり事務所だと、それを全部自分でやっているわけで、「いつ寝てるの?」と聞かれても自分でもよくわからない。
「ただの書類屋さん」ではない現実
正直、「司法書士って書類を出すだけでしょ?」なんて言われると、かなり落ち込む。それは表面的にしか仕事を見ていない証拠だからだ。例えば相続登記ひとつ取っても、家族の関係性や感情の絡みが大きく関わってくる。「この人の印鑑がどうしてももらえない」とか、「過去に絶縁した兄弟がいて…」とか。その中でどうにかして着地点を見つけて、手続きとして成立させなければならない。「書類」なんて、最後の出口にすぎない。そこに至るまでの道のりが、実は一番大変なんだ。
法律知識と現場対応の両立に苦労する日々
机の上だけで完結するような世界じゃない。法的知識をベースにしながら、現場では「空気を読む力」や「交渉力」も必要になる。たとえば農地の登記で、地元のおじいさん相手に専門用語を使って説明しても通じない。だから、難しい言葉をかみ砕いて、例え話を交えながら話す。これって、結構神経を使う。疲れていても声のトーンを下げすぎると不機嫌に聞こえるし、逆に元気すぎても「軽く見てる」と思われることもある。毎回が真剣勝負なのだ。
「間違えられない」プレッシャーと向き合っている
司法書士の世界は、一度ミスをすると信用を失う職業でもある。登記で一文字間違えただけで、不動産の所有権が違ってしまう可能性がある。それだけに、確認・確認・再確認の繰り返し。深夜まで作業して、「もう大丈夫」と思っても、翌朝に読み直してまた直す…なんてことはよくある。責任の重さに押しつぶされそうになるときもあるけど、依頼者の安心のために、自分の不安を飲み込んでやるしかない。誰も見ていないところで、地味に、でも必死に頑張っている。
相手に合わせる力が求められる仕事
司法書士の仕事は、書類作成以上に「人との接し方」が重要だと思う。依頼者の年齢も職業も状況もバラバラ。だからこそ、それぞれに合わせた対応が求められる。たとえば同じ説明でも、会社経営者相手と高齢のご夫婦相手では言い回しもテンポも変える必要がある。その場に合った説明ができるかどうかで、信頼感が変わってしまう。そういう意味では、日々“接客業”をしているような感覚だ。
人によって説明を変える柔軟さ
ひとつの内容でも、相手によって伝え方を変えなければ伝わらない。難しいことを難しく話しても意味がないし、かといって簡単にしすぎても失礼にあたることがある。私が一番苦労したのは、法律に全く詳しくないご高齢の方に相続放棄の流れを説明したとき。「それって財産を捨てることなんですか?」と何度も聞かれた。そのたびに「いえ、“引き継がない”という選択肢です」と説明する。相手の理解に寄り添うというのは、時間も労力もかかるが、やはり大事な部分だと思っている。
感情のコントロールも仕事のうち
依頼者の中には感情的になってしまう人もいるし、時にはこちらに怒りがぶつけられることもある。でも、そこに乗っかってしまっては仕事にならない。どんなに理不尽な言い方をされても、冷静に受け止めて、穏やかに対応しなければならない。自分の感情を飲み込むのも仕事のひとつ。笑顔で「大丈夫ですよ」と言いながら、内心では「今日はしんどいな…」と何度も思っている。けど、それを顔に出せないのがこの職業の難しさでもある。
時間外にも頭がフル稼働している
事務所を閉めて、家に帰っても頭の中はまだ仕事のことでいっぱい。特にひとり事務所だと、誰かに相談するわけでもなく、全部ひとりで抱え込むことになる。布団に入ってから、「あの確認、明日もう一度しよう」とか、「あの表現はまずかったかも」と考えてしまい、眠れなくなる夜もある。頭のスイッチを完全に切るのが難しいのが、日常になってしまっている。
業務終了後も仕事のことが頭から離れない
業務時間外という概念があってないような日々。表向きは「18時まで」と言いつつ、そこからが本当の戦い。電話が鳴らない時間帯になってようやく自分の作業に集中できる。登記情報のチェックや、報告書の作成、翌日の準備…全部ひとりでやる。事務員さんには頼めない業務が山ほどあって、気づけば夜中まで机に向かっていることも珍しくない。だからこそ、「暇そうでいいですね」なんて言われると、本当に泣きたくなる。
土日も完全オフになれない地方開業の現実
地方だと「この日しか時間がないから」と土日に面談を希望されることが多い。もちろん断ることもできるが、それで次の依頼につながらないこともあるので、なかなか難しい。結果として、土日も半分仕事になる。カレンダー上の「休日」はあっても、心の休息日ではない。スーツを脱いでいても、頭の中では次の段取りを考えてしまう。それが、地方のひとり開業司法書士のリアルだ。
孤独と戦いながら、誰かのために動いている
仕事をする上で、一番しんどいのは「誰にも相談できないこと」かもしれない。他士業との関係もあるし、プライドも邪魔をする。だから、大きな判断をする場面で、ひとりで決断する重さがのしかかる。「これで本当にいいのか」と不安になっても、誰も代わりにはなってくれない。そんな孤独と向き合いながらも、「誰かのために」と思ってやっている。結局、それしか支えがない。
相談できる相手がいない閉鎖的な日常
司法書士同士で集まる機会も少なく、横のつながりが希薄なこの業界。特に地方だとライバル関係になっていることもあり、気軽に「ちょっと教えてください」とは言いにくい。結果として、いつもグルグルと自分の中で悩みが回っている。そんな日々の中で、誰かのちょっとした共感の言葉に救われたりする。だからこそ、自分もいつか誰かの心を軽くできるような存在でいたいと思っている。
それでも依頼者の笑顔で救われることもある
どれだけしんどくても、依頼者から「本当に助かりました」と笑顔で言われた瞬間、すべてが報われる気がする。報酬も大事だけど、それ以上に「必要とされた」という感覚が、自分を支えてくれている。地味で報われにくい仕事だけど、たまにそういう瞬間があるから続けられる。だから今日もまた、静かに、でも必死に、司法書士としての役割を果たしている。
「ちゃんとやってて当たり前」と言われるつらさ
この仕事、基本的に「ミスがないのが当たり前」と思われている。だから、どれだけ丁寧にやっても「ありがとう」はあまり言われず、ちょっとしたミスがあれば「なんで?」と責められる。それがけっこうつらい。完璧を求められ続けるのに、人間らしい不安や迷いは常にある。そういう中で、それでも信頼される存在でありたいと思って踏ん張っている。報われなくても、誰かの役に立てるなら、それで十分——と思いたい。
感謝されるよりも、ミスを責められる立場
日々、完璧を目指している。でも、100件中99件が完璧でも、たった1件のミスがその信頼を崩してしまう世界。だからこそ、ミスが起きないように神経をとがらせている。それでも、感謝されることは少ない。誰かが書類を受け取って「はい、これで終わりですね」と帰っていくとき、内心では「何日かけたと思ってるんだ…」とこぼしたくなることもある。だけどそれを言ってしまったらプロじゃない。だから今日もまた、黙って頑張っている。
信頼を守るために、見えない努力を続けている
信頼されるには、時間も誠実さも必要だ。でも、それを伝える手段がないのがこの仕事の難しさ。もっと「司法書士ってこんなに頑張ってるんですよ」と知ってもらいたい。わかってくれなくてもいい、せめて知ってほしい。そんな思いで、今日も静かにキーボードを叩いている。誰かの「ありがとう」や「助かりました」の一言が、明日の自分を支える。その一言のために、頑張っている。