「もっと早くお願いすればよかった」と言われた日。―それ、褒め言葉じゃないから。

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「もっと早くお願いすればよかった」と言われた日。―それ、褒め言葉じゃないから。

「もっと早くお願いすればよかった」の一言が刺さるとき

「もっと早くお願いすればよかったです、本当に」。依頼人からこの言葉をかけられたのは、一度や二度ではありません。ありがたい言葉のように聞こえるかもしれませんが、私にとっては複雑な気持ちになります。仕事としてきちんと完了できたことはよかった。けれど、もっと早く声をかけてくれていれば…そう思わずにはいられない案件ばかりです。火のついた案件に飛び込むたび、心のどこかで「またか」とため息が出てしまいます。

ありがたいけれど、手放しでは喜べない

一見、感謝の気持ちを伝えられているようで、実はそれが「手遅れになる前に気づいてほしかった」という無念の裏返しだったりします。依頼人に悪気はないでしょう。でも、私たち専門職からすると「もっと早ければ、あれもこれも回避できたのに」と、どうしても後悔が残ってしまうのです。

後手に回る相談がもたらす現場の混乱

例えば、相続登記の依頼が死亡後何年も経ってから持ち込まれるケース。関係者の所在が不明、書類の再発行、手続きに伴う利害調整…まさに地雷原のような案件です。結果として事務所全体がバタバタし、他の依頼にも影響が出る。ギリギリまで放置された案件は、本人以上に周囲の人間を巻き込んで混乱を招きます。

なぜ人はギリギリで司法書士に駆け込むのか

そもそも、どうしてこうも後手に回ってしまうのでしょうか。誰だってトラブルは早く片付けたいはずです。けれど司法書士の存在が「身近な相談相手」として認識されていないことが、その背景にあるように感じます。

相談のハードルと誤解された専門性

「登記しかできない人でしょ?」とよく言われます。いやいや、遺言、成年後見、会社設立、相続対策、家族信託…。やれることは山ほどあるんです。ですが、この“誤解”が相談のタイミングを遅らせているのは間違いありません。

「司法書士=登記屋」だけじゃない

本当に多くの方が、私たちのことを「不動産登記専門の人」とだけ思っています。それも一つの顔ではありますが、日常の法律トラブルを解決するための“地域の法務窓口”であるという側面を、もっと知ってほしいと思っています。

気軽に聞いていいと思われていない現実

相談料が高そう、堅苦しそう、忙しそう…。そんな理由で相談をためらってしまう方も少なくありません。私は事務所の電話口で、よく「すみません、こんなこと聞いても大丈夫ですか?」と聞かれます。それ、聞いてください。むしろ、もっと早く。

情報不足が招く“遅すぎた”判断

「知らなかった」が一番厄介です。手続きに期限があるもの、後からやると二重に費用がかかるものなど、実は“知っていれば損しない”情報が法務の世界にはたくさんあります。けれど、知られていない。だから遅れる。その連鎖があまりにも多いと感じます。

「もっと早く」の裏にあるリスクと負担

後回しにされた案件は、当然ながら処理が重たくなります。「急ぎでお願いします!」と持ち込まれても、準備が整っていない、必要書類が揃っていない、時間がない。結局、余計な手間とストレスばかりが積み重なっていきます。

やることは同じでも時間がないという地獄

登記は締切が命。にもかかわらず、ギリギリで持ち込まれた依頼に、通常の段取りでは間に合わないときは本当にしんどいです。役所とのやり取り、書類のチェック、間違いのリカバリー…。慌ててやればやるほど、精度が下がるリスクもあります。

現場のリソースは無限じゃない

小さな事務所では、物理的にも時間的にも余裕がありません。一人の事務員に無理をさせれば、当然全体にひずみが出てくる。無理を重ねれば、体調を崩すことにもつながる。目の前の「今すぐ」ばかりが優先されて、働く側が消耗していく現実があります。

事務員さんへのしわ寄せと苛立ち

忙しさのしわ寄せは、結局事務員さんにいきます。電話対応、コピー、書類の整理、発送、確認作業…。日々のルーティンがある中で、突然“至急”が割り込むと、私以上にパニックになっているのが見て取れます。こっちも申し訳ない気持ちでいっぱいです。

夜に積み上がる疲労と書類

昼間の対応に追われた分、夜にしかできない書類仕事が溜まっていきます。気づけば22時、椅子に沈みながら書類に囲まれてうなだれる日々。もっと早く相談してくれていれば、私も事務員も、こんな疲れ方はしなくて済んだかもしれません。

気づいてほしい、「早めの相談」が救うもの

手続きの多くは、早ければ早いほど楽になります。手間もコストも、余計な感情的ストレスも減らせる。それだけでなく、冷静な判断ができる状態で動けるのが何よりのメリットです。だから、お願いです。「ちょっと気になることがある」その段階で、ぜひ声をかけてください。

トラブルの芽を摘むには、タイミングがすべて

トラブルというのは、小さいうちに摘めば簡単に終わるものが多いです。逆に、放っておくと根が張ってしまって、掘り起こすのが一苦労になります。法務の世界でも、まさにそれ。気づいたときにすぐに相談することが、何よりの予防線になります。

信頼関係は“早さ”から生まれる

「早く相談してくれた人」とは、こちらも余裕を持って向き合えます。信頼関係も築きやすい。結果的に依頼者にも満足してもらえるし、私たちも達成感を持って仕事ができます。早めの相談は、双方にとっていいことしかないと本気で思っています。

それでも、「もっと早く」と言われ続ける理由

こうした現実をわかっていても、「もっと早くお願いすればよかった」と言われる場面はなくなりません。これは、個々の依頼者の問題というよりも、業界全体の“伝え方”や“見え方”に課題があるからだと感じています。

業界全体の広報不足とイメージの壁

司法書士という職業の幅広さが、世間にはほとんど知られていません。地味で目立たず、何をしてくれる人なのかイメージが持たれにくい。業界全体での情報発信の力不足も、こうした「後手相談」の背景にあると私は思っています。

もっと話そう、“司法書士ってこういう人”

もっと気軽に、もっと身近に。そんな存在になりたいと本気で思っています。難しいことをわかりやすく伝え、困る前に相談してもらえるように、これからも発信を続けていきます。「もっと早く相談してよかった」と、心から言ってもらえる日が来るように。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。

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