「前の担当者と違う」と言われた日のメンタル崩壊
ある日の午後、登記の相談で来られたお客様から放たれた一言、「え、前と違うんだけど?」。その瞬間、頭が真っ白になりました。こちらとしては通常どおりの対応をしていたつもりでも、相手にとっては「期待していた対応と違う」らしい。こういったクレーム、言われた側としては結構ダメージが大きいんです。特に地方の小さな事務所では、職員も限られていて、引き継ぎも完璧とはいかないのが実情です。
何が悪かったのか自分でも分からない
こういうクレームを受けたときに困るのは、「何がどう違ったのか」が明確に伝えられないケースが多いこと。なんとなく不満を感じているようで、「細かいことは覚えてないけど前はもっとスムーズだった」と言われたりする。こっちは一つひとつの案件に全力で向き合っているつもりなのに、それを否定されるような気分になります。
変わったのは“人”だけじゃないのに
実は、制度や書式の変更、本人の状況の変化などで「対応が変わる」のは当たり前なんですが、一般の方にはそれが分からない。前任者が特例で対応していた場合、それを「普通」と思われていることもあります。だけどそれを訂正すると「冷たい対応」だと受け取られる。なんともやるせない瞬間です。
クレームの根っこは「比較」と「不安」
「前はこうだったのに」というクレームの本質は、“自分がないがしろにされているのでは”という不安から来ていることが多いです。前任者との比較をされると、まるで自分の人間性を否定されたような気持ちにもなりますが、実際には「変化に対する不安」の表れなんです。
過去のやり取りは神格化されやすい
人間の記憶は都合よく書き換えられます。特にトラブルがなかった案件は、スムーズだった記憶だけが残るもの。だから「前はこんなこと言われなかった」と感じた時点で、前任者は“伝説の司法書士”になってしまっているわけです。
人は思い出を都合よく美化する
自分が気に入っていた人のことは、どうしても美化してしまいます。実際には細かなミスや待ち時間もあったかもしれませんが、「あの人は分かりやすく説明してくれた」といった印象だけが強く残る。結果、現担当者がどれだけ頑張っても、勝ち目がないように感じてしまうのです。
「あの人はよくやってくれたのに」が刺さる
この言葉、何度聞いてもしんどいです。でも本当の意味で「前任者が優れていた」わけではなく、「その人との相性が良かった」だけの可能性もある。だからこそ、聞き流すことも必要です。
担当変更が信頼の揺らぎになる理由
司法書士の仕事は、信頼関係がすべてです。誰がやっても同じ対応になるようにマニュアルを整備していても、やはり「人が変わった」という事実だけで、お客様は構えてしまいます。「また一から説明しなきゃ」「話が通じないかも」という不安が、不満の形で現れてしまうのです。
そもそも、情報引き継ぎが完璧なわけない
うちは事務員が一人。急な退職や人員の入れ替わりがあれば、どうしても引き継ぎが抜ける部分も出てきます。完璧を目指しても、現実はなかなか追いつかない。それが地方の個人事務所の限界でもあります。
過去の判断材料が残っていないケース
例えば「この書類、なんでこうなってるんですか?」と聞かれても、判断の経緯が記録に残っていないことがある。特に口頭での説明や、その場の雰囲気で決まったことなどは、後任には伝わっていない。どう説明しても「前と違う」になってしまうのです。
書面にない“空気感”は継承できない
「あのときはこういう事情があって柔軟に対応した」というのは、書類にはまず残りません。その空気感、ニュアンス、信頼感をすべて引き継ぐのは無理があります。まさに“missing value”がここに生まれるのです。
引き継ぎ資料の「抜け」が信頼を壊す
「引き継がれてない=適当な事務所」という印象を与えてしまうのも怖いところ。たった一言「その話は聞いてません」で、信頼はガタ落ちです。だからこそ、引き継ぎミスを減らす努力は必要ですが、ゼロにはできないという現実もあります。
怒られても心が折れないための内なる防御策
クレームを受けると、「自分が無能なのでは」と自分を責めてしまいがちです。だけどそれは違うと、何度も言い聞かせる必要があります。心が折れないようにするには、ある種の“感情の盾”が必要です。
「僕が悪いんですかね?」という沼からの脱出
お客様の言葉を真に受けすぎてしまうと、自己否定のスパイラルに陥ります。でも冷静になれば分かることもあります。「対応が違う」のは悪ではなく、状況が違えば当然のこと。そこに感情を絡めすぎると、こちらが潰れてしまいます。
事務所全体の責任と割り切る技術
「自分が全部背負う必要はない」と思えるようになったのは、かなり後になってからです。お客様の満足はもちろん大事ですが、個人事業主が全部の責任を抱え込んだら、それこそ事務所ごと倒れます。スタッフとの連携・事務所全体の姿勢として対応しているという意識も必要です。
実際の対応:言い訳せず、でも飲み込みすぎず
クレームを受けたときは、とにかく感情的にならないことが大事です。言い訳したくなる気持ちも分かりますが、それは逆効果。誠実な説明と、落ち着いた対応が求められます。
謝罪の言葉は“納得の接着剤”
「ご不快なお気持ちにさせてしまい」――この一言があるだけで、相手の態度がやわらぐことがあります。本当に悪いかどうかよりも、相手が「自分の不満を受け止めてもらえた」と感じることが大切なんだと思います。
事実の整理と説明は冷静に
何がどう変わったのか、どうしてそうなったのかを端的に、でも冷静に伝える。これが難しいんですが、言い回し次第でだいぶ印象は変わります。
対応方針が変わった理由を端的に伝える
たとえば「前任者のときは〇〇だったかもしれませんが、今は法務局の運用が変わっておりまして…」など、外部要因を使って説明すると納得されやすいです。責任転嫁ではなく、事実として伝えることがポイントです。
今後の対応を明確に宣言する
「次回からはこう対応いたします」「この点はご安心ください」といった“未来志向”の言葉を添えると、クレーム対応から建設的な関係に変わることがあります。相手も「じゃあ今回は我慢しようか」と歩み寄ってくれることもあります。
再発防止のためにできる最低限の引き継ぎ策
忙しくても、最低限の情報共有は欠かせません。特にお客様とのやり取りに関するメモや経緯は、次の担当者の命綱です。
ミーティングは形式的でもやる意味がある
朝の5分、夕方の10分でもいいから、「今日こんなやり取りがあった」「あの案件はこう進めた」と話しておくだけで、引き継ぎの精度が上がります。面倒に感じても、後で何倍も助かります。
「前例」共有ノートを作っておく
特殊な対応や例外処理は、都度メモを残すようにしています。「〇〇様はこういう性格」「このケースは〇〇と判断」といった細かい記録が、次の担当者を救います。完璧じゃなくても、“残す習慣”が大切だと実感しています。
さいごに:比べられても、あなたはあなた
司法書士の仕事は、誰と比較されようと、最終的には“あなた自身”で勝負するしかありません。相手がどう思うかはコントロールできませんが、自分がどう向き合うかは選べます。
全てのお客様に合わせようとすると潰れる
もちろん理想は「すべてのお客様に満足してもらうこと」ですが、現実には無理です。対応の限界も、人間関係の相性もある。それを理解していないと、自分が壊れます。
「今の自分」を信じるしかないときもある
前任者と比べられても、できることを淡々とやるしかない。「今の自分ができる精一杯の仕事」を積み重ねることが、やがて信頼に変わる――と信じたい、いや、信じるしかないのです。