地味な作業ほど、落とし穴は深い
契約書作成というのは、地味なようでいて実は爆弾を抱えている仕事です。毎回似たような内容で、テンプレートも整っているし、ルーティン化されている。でもその「慣れ」が命取りになることもある。ある日、いつものように契約書を作成し、製本して提出直前まで進めていたのですが、ふとした違和感で手を止めました。「あれ、押印欄、これで足りてる?」と。
押印欄の「つもり」ミスで全てが狂った
押印欄は、当然あるものだと思っていたんです。自分では確認したつもりだったし、テンプレート通りにやっているから大丈夫だと。でもその「つもり」が怖い。見直してみたら、委任者と受任者の欄はあるのに、保証人の押印欄がごっそり抜けている。今まで何十件も処理してきた自信が、一気に崩れました。慣れって、本当に怖い。
「いつも通り」の感覚が生んだ油断
「いつもこの形でいけてたはず」という感覚だけで、確認をおろそかにしていたことが原因です。ちょっとした書式の変化や、依頼内容によるパターンの違いに気づけなかった。目の前の書類が、過去のどの案件とも微妙に違うってことに、ちゃんと向き合えてなかったんですよね。
あのテンプレート、信用しすぎてた
正直に言えば、テンプレートに頼りきっていた自分がいました。何も考えずにコピーして日付と名前を変えるだけ。それで済むと思ってた。でも、案件ごとに細かい条件は違うし、それに合わせて書類も変えるべきだった。テンプレートは道具であって、判断を委ねるものじゃないと痛感しました。
事務員の冷静な一言に救われた
まさに提出しようとしたその時、うちの事務員がポツリとつぶやいたんです。「先生、ここ…押印欄もう一ついりません?」。その一言に、頭を思いっきり殴られたような衝撃を受けました。自分一人だったら、そのまま出して、大問題になっていたかもしれない。
「先生、ここ…押印欄もう一ついりません?」
事務員のその言葉は、まさに命綱でした。日々の業務で忙殺され、ろくに確認せずに書類を仕上げようとしていた自分に対しての、静かなブレーキ。小さな違和感を拾ってくれる目があって、本当に助かった。彼女がいなければ、今頃どうなっていたことか。
思考停止してたのは自分だった
「確認したつもり」のミスを放置したまま提出していたら、信頼も損なっていたでしょう。自分の判断がすべて正しいと思い込む怖さに気づかされました。士業だからって完璧な人間ではないし、むしろ他人のチェックをもっと頼るべきだったんです。
部下の指摘を受け入れるって難しい
正直、事務員に指摘された時、一瞬イラっとしたのは事実です。「こっちは忙しいのに」と。でも、その気持ちをぐっとこらえて確認しなおした自分を褒めてやりたい。プライドなんて、ミス一つで簡単に崩れる。だったら最初から柔らかくいた方が、よっぽど効率的です。
その一印がなければ契約は無効だった
押印欄が一つ抜けているだけで、契約そのものが無効になる可能性がある。それって、怖いですよね。どれだけ準備しても、どれだけ事前確認しても、一つの凡ミスが全てを無にする。ハンコ一つにここまで責任が重くのしかかるなんて、改めて考えると不条理な話です。
先方に出す直前の気づき、冷や汗が止まらない
あの瞬間の冷や汗といったらない。郵送前の封筒を前に、指先が震えたのを覚えています。「このまま送ったらまずい」という確信がじわじわと込み上げてきて、頭が真っ白になりました。ハンコひとつで、こんなにも精神削られるとは。
“たかが印鑑”がすべてを左右する現実
電子契約が普及しつつある時代とはいえ、まだまだ紙と印鑑の力は根強い。そこにミスがあると、「この人、信用できるの?」と一瞬で疑われることもある。書類の信頼性って、本当に脆い。だからこそ、小さな確認作業を怠ってはいけないのだと改めて実感しました。
印刷しなおし、再製本、時間だけが消えていく
押印欄を足すために、再度Wordファイルを修正、印刷、製本し直す羽目に。正直、かなり無駄な作業に感じました。でも、それも全部「自分のミス」です。誰も悪くない。印刷用紙も、製本テープも、時間も、すべてが静かに消えていく感覚は、なんとも言えず虚しいものでした。
休日出勤して帳尻合わせ…誰のための仕事か
その日は土曜日。本当は少しゆっくり寝て、溜まった洗濯でもしようと思っていた日でした。けれど、朝から出勤しなおし、プリンタと製本機とにらめっこしていた。誰のための仕事かと問われれば、それは「自分の信用を守るため」。でもその裏で、自分の心がすり減っているのを感じていました。
労力は見えない。成果も見えない。なのに
こういうやり直し作業って、他人には見えないし、報われることも少ない。でも、やらなければ自分の信用が崩れる。士業の仕事って、目に見える成果よりも、目に見えない信頼の積み重ねが全て。それがわかっているからこそ、どれだけ空しくても手を動かすしかないんですよね。