「すみません、印鑑が…」依頼人が玄関先で立ち尽くした日

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「すみません、印鑑が…」依頼人が玄関先で立ち尽くした日

今日は何だったんだろう、という日もある

たまにあります、そういう日。朝から一件だけ予約が入っていて、あとは書類作成に集中できる予定だった。少し余裕を感じていた午前の始まり。コーヒーを飲みながら書類を確認し、事務員とも「今日は落ち着いてますね」なんて言ってたんですが、まさかそこから崩れていくとは夢にも思っていませんでした。まるでドミノ倒しの一番端っこに無意識に触れてしまったような、そんな一日の始まりでした。

朝一番の予約、それだけが救いだった

午前9時、依頼人は時間通りにやって来ました。正直なところ、事務所としては非常にありがたいことです。というのも、朝イチの予約が狂うと、その後のスケジュールにかなりの影響が出ることが多いからです。特に、書類提出の期限や銀行とのやりとりが絡む日はなおさら。だからこそ、時間通りに来てくれたその瞬間はちょっとホッとしたんですよ。

「あっ、印鑑忘れました」—まさかの展開

ところが、着席して3分後。依頼人がカバンをごそごそ探ったあとに発した一言がすべてを持っていきました。「あっ、印鑑忘れました」。その瞬間、時間が止まったように感じました。私も事務員も、まさかという顔で目を合わせてしまいました。印鑑がなければ、今日やる予定だった手続きはすべて進められません。正直、頭の中では「あー、今日はもう全部崩れたな」という声が響いていました。

依頼人が印鑑を忘れたときに思うこと

司法書士をやっていれば、印鑑忘れのトラブルなんて年に何回かはあります。分かってはいるんです。でも、いざ目の前で起こると、どうしても平常心ではいられません。特にその日のスケジュールが詰まっていたり、他の案件に支障が出そうなときは、苛立ちを押さえるのが難しいものです。

よくあること、でも感情は抑えきれない

依頼人にはまったく悪気がないのも分かっています。家を出る直前まで確認していたはずなのに、ふとした拍子で机に置きっぱなしになってしまったのかもしれません。でも、こちらとしてはそれが「たったひとつの確認ミス」で、業務全体が何時間もズレ込むこともあるという現実があります。つい「勘弁してくれよ…」と心の中で呟いてしまうのです。

時間のロスだけじゃない、事務員にも影響が

私一人の問題ではないのです。事務員も予定に合わせて書類を準備し、必要な連絡を済ませてくれています。それが「印鑑がない」という理由で全部仕切り直し。気持ちが切れるんですよね。しかも事務員は依頼人に直接文句も言えない。そこに一番気を遣うのは、やっぱり私です。

予定がずれると全部ずれる

この日は、午後から法務局に出向く予定も入っていました。書類提出のタイミングもあって、午前の手続きがそのまま午後に繋がる算段だったのですが、依頼人が出直すことになった時点で一気に全部狂いました。「じゃあ午後イチに来てもらえますか?」と提案したものの、相手にも都合がある。結局、別日での再予約に。その段取りでまた事務員が電話対応し直し。地味にダメージが大きい。

電話対応にも余計な神経を使う

「すみませんが、今日の予約、変更になりまして…」と他の関係者へ連絡を入れることになると、こちらとしても信用の問題が出てきます。依頼人が悪いと分かっていても、それを表立って言えないのがこの仕事のつらいところ。何もなかったかのように、うまく調整していくのが司法書士の裏仕事なんです。

司法書士の「効率化」は簡単じゃない

今どき、どんな業種も「効率化」が叫ばれています。司法書士事務所も例外ではありません。オンライン申請や電子契約など、技術的なツールはどんどん増えています。でも、実際には「人」が関わるからこそ生まれるズレやトラブルって、どうしても避けられないのが現実です。

書類は人が動かしてる

たとえば、印鑑の押印一つとっても、「忘れた」では済まされない場面もあります。それでも、書類をつくるのも、押すのも、届けるのも結局「人」。だからこそ、ちょっとした連携ミスが命取りになります。特に、忙しさで注意力が散漫になっていると、どこかでこうしたエラーが出る。正直、全部自動で済む時代がうらやましいです。

心の中の「仕方ない」と「なんで今?」の葛藤

依頼人が出て行った後、事務所の空気がふっと静かになる瞬間があります。怒るわけにもいかず、かといって落ち着いてもいられない。この時、心の中では「まあ仕方ないよな…」と「いやでも、よりによって今日かよ…」という二つの気持ちが綱引きを始めます。この葛藤は、何年やってても消えません。

それでも笑顔で接するべきなのか

結局、依頼人に対してこちらが見せる顔は「笑顔」が基本になります。忘れ物一つで責めてしまっては、相手との信頼関係が壊れてしまう。それが分かっているからこそ、どれだけ内心で愚痴をこぼしていても、表面上は平然を装う。これがなかなかしんどい。

信頼関係を壊さないためにできること

少しずつですが、私も「怒らない工夫」を覚えてきました。やんわりと伝える、先回りしてチェックリストを事前送付する、印鑑を持参してるか確認の電話を前日に入れる、など。地味ですが、こういうことの積み重ねが、結果として大きなトラブルを防いでくれることもあります。

責めない言い方の工夫

たとえば、「印鑑、もしお忘れでしたら今日の手続きが難しくなってしまうので…」といった伝え方。これなら、相手も「怒られてる」とは感じにくい。毎回できるわけじゃないですが、こうした言葉の選び方には常に気をつけています。

リカバリープランを持っておく

スケジュールの中に「もし何かあった時の予備時間」をあらかじめ入れておく。これも最近意識してやっていることです。余裕があれば、気持ちにも余裕が生まれる。逆に、余裕がないときは、何が起きてもイラッとする。自分を守るための工夫でもあります。

小さな一件から見えてくる、大きな課題

今回のような「印鑑忘れ」という一件は、たしかに些細な話かもしれません。でも、その一件から業務の脆さや、人に依存している構造の問題が見えてくる。だからこそ、ただの愚痴で終わらせず、次にどう生かすかを考えるようにしています。まあ、頭では分かってても、次にまた起きたら、やっぱり凹むんですけどね。

業務設計と人間関係、そのはざまで揺れる

司法書士の仕事は、制度と感情のバランスが常に求められます。効率を追えば人間味がなくなり、人間味を大事にすれば非効率になる。そんな矛盾のなかで、毎日せっせと働いているんです。せめて、こうやって誰かに話す場があるだけでも、少しは救われる気がします。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。

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