相談じゃないけど、なぜか話される日々 ―司法書士という聞き役の現実―

相談じゃないけど、なぜか話される日々 ―司法書士という聞き役の現実―

「相談じゃないんですけど…」から始まる会話の重み

「相談じゃないんですけど…」という言葉、聞き慣れてきました。司法書士という職業柄、誰かの悩みに触れる機会は多いけれど、これは仕事じゃなく“雑談”のつもりらしい。そう言いながら、話はだいたい深刻な内容に進んでいきます。家庭のこと、相続問題、職場のストレス、人間関係。最初はただの世間話かと思っていても、いつの間にか心の奥をえぐるような話になっていたりするんです。こちらが構える暇もなく「聞いてしまう」ことがほとんどで、正直しんどいと感じることもあります。

雑談のフリして重たい話をされる瞬間

たとえば、登記の相談に来た男性が、帰り際に「嫁と最近うまくいってなくてね」とポツリと漏らしたとき。お、雑談かな?と思ったら、どんどん愚痴が本音に変わっていく。話を止めることもできず、結局30分以上聞く羽目に。こちらは時間に追われてるのに、そういう話に限って、やたらと続く。話してる本人はスッキリして帰っていくけれど、聞いてるこちらは妙な疲労感だけが残る。こういう“雑談風の相談”が一日に数件あると、精神的に結構くるんです。

「ちょっと聞いてほしいだけで…」の裏にある本音

「ちょっと聞いてほしいだけで、別に深刻な相談じゃないんです」と言う人ほど、実は深刻な話を抱えています。たぶん、話を整理できていないから「相談」だと認識できてないんですよね。でも、その言葉の裏には“助けて”のサインが見え隠れしていて、無視することができない。こちらが勝手に察してしまうのも悪い癖なんですが、そういう時に限って、「この人は本当に誰にも話せなかったんだな」と感じるような空気が漂います。だからつい、聞いてしまう。

相手は軽く、でも自分は重く受け止めてしまう性質

自分でもわかってるんです。相手が軽い気持ちで話したことを、私は勝手に重く受け止めすぎる。性格的に、“聞いてしまう”のではなく、“引き受けてしまう”んですね。昔からそうでした。小学生のころも、誰かが泣いていると真っ先に駆け寄って話を聞いてた。でも、大人になってからはそのせいで疲れてしまう。仕事中でもプライベートでも、心が休まらないときが増えてきて、最近は夜寝る前にその日の会話を思い出してしまうほどです。

司法書士が“話されやすい人”になる理由

司法書士という仕事柄、個室で人と向き合う場面が多いですし、話の内容もデリケートです。だからなのか、初対面の方でも驚くほど踏み込んだ話をしてくることがあります。「家族にも言えないことなんですけど…」なんて言われた日には、もう逃げられません。人の話を否定せず、淡々と聞いていると「この人には何を言っても大丈夫」という安心感を与えてしまうようで、いわゆる“話しやすい人”というレッテルを自然と貼られていくわけです。

法的な距離感と人間的な近さの不思議なバランス

法律に関する仕事というのは、本来はある程度の距離感を持って関わるべきものだと思うんです。感情に巻き込まれすぎると判断を誤ることもある。でも、現場では“人”としての関係がどうしても濃くなる。書類の手続きに来た方が、人生そのものを語りだすなんてよくあることです。仕事と割り切れればいいんですが、相手の言葉が妙に引っかかって、後で一人で考え込むこともしばしば。そのバランスが難しいんですよね。

肩書きよりも「個室で静かに話せる人」

たぶん多くの人にとって、司法書士という肩書きよりも、「静かな事務所でじっと話を聞いてくれる人」というイメージの方が強いんだと思います。カフェでも居酒屋でもなく、誰にも邪魔されずに話せる空間って、意外と少ない。そういう意味で、うちの事務所はちょうどいい“語り場所”になってしまってるのかもしれません。本人は依頼のつもりじゃなくても、「ちょっと聞いてもらっていいですか?」という流れはもう定番です。

事務所という空間が生む“心の吐露スペース”

事務所の応接室って、静かで落ち着いていて、人の心を開きやすくするんでしょうね。カーテン越しに光が差し込む午後、冷たいお茶を出して「おかけください」と言うだけで、もう“聞き役”の準備は整ってしまう。そうやって始まる会話のなかには、こちらが聞くべきこともあれば、まったく関係のない人生の話もある。最近では「話すとスッキリする」と言われることが増えました。でも私はスッキリしてないんですけどね…。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。