最後に消えた部屋

最後に消えた部屋

最後に消えた部屋

事務所に持ち込まれた古びた地図

「この地図、父の家が解体される前に見つけたんです」と言って、依頼人の女性は一枚の黄ばんだ紙を机の上に広げた。築50年の木造家屋の間取り図には、不自然に線が引き直された箇所があった。シンドウは老眼鏡をずらしながら地図を覗き込んだ。 「増築した跡…かな? けどなんでこんなに念入りに修正されてるんだ?」 サトウさんは黙ってスマホでその地域の航空写真を検索し始めた。事務所の空気が静かに緊張していく。

解体直前に起きた失踪事件

「ところで、隣のおじいさんが解体の前日から行方不明らしいんですよ」と依頼人が続ける。 えっ? なんでそんな話が今さら? 「警察も探したけど、特に怪しいところはなかったみたいで…」と彼女は言葉を濁す。妙に落ち着かない態度が引っかかった。 サトウさんが口を開いた。「その“行方不明”が、家と関係ある可能性は?」

地主の署名が欠けた委任状

相続手続きのために提出された書類を一通り確認していたサトウさんが、ピタリと手を止めた。 「シンドウ先生、これ、署名欄が一つ足りません」 確かに、土地の名義人が一部記載されていない。不動産登記法では致命的なミスだ。だがこれは、単なるうっかり…なのか? 「うーん、俺のミスじゃないといいけどな」と呟いたものの、心中は穏やかじゃなかった。

やけに丁寧な登記簿の記録

古い登記簿を調べると、増築部分の記録だけが異常に細かく記載されていた。材質、窓のサイズ、さらには壁の塗装の種類まで書かれている。 「こんなの普通じゃ見ませんね」とサトウさん。 「あれだな、ルパン三世のカリオストロ城の設計図みたいなもんか」 思わずアニメに例えてしまったが、雰囲気がそっくりだった。まるで誰かが“何かを隠すため”に作った空間のように思えてくる。

壊されたはずの部屋の存在

「シンドウ先生、見てください」 サトウさんが差し出したのは解体前後の航空写真。解体前に確かに存在していた一室が、解体後の記録から忽然と消えていた。 「物理的に解体されただけなら、報告書にも残るはずですよね。でも、それがない」 消されたのは部屋だけじゃない。記録そのものが、誰かの手によって消去されたようだった。

やれやれ、、、本当にあったのか部屋なんて

更地となった現場を訪れたシンドウは、立ち尽くしていた。 「やれやれ、、、これじゃただの駐車場だな」 風が通り抜ける跡地に、痕跡らしきものは見当たらない。だが、サトウさんはその視線の先で何かを見つけたようだった。 「この基礎の一部だけ、新しいコンクリートで埋められてます」

元請け業者の証言

後日、工務店の社長に話を聞くと、驚くべき証言が得られた。 「あの部屋だけ、やけに壁が厚くてよ。しかも中には何もないって言われてたんだけど…なんか妙な匂いがしてな」 報告書には、その部屋のことが一切記されていなかった。まるで“なかったこと”にされている。 「誰かが、記録ごと消すよう指示したんじゃないですか」とサトウさん。

掘り返された基礎と一枚の手帳

地元の高校生が心霊スポット扱いで夜中に敷地を掘り返したことで、警察沙汰になった。 ニュースにはならなかったが、そのとき発見されたのが一冊の手帳だった。泥にまみれた表紙には、消えた老人の名前が書かれていた。 ページをめくると、そこには過去の金銭トラブルの記録が克明に綴られていた。

失踪男性と隠された取引

手帳の内容は衝撃的だった。解体された家の主と、行方不明になった男性との間には金の貸し借りがあった。しかも、それが大きなトラブルに発展していたらしい。 「このままじゃ、裁判になってたかもしれませんね」とサトウさん。 だとしたら、“部屋”はただの物置じゃない。“隠す場所”としての意味を持っていたのではないか?

売買契約書の裏に書かれた暗号

さらに、依頼人が持っていた古い売買契約書の裏面に、奇妙な文字列が走っていた。 「ルパン三世で見たことありますね、こういうの」 サトウさんが冗談交じりに言ったが、その内容は暗号めいており、「その部屋は罪の隠れ家」と解読できるものだった。

消えた部屋にあった金庫

「金庫のサイズからして、どこにも運び出せないと思います」 サトウさんの冷静な分析が再び役に立った。重機で掘り返すと、土台のコンクリート下から破壊された金庫の残骸が出てきた。 中には遺品と思われるものや、封印された現金が。

土台の中に埋まっていた証拠

指輪、古い写真、そして、血のついた布。行方不明の男性の身元を示すには十分な証拠がそろっていた。 「最初から、こうなることを予想していたような手際ですね」とサトウさん。 犯人は、証拠ごと部屋を“解体”して消そうとしていたのだ。

書類の整合性が暴く真実

シンドウは地元法務局に照会をかけ、名義変更の際の不審な動きを突き止めた。 「ここの印鑑、以前に相続放棄したときのと違う」 本人確認のミスか、偽造か。司法書士としての専門知識が、真相への扉を開いた。

すべてが語られたあとで

依頼人は、家の中にそんな闇があったとは知らなかったと涙を流した。 「父が何かを隠していたなんて…けれど、ようやく終わった気がします」 シンドウは黙って頷き、深いため息をひとつ漏らした。

サトウさんのひと言と次の依頼

「先生、次はもうちょっと平和な登記にしませんか?」 サトウさんはいつも通り塩対応で締めくくる。シンドウは苦笑いを浮かべた。 「やれやれ、、、登記と謎は、深いとこでつながってるのかもな」

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓