なぜ確認作業は「終わらない」のか
司法書士の仕事において、確認作業は生命線です。たった一文字のミス、たった一桁の誤りが大きなトラブルにつながることは、業界に身を置く者なら誰しもが痛感しているはずです。だからこそ、「終わり」が見えない確認地獄に陥ってしまうのです。けれども、それは果たして本当に必要な確認なのか、自問する瞬間もあります。
司法書士業務における“確認”の重み
不動産の登記、商業登記、相続登記——どれをとっても一つの間違いがクレームや損害賠償に直結します。そのため、どの書類にも何度も目を通し、チェックリストを確認し、必要であれば事務員に二重チェックを依頼するのが日常です。それでも、不安が消えないのです。
一文字の違いが全てを壊す
以前、登記申請書に「東町」と「東町一丁目」を間違えて記載してしまったことがありました。たったそれだけで、登記が通らず、再提出。依頼人からは「プロのくせに」と言われ、自分の確認ミスを何度も悔やみました。確認を怠ったわけではありません。むしろ何度も見ていたはずなのに、です。
信頼を失う恐怖との闘い
この仕事は、信用が命です。どれだけ地味でも、どれだけ面倒でも、確認作業を怠れば一発で信頼を失います。特に地方では口コミが命。だからこそ、「もう十分」と思っても、ついもう一度確認してしまう。それがエンドレス確認地獄の正体なのかもしれません。
なぜ「これで十分」が言えないのか
作業に終わりが見えないのは、「自分の基準」が曖昧だからかもしれません。完璧を求めるあまり、どこまでやれば“安全”なのかが見えなくなる。自分で自分にダメ出しし続けてしまうのです。結果、他の業務が圧迫されていく悪循環が生まれます。
性格の問題か、それとも職業病か
慎重であることは司法書士にとって長所ですが、それが過剰になると逆に非効率につながります。たとえば私は、チェックリストを2枚使い、さらに最後は声に出して読み上げることもあります。それでも、何か漏れている気がして落ち着かないのです。
依頼人からのプレッシャー
「絶対に間違えないでくださいね」と笑顔で言われるたびに、「ああ、また重圧が来た」と内心うなだれます。期待に応えたい気持ちはあります。でもその言葉は、こちらにとっては刃物のように突き刺さることもあるのです。
事務所の現場から見える確認作業のリアル
うちは小さな事務所です。事務員は1人、私と2人体制。限られた人手の中で日々の確認作業を回していくのは、正直かなりしんどいです。気を抜いたらミスが起きる、でも集中しすぎると他の仕事が滞る。そのギリギリの綱渡りです。
ひとつひとつのチェックが止まらない
たとえば登記申請の前日。書類の最終確認をしていると、「あれ、ここも念のため確認しとくか」と次々にチェックポイントが増えていきます。まるで蟻地獄。抜け出したくても抜け出せない。チェック箇所を疑い続ける悪夢のような時間です。
確認しても確認しても、どこかに不安が残る
どれだけチェックしても、「本当にこれでいいのか？」という疑念が頭を離れません。結局、申請直前まで書類を持ってにらめっこしてしまう。仕事を終えても、帰り道に「あそこ、違ってなかったか？」と頭を抱える。こんな日々を、もう何年も続けています。
「二重チェック」がもはや日常
事務員との確認も一苦労です。こちらが神経質すぎると、相手の確認作業にも影響が出ます。だからといって任せきれない。結局、自分でも確認し直す。だったら最初から自分でやったほうが早い……そんな思考になってしまうのがつらいところです。
事務員に任せきれないジレンマ
うちの事務員さんはとても真面目です。ただ、やはり司法書士でない以上、責任の最終ラインは私です。「ここは自分で見ておこう」と思うと、任せられる範囲がどんどん狭くなってしまう。そして、結局自分で背負い込み、疲弊するのです。
信頼と責任の板挟み
「任せる」ということは「信頼する」ということ。でも、その結果ミスが起きたら、自分が責められる。だったら信頼せず自分でやるほうが安全、という思考になる。でもそれでは人は育たないし、いつまで経っても孤独なままなんですよね。
いつ止めるか、どこで区切るか
一番の課題は、「どこで終わりにするか」を自分で決められるかどうかだと思います。確認作業にはキリがありません。でも、何かしらの区切りをつけないと、自分が壊れてしまう。だからこそ、自分なりの“基準”を持つことが必要です。
自分ルールの必要性
私は最近、「3回確認したら終わり」と自分にルールを課すようにしています。不安が残るときはあります。でも、ルールがあれば「ここで止める理由」ができる。曖昧さを排除するためには、こういう線引きがとても大事です。
「ここまでやったら良しとする」基準を決める
たとえば登記申請前には「事務員とのダブルチェック＋自分で音読」という流れを固定化し、それでOKなら提出。そう決めてから、確認作業の時間が短縮され、精神的にも少し楽になりました。全てに不安を抱いていた頃より、ずっとマシです。
確認疲れを回避するには
確認作業そのものに疲れてしまうのは、本当に危険です。集中力も切れて逆にミスを生む可能性がある。だから私は今、確認作業の時間もスケジュールに組み込むようにしています。限られた時間の中で、集中してやる。それが今の自分には合っています。
チェックリストと時間制限の導入
チェックリストは視覚的にも達成感を与えてくれるのでおすすめです。そして「確認は30分まで」と時間制限をつけることで、だらだらと不安に付き合わずに済む。ルールがあると、自分を管理しやすくなります。
AIやツールの導入は現実的か
最近では文書チェックにAIを使う例も増えています。ただ、うちのような小さな事務所ではコストもネック。それでも、誤字脱字チェックなどのツールだけでもかなり助かります。人間がやるべき確認と機械に任せる確認を分けるのも、今後のテーマです。
それでも終わらない日々にどう向き合うか
どれだけ工夫しても、すべての確認を完璧に済ませられる日は来ません。でも、自分を追い詰めすぎないこと、そして「終わらないものだ」と理解することも大事です。割り切りと誠実さのバランス。そのあたりが、この仕事の難しさかもしれません。
ミスのリスクと心の平穏のバランス
神経をすり減らしながら完璧を目指すより、ある程度の安心ラインを設けて心の平穏を保つことのほうが、長くこの仕事を続けるためには大事だと感じます。私たちは機械じゃありません。多少の揺らぎがあっても、責任を持って仕事すればいいんです。
「全部は無理」を受け入れる勇気
「全部を完璧に」は幻想です。限られたリソース、限られた時間の中で、最善を尽くす。それで十分。自分にそう言い聞かせることで、少しずつですが気持ちに余裕が生まれました。確認作業に飲まれないこと。これも司法書士にとって必要なスキルなのかもしれません。
確認地獄を抜けるために
この仕事は孤独です。でも、同じ悩みを抱える仲間はたくさんいるはずです。ひとりで悩まず、共有すること、吐き出すこと。そうすることで、確認作業の重さも少しだけ軽くなる。そんな場所やつながりが、もっと必要なのだと思います。
「ひとりで抱えすぎない」という選択肢
完璧を目指すことは悪くありません。でも、それを「ひとりで」やろうとするのは限界があります。人に頼る、ツールに頼る、自分を許す。そういう選択肢があることを、忘れないようにしたいです。
それでも司法書士を続けたい人へ
大変なことも多い。でも、それ以上にやりがいもある。だから私はこの仕事を辞められないし、辞めたいとも思いません。確認作業に疲れ果てても、誰かの「ありがとう」で報われる瞬間がある。それが、司法書士の救いだと信じています。
