司法書士にとっての「夜」は、終わりじゃなくて延長戦
夜になると、「今日もやっと終わったな」と思うより先に、机の上の未処理ファイルを睨んでしまう。司法書士にとっての夜は、終業ではなく“本番の第二ラウンド”のようなもの。昼間は来客と電話に追われて、肝心の書類作成や調査は夜にまわされる。家に帰ると、リビングの電気は自分で点けないと真っ暗。コンビニ弁当を広げながら、スマホには仕事のメール通知だけが静かに鳴る。それが日常で、誰も驚かない。けれど、その当たり前に、ふと「寂しいな」と思う夜もある。
終業時間なんて、ただの数字
「午後5時までに連絡を」と書かれた書類を見るたびに、逆に笑ってしまう。そんな時間に仕事が終わることなんて、まずない。法務局は閉まっても、こっちの処理は終わらない。終業時間という概念は、都市伝説か幻のよう。朝の段取りどおりに事が進むことなんて、奇跡に近い。結局、夜になってからやっと自分の時間……と思ったら、それは「自分の仕事の時間」だったりする。この業界で「定時」は、ただの言葉だ。
「定時」という言葉は、いつの間にか死語になった
昔は会社員をしていた時期もあるが、そのときは17時になったらパソコンの電源を落としていた。でも今は違う。個人事業主、しかも司法書士。誰も「そろそろ帰りましょう」とは言ってくれないし、自分でやらない限り、どこまでも終わらない。事務員も帰って、電話も鳴らない時間。なのに、まだ自分だけが残ってる。そんな夜が続けば、「定時」という言葉そのものが、存在しないものに感じてしまう。
家に帰っても、頭の中は依頼人のことばかり
シャワーを浴びて、ビールを飲んでも、頭の中では「あの登記、あれでよかったかな」とぐるぐる。依頼人の顔が浮かぶ夜もある。特に揉め事が絡んでいる案件のときは、夢にまで出てくることもある。結局、どこにいても仕事が追いかけてくる。心の中にずっと残ってる。だから、完全に「オフ」なんて、実現したことがない。メールが届く限り、ずっと「オン」のままだ。
スマホに届く通知は、仕事ばかり
ポケットの中でブルッと震えるスマホ。パッと画面を見ると、「至急対応お願いします」「ご確認ください」の文字ばかり。夜の通知は、LINEじゃなくて、メール。それも行政書士や税理士からのもの。たまには「元気？」とか「飲みに行こう」なんてメッセージがほしいのに、そんなのは来ない。もはやスマホは、心を通わせる道具じゃなくて、仕事を突きつける端末だ。
メールの件名が「至急」ばかりになっていく
最近、メールの件名を見るとだいたい「至急対応のお願い」か「ご確認のお願い」。最初は気が引き締まったが、今では「またか」と溜息が出る。しかもそれが21時とか22時に届くのだから、油断ならない。クライアントも、相手の生活時間なんて気にしていない。それが当たり前になっているこの業界の空気に、どこかで限界を感じ始めている。
LINEの通知音だけは、なぜか心が期待してしまう
LINEの「ピコン」という音には、どこか期待してしまう。「誰かとつながれるかもしれない」という小さな希望。でも現実は、配達のお知らせか、LINE公式アカウントからのクーポン通知。本当は、たった一言「おつかれさま」がほしいだけなのに、それすら届かない。そんな夜、スマホの画面を伏せて、深呼吸するしかない自分がいる。
人恋しさと孤独のあいだで揺れる通知音
毎晩じゃない。でも、たまにふと「誰かに会いたいな」と思う夜がある。司法書士という職業柄、相談はたくさん聞くけれど、自分のことは誰にも話せない。話せる人も、いない。そんな矛盾に、自分でも苦笑してしまう。「疲れたな」「聞いてほしいな」と思っても、LINEの相手がいない。ただ、それだけのことが重たく感じる夜が、ある。
「誰かとつながりたい」は甘えか？
「孤独だ」と言うと、弱い人間だと思われそうで、なかなか口に出せない。でも実際には、心のどこかで誰かを求めている自分がいる。依頼人や職場の人たちとは話しているけれど、それは“役割”の会話。本当の自分の気持ちを話せる相手は、いない。「甘え」と言われたらそれまでかもしれない。でも、人は誰だって誰かとつながりたい生き物だ。
誰かに話したい、でも話せる人がいない
例えば、休日の昼間。ふと「カフェでも行こうかな」と思う。でも誰かを誘うわけでもなく、ひとりで行って、黙ってコーヒーを飲んで、スマホを眺めて帰る。誰かに話したいことはあっても、話せる相手がいない。その寂しさは、だれにも伝えられない。孤独って、大きな事件じゃなくて、こういう小さな積み重ねで感じるんだと思う。
忙しいと言い訳しながら、寂しさを飼い慣らしている
「忙しいから」「時間がないから」そう言って、自分の寂しさをごまかしている。でも、たぶん気づいている。本当は誰かとご飯を食べたいし、何気ないLINEのやり取りで笑いたい。けれど、そういう関係性を築く時間を、どこかで諦めてきた自分もいる。寂しさは消えない。ただ、慣れてしまっただけかもしれない。
それでも、また朝は来る
どんなにLINEが来なくても、どんなに心がくたびれていても、朝はまたやってくる。メールは次々届くし、登記も待っている。それでも、机に向かって、判子を押して、手続きの準備をする自分がいる。「誰にも届かない夜」があっても、「誰かのために働く朝」がある。そのことだけが、少し救いになる。
誰かを待っていた自分に、そっとおつかれさま
届かなかったLINE、返ってこなかったメッセージ。それを握りしめていた夜の自分に、「おつかれ」と声をかけてやりたい。仕事では頼られても、私生活では誰かに寄りかかることもできず、一人でバランスを取ってきた自分に。今日もまた一日乗り切った、その事実だけで、十分に立派だと思いたい。
LINEが来なかった夜にも、ちゃんと価値はある
誰かとつながれなかった夜でも、価値がないわけじゃない。誰にも褒められなくても、きちんと仕事をして、自分の役割を果たしている。そんな自分を、ちゃんと認めてあげたい。「孤独＝失敗」ではない。LINEが来なかった夜は、自分を深く見つめ直す夜だった。そう思えたら、少しだけ救われる。
今日を乗り越えたことが、たぶん一番の証明
誰にも気づかれない努力。誰にも感謝されない苦労。司法書士という仕事には、そんなことが山ほどある。でも、それを乗り越えて、今日という日を終えた。その事実こそが、何よりの証明かもしれない。LINEが来なくても、誰かと繋がってなくても、自分は自分の人生をちゃんと進めている。そんな自分に、静かに拍手を送りたい。
