誰かが言わないと永遠に変わらない気がする
「つまらない」と正直に言ってしまったら空気が壊れる――そんな場面に何度も出くわしてきました。仕事でもプライベートでも、なんとなく流されるままに「いいですね」と笑顔をつくる。地方の司法書士という肩書きも手伝ってか、周囲に求められる「大人の対応」にうんざりしている自分がいます。けれど、誰も本音を言わないからこそ、ずっと同じ退屈が続くような気がするんです。
無言の圧力に気づいてしまう瞬間
ある日の支部の会合。新しい研修動画が紹介されて「これは勉強になりますね」と誰かが言い、それに続いて全員がうなずく場面がありました。私もとりあえずうなずいたものの、内心は「正直、何を言いたいのかわからなかったな」と思っていました。でも、誰も異を唱えない。意見を言う場ではなく、同調を示す儀式のようなもの。そんな空気を読みすぎて、本音が行方不明になっていく感覚が怖くなることがあります。
会議で「面白いですね」と言わなきゃいけない場面
地域の役場との打ち合わせで、デジタル申請の導入についての説明がありました。内容は正直言って既視感のある話ばかり。でも隣の司法書士が「こういうの、今どきですよね〜」と楽しそうに笑う。私もつられて笑ったけれど、心では「全然ワクワクしない」と思っていました。つまらないと思っても、つまらないと言えない。あの瞬間、周りの期待に応えようとする自分が情けなくなりました。
SNSのノリに置いていかれる恐怖
最近、同業者がInstagramで「書類の山、でも幸せ!」みたいな投稿をしているのをよく見ます。見ていると、自分の感じている退屈や疲労は、どこかで「思ってはいけないもの」とされているような気がしてくるんです。面白がる力がある人ほど、今の時代には適応できているのかもしれません。でも私は、どうしてもそのテンションにはついていけない。SNSの投稿一つにも、時代の空気がまとわりついているように感じます。
言えないけど、つまらないものはつまらない
司法書士の仕事はやりがいがあるとよく言われます。実際、人の人生に関わる書類を扱うわけですから、大きな責任が伴います。でも正直に言えば、毎日が同じような書類作業の繰り返し。ときには「これ、何の意味があるんだろう」と思ってしまう日もあります。それでも口には出せない。言ってしまえば、仕事を否定しているように取られかねないからです。
感性を押し殺すのが仕事の一部になっている
登記簿の確認、委任状のチェック、郵送手配……。正確にこなすことが求められるからこそ、「つまらない」という感情は邪魔者なんです。感性を捨ててルーティンに身を任せる。そんな日々が長く続くと、自分の中の「面白がる心」がどんどんすり減っていきます。でも、それを口にすると「プロ意識が足りない」と言われそうで、結局また黙るしかないのです。
「空気読めない人」にならないための自衛
場の空気を壊さないことが最優先。これ、司法書士に限らず地方社会では常識になっている気がします。何かに違和感を感じても、「そんなこと言うの、あなただけですよ」と言われそうで怖い。私がつまらないと感じることも、誰かにとっては大切なルーティンだったりします。それがわかっているから、あえて何も言わずに流す。でも、自分を守るために黙ることが、逆に自分を苦しめる日もあるのです。
司法書士という職業にも漂う予定調和
登記の仕事というのは、基本的に「決まった型」に沿って進んでいきます。自由な発想が許される場面は少なく、むしろ正確さと効率が優先される。そんな中で、同じような手続きが延々と続くと、ふと「この仕事って、自分じゃなくてもいいんじゃないか」と思ってしまう瞬間があります。そして、その思いを飲み込んで、今日も「ありがとうございました」と頭を下げるんです。
案件の「お決まりパターン」に飽きがくる
たとえば、不動産の名義変更。委任状をもらい、登記申請書を作成し、法務局へ提出。特に問題もなく終了。ありがたい案件ではあるけれど、これを何十件とこなしていると、自分が作業マシーンのように思えてくるんです。失敗しないことが重要なのはわかっています。でも、「やる気」と「精度」は別物。やる気がすり減った状態で精度を保ち続けることに、いつか限界が来る気がします。
流れ作業のような毎日が心を蝕む
気づけば朝から晩まで、書類と向き合っている日々。事務員も真面目にやってくれているけれど、お互い無言のまま、ただ黙々と作業している時間も増えてきました。昼休みにテレビの話でもすればいいのに、気力が湧かない。毎日が似たような流れで、頭がぼんやりしてくるんです。それでも「やらなきゃいけない」から、止まることもできない。
やりがいはどこへ行ったのか
この仕事を始めたころは、確かに「誰かの役に立っている」という実感がありました。登記が完了してお客様が笑顔になると、それだけで救われた気がしたものです。でも今は、「どうせまた、同じような内容の申請でしょ」と思ってしまう。初心を忘れたわけじゃないけれど、やりがいがぼやけてきているのは確かです。気持ちが動かなくなってきている自分に、少しだけ怖さを感じています。