誤字脱字が命取りになる緊張感

誤字脱字が命取りになる緊張感

「一文字」の重みを知る仕事

司法書士の仕事において、「一文字の違い」はときに致命的になります。住所の丁目がひとつ違うだけで、登記手続きはすべてやり直し。依頼人にとっては信頼の損失、こちらにとっては信用の失墜。パソコンのキーボードを叩くたびに、手が止まる。たかが文字、されど文字。そんな世界で今日も仕事をしています。

たった一字で変わる法的意味

「東一丁目」と「東二丁目」。似たような文字列ですが、実務においては天と地ほどの差があります。登記内容に誤りがあれば、補正通知が来るだけならまだいい方で、重大なケースでは損害賠償に発展することもあります。一度、社名の漢字を一字間違えたことがあり、深夜に電話が鳴り止まず、胃痛に襲われたことが忘れられません。

登記簿に刻まれる責任

登記簿は公的記録として残るものであり、そこに記された情報は後々まで影響します。もし誤記があれば、それを修正するのは簡単ではありませんし、そもそも「なぜそんなミスを?」と責任を追及されます。誰かがチェックしてくれるわけでもない。最終的にすべて自分の責任なのです。

訂正が利かない書類のプレッシャー

法務局に出した書類は訂正が利きません。いや、正確には補正という手続きはありますが、それも一度きりのチャンス。もし補正期限を逃せば、依頼人との関係が一気に悪化します。以前、連休明けに補正期限をうっかり飛ばしてしまい、平謝りに謝った記憶があります。あの時の冷や汗と胃の痛みは今でもトラウマです。

精神的な負担の蓄積

毎日が細かい文字とにらめっこです。しかも、そのひとつひとつが「命取り」になる可能性を秘めている。そんなプレッシャーの中で仕事を続けていれば、当然、精神的にも疲弊していきます。人と話す時間よりも、文字を見つめている時間の方が長い仕事です。

書類作成時の常時緊張状態

誤字脱字を防ぐため、私は必ず2回は音読します。けれども、緊張が続くとその読み上げすら信じられなくなる。朝の集中力と夜の疲労度では、同じ文字を見ても見落としやすさがまるで違います。だからこそ、私は午前中に書類作成を集中して行うようにしています。午後は、できれば人とのやりとりに充てたいのが本音です。

ミスに対する過剰な自責

誰かが指摘してくれればまだ楽なんです。でも、司法書士の世界は基本的に「自己責任」。だから、何かミスがあると「なんであのとき、もう一回見直さなかったんだ」と自分を責めてしまいます。以前、ちょっとした表記ミスで依頼人から不信感を持たれ、数件の紹介が立ち消えになったこともありました。そのダメージは小さくなかったです。

誰にも言えない恐怖

間違えることの怖さは、誰かに相談して軽くなるものではありません。「慎重にやればいいじゃない」と言われてしまえばそれまで。だからこそ、この緊張感は自分ひとりで抱え込むしかないのです。弱音を吐く場も、正直ありません。

事務員にすら言えないプレッシャー

一人雇っている事務員さんは、本当に助かる存在です。だけど、細かなプレッシャーまで共有できるかというと難しい。下手に言えば「そんなに重いの?」と驚かれてしまう。それがまたしんどい。つい、黙って耐えるクセがついてしまいます。

孤独なチェック作業の実情

書類の最終チェックは、自分でやるしかありません。たとえ事務員が仮で作ってくれたとしても、最終的な責任はこっち。だから、夜遅くひとりで何度も読み返す日が続きます。読めば読むほど「見落としてるんじゃないか」という疑心暗鬼に陥るのも日常です。

確認しても安心できない日常

三度読み返しても、どこかで「これでいいのか?」と疑ってしまう。それが日常です。完璧にやったつもりでも、法務局からの通知ひとつで崩れ去る自信。何度経験しても慣れることはありません。それでも、今日も文字と向き合うしかないのです。

「見逃し」が人生を左右する現場

司法書士の業務は、表面上は「書類仕事」に見えます。しかし、その一枚が人の人生に影響を与えることも珍しくありません。だからこそ、見逃しは許されない。許されないけれど、完璧もまた難しい。このジレンマに毎日向き合っています。

依頼者の人生を預かる怖さ

ある相続案件で、戸籍の一文字を見落としてしまい、手続きが大幅に遅れたことがあります。その依頼者の方は、亡きお父様の遺産整理を早く終わらせたかったようで、申し訳なさでいっぱいになりました。「そんなつもりじゃなかった」では済まないのが、この仕事です。

失敗の影響は一生モノ

登記に誤りがあれば、その修正に時間がかかり、依頼者の生活や取引に支障を来す可能性もあります。ミス一つで「この先生には任せられない」と思われるリスクもあります。信頼は積み重ねるのに時間がかかるのに、崩れるのは一瞬です。

誰もフォローしてくれない世界

大企業のようにミスをチームでカバーする文化は、個人事務所にはありません。すべてが自分の責任。自分で立て直すしかない。だからこそ、精神的にきつくなることも多いです。仲間がいれば違うのかもしれませんが、現実には孤独との戦いが続いています。

それでも続ける理由

辛いことばかり書いてしまいましたが、それでもこの仕事を続ける理由があります。自分が役に立てたと感じる瞬間や、感謝の言葉をもらった時、その一言が明日の自分を支えてくれます。ミスは怖いけれど、それ以上に「誰かの役に立っている」ことの重みも感じています。

ミスゼロを目指す職人魂

この世界に完璧はありません。でも、限りなくそれに近づける努力を毎日しています。誤字脱字を防ぐために、自作のチェックリストやルールを作ったり、音読での確認を習慣化しています。ミスを恐れるからこそ、丁寧にやる。それが自分の誇りでもあります。

「ありがとう」の一言が救い

何よりの救いは、依頼者からの「ありがとう」です。「おかげで安心して手続きが終わりました」と言われた日には、しんどかった日々も少しだけ報われる気がします。だからこそ、また明日も緊張感と共に、書類と向き合っていくのです。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。