クリーニング屋しか予定のない日と遺言書の謎

クリーニング屋しか予定のない日と遺言書の謎

クリーニング屋しか予定のない日と遺言書の謎

「やれやれ、、、」
Yシャツを受け取るだけの土曜日、これ以上に空虚な休日はあるだろうか。

誰にも会わない休日に残された唯一の予定

朝9時、目覚ましもかけずに起きた土曜日。冷蔵庫には賞味期限切れの納豆と、冷や飯一膳分。サトウさんに「先生、たまには出かけたらどうです?」と言われたばかりだったが、出かける先といえばクリーニング屋くらい。

司法書士としての孤独なスケジュール

予定表には「白Yシャツ引き取り」とだけ書かれている。なんだか、スケジュール帳を開くたびに虚しさが膨らむ。予定の少なさはサザエさんの波平の髪の毛といい勝負だ。

サトウさんの「それ予定って言えます?」という冷静なツッコミ

昨日、事務所でそんなことを言われたばかりだ。「その予定、予定ですか?義務じゃないんですか?」とサトウさん。いや、確かにそうだが…。じゃあ逆に、何のために人はYシャツを預けるのか。

クリーニング屋に行く自分を鏡で見たら疲れが倍増

ヨレたTシャツにスウェット姿。司法書士とは思えぬ格好で歩く自分。鏡越しに見るその姿は、まるで推理アニメに出てくる「実は犯人だった隣人」のような雰囲気だった。

依頼人のキャンセルで空いた時間に舞い込んだ一本の電話

「もしもし、遺言書をお願いしたいんですが…」
名乗ったのは60代の男性、佐久間という名だった。突然の依頼だが、特に断る理由もない。

遺言書作成の相談はいつも急だ

不思議なもので、人は生き急ぐときほど遺言を急ぐ。「明日、午前中に会えませんか?」
……ちょうど、Yシャツを受け取った後なら空いている。

「この土曜しか時間がない」と言われたのは金曜の夜

偶然か、必然か。だがこのタイミングで遺言の相談が入ると、どうにも胸騒ぎがする。

その日、Yシャツを受け取りに行く予定が重なった

「午前11時、クリーニング屋で白Yシャツ受け取り。11時半、事務所で遺言書作成」。土曜なのに、妙に事務的な一日だ。

地味な依頼に隠された違和感

依頼人は、妙に口数が少なかった。言葉を選ぶというより、覚えているふりをしているような。

依頼人が妙に急いでいた理由

「今日中に公正証書じゃなくてもいい。とにかく残したい」
急ぎ方が尋常ではない。遺言を書く人間は、だいたい覚悟ができている。だがこの人は違った。

遺言の内容と態度にある小さなズレ

遺すべき相手が、やたら明確すぎる。配偶者や子どもではなく、遠縁の甥一人に全財産。これは…何かおかしい。

たかが書類、されど書類…サインの筆圧に宿るもの

サインに力がこもっていない。おそらく、自分で書いていない。誰かに「書かされた」か?

サトウさんの推理が動き出す

「先生、この人、文字が全部“右上がり”ですよ。普通年配の人って下がりますよね」
……なるほど。そこか。やはりただの休日じゃなかった。

「先生、これ変じゃないですか?」と言われてようやく気づく

「やれやれ、、、」
またサトウさんの方が先に気づいている。名探偵コナンで言えば、毛利小五郎が眠る前にすでに全部わかってるあの感じ。

遺言書の文体がまるで本人じゃない件

全体に使用されている敬語、文章の構造が妙に整いすぎている。まるで法律関係者が書いたかのように。

忙しさにかまけて違和感を放置したツケ

これは職業病かもしれない。案件が重なると、直感より効率を優先してしまう。

クリーニング屋の店先で見かけた黒い影

Yシャツを受け取り、帰ろうとしたとき、道路の向こうに見覚えのある顔が。佐久間氏の甥——依頼書の受取人だった。

そこにいたのは…依頼人の親族だった

なぜかこちらを見張っているようなそぶり。誰が何のために?まるで怪盗キッドの変装を見破った瞬間のような驚きだった。

偶然か運命か、場所が呼び寄せた証拠

甥の手には、同じような遺言書のコピーが。これは、捏造か?サインを比べれば一目瞭然。

白シャツの受け取りと共に浮かび上がる真実

「予定がクリーニング屋だけ」だと思っていた一日は、予想外の推理劇へと姿を変えた。
誰かと会わない日も、何かが動く。それが、司法書士という職業の奥深さだ。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。





私が独立の時からお世話になっている会社さんです↓